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51:伏見課長4

「金桂殿が元々居られた世界というところはどういうところだったのでしょうか。」

「大きな違いは、魔力が無いことです。いえ、全く無いかどうかはわかりませんね、一市民としての存在でしたが、理解の及ぶ範疇には、無いということになっておりました。しかし、神話やおとぎ話の世界には存在しておりました。空想の産物扱いですかね。そうなったのは恐らくこの百年ほどではないかと思われますが。」

「ほう。ではあなたはあくまで一市民だったわけですか。」

「はい。今の力はこの世界に来てからのもので、まだまだ自分にも未知数ですね。」

「わかりました。しかし、言語も含めて文化圏そのものが大変似通っていると思われます。そして金桂殿自身この世界の知識レベルにおいても相当な高さにあり、文化程度も大変高いと思われます。またハワイイについての知識もお有りのようで、現状のこの国の知識人すら知らない知恵や情報の引き出しをたくさん持っておられるように感じております。」

「ハワイイについては、この世界との立ち位置が違いすぎてなんとも大したことはないです。行ったことはありますが。カメハメハ大王とか。ワイキキとか。フラとか。アロハとか。そうですね。今思い出しましたが、確かカイウラニというとても美しい王女のことです。伏見さんはその方と皇族の方の血を引いておられるのですか。」

 伏見課長が目を見開く。

「はい、そうなんですが。当時の皇家王家の婚姻は、提灯行列などで確かに有名ですが、併合された現在のハワイイなど琉球より遥かに遠く、洋上の軍事拠点にすぎないですから。名前だけは知っているが、それがどこに有るかすら知らない、一般にはただの土人国家としか思われていませんから……。私は、本当に嬉しいです。その知識が、異世界の知識だとしても、私は嬉しいです。もしかしたら宗教の研究家かと思っておりましたが、いえ、耶蘇教や仏教にとても詳しかったので、しかしハワイイについてもちょっとありえないほどの知識をお持ちであり、それが大したことでないだけでなく、行ったことすら有るという。正直、良い意味での驚きでいっぱいですね。」

「ちょっと買いかぶられているような気はしますが、違う世界であるとすると、異なる体系の歴史や学問や社会構造の中に、異なる見解や情報の引き出しは多いとは考えられますね。」

「はい。まだ学問的にきっちり分類されていないようなのですが私や貴方のように、またこの村の大多数の住人や様々な場所に様々な外見の人間が共存しております。地域性が強く、世界的に見ても統一性がありません。亜細亜と欧州では違いすぎて、太古から様々な不幸が有りました。この外見の違いも魔力、昔風に言うと『キ』の違いによるものと解ってきていますが、これが無いということは外見上に違いも無いということなのでしょうか。」

「そうですね。大まかに言ってアジアは黄色人種、欧州は白色人種、アフリカは黒色人種という外見上の肌の色の違いによる表現はありました。またそれに伴う差別や争いはありましたが、正直この世界の人々は私にとって、まるで神話的な存在です。そういう意味では、私の居た世界では、ほぼ違いはないと言っていいでしょう。背の高さや体系、貌付きに伴う美醜の感覚はあれど、個性、で大体片付けられます。」

「そうですか……。それは、きっと争いの少ない、平和な世界だったのでしょうね。」

「いえ、恐らく全く違います。こちらの世界では、多分世界大戦は多分ありませんでしたよね、今まで。」

「世界大戦ですか。うーん、そういう言葉ありませんが……。」

「我々の世界では、世界大戦と呼ばれる戦争が2度ありました。2度めは、最終的に日本対世界という構図で実際に武力衝突を繰り返し、大勢の人的犠牲を払って、結果敗戦しました。」

 絶句して大きく口を開く伏見課長。しまった、これ言わんほうが良かったか。

「契機は、何だったんですか?」

「不平等条約の強制に対する反発、が筆頭だと思いますが、これは個人的な見解です。」

 伏見課長が眉根を寄せ、固まる。あー、こんな顔もするんやな、と呑気に思ってしまう。ちらっと腕時計を見る。腕時計!うわっめっちゃ欲しい!現代人として時間が分からんのはホンマに辛いねん、なんか落ち着けへんやん、ええなあ。めっちゃ凝視している視線に気づいたのか、伏見課長がふっと表情を緩める。

「諏訪精工舎のものですが、お気に入りましたか?」

「え、セイコーですか。自動巻きですか。」

「はい、父に賜ったものです。」

 父が賜うって、やっぱ血が青い系か、すげーな。

「金桂殿の世界にも精工舎はあったのですか。」

「はい、そうですね、何十年前か、ジュネーブのコンテストで世界一の精度を誇る機械式のムーヴメントを複数出品したがために、コンテストが開催されなくなったという逸話があります。」

「おおっ、そうですか……。時代は既にクォーツ全盛ですが、魔力の影響で所によっては狂いやすいんですよ。なので、私は機械派なんです。」

「ええ、私は元々機械が好きで、そういう業界で働いていましたから、細かい歯車やテンプの動きが見られる機械式時計が大好きですね。センサーのたくさんついた複雑なクォーツもいいですが、機械式のクロノグラフとか、いくつかコレクションしていました。」

「おお、本業は機械関連とは、これまた予想外な……。いえ、時間なんですが、そろそろ戻らないといけないんです。ですがあまりにも名残惜しい。」

「ああ、そうですね。」

 こう、趣味的に同好の士を見つけると、本当に嬉しい。

「お食事の準備ができました。」

 すっとすてが入ってきて座り、一礼して告げる。

「では、やはり私はこれで御暇するべきでしょう、すでに一時間近く予定を超えてしまっております。」

「そうですか、また明日お会い出来ますし。ところで、様々な外見の種族についてだけ少し教えていただけませんか。」

「はい。そうですね、このあたりであれば昔から迫害を受けて居られた土蜘蛛と呼ばれていた方々、今はかずらの人と呼ぶようにしていますが、これが一つ。おそらく平氏の落人村である大垣の一族の村人、これは何というか金桂殿に似た感じがあります。落人部落は多数あり、皆どこかしらそれと解る外見をしていますね。それから、元々犬神人の家系であった人々も多いですね。」

「そういった方々への対応と言うか配慮と言うかどう接するべきか、教えてもらえますか。」

「先程も申しましたが、国として差別を禁じる法案が以前から施行されております。ただ、なかなか一般レベルでの意識は難しいですね。畏怖の念や虞れをそう簡単に消すことは出来ないですし。だからこそ私のようなある種部外の民、埒外の神に近く、傍流ですが正統にも近いものが、こういった問題に向いていると判断されたのでしょう。母の影響でクリスチャン、カソリックの系譜ですが、曽祖父がスコティッシュの関係でケルトの神々も近くに感じられます。それに秋津島の神々、ハワイイの神々も近くにおられますので」

「それはすごいですね。ドルイドに八百万にカプ?は廃止されたんでしたっけ?何とかパパ?いや、聞きかじりですみません。あ、それより今のことです。」

「ああ、そうですね。とりあえず私自身はほぼ偏見なくあらゆる人と交わることが出来る自負を持っています。そして、遍くそうあれかし、と願っています。」

「わかりました。長々とお引き止めして申し訳ありません。」

「いえ、こちらこそ、有意義な時間でした。ではとりあえずお暇致します。」

 寺の門前で課長を見送る。既に取り込まれている感じがする。でも悪くない。変な方向には行かない予感は有る。この世界のこの国で、まあまあ上層に近い人物と知り合えたのは、よかったんだろうな。彼が来ることも高次元意識体は見越していたはずやし。

『そうですな。』

 ゆきはなんか不思議と偉そうやね。お前あんまり関係ないやろ。

『そうですな。』

 狐がにやりと笑ったような気がした。……こいつまだ繋がってんのかな、高次元意識体と。

 ……。狐は無言や。頭上を烏が旋回している。見張りか。さあ、楽しい昼飯の時間。


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