表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/85

36:安倍晴明は狐の血を引くけれど、その子孫がいまだに残っているのは、やっぱり日本独自かなと思っています。

 うろこ雲の穏やかな秋晴れの中、獣道とも言え無いほどの細道を登っていく。

 先頭には力強く錫杖で草を払いながらくろめさんが立ち、河童のあおいさんがそれをフォローしている。俺はその後ろで鹿杖を持ち、軽く汗を拭いながら遅れずについては行ける。

 ゆきと鵺と猫娘はじゃれ合いながら、すぐ後ろで楽しげだ。殿しんがりはやもりさん。

 森を抜け渓流を辿り疎林をくぐって再び森に入る。

 昼尚暗い渓谷や森には、様々な生き物の気配が満ちている。まだ河鹿蛙の鳴き声も耳に入る。蜩やツクツクボウシも鳴いているが、秋の虫たちがそこかしこで存在を主張する。

 鳥も、種類はよくわからないが、いろいろな声が聞こえる。鹿の鳴き声も聞こえる。

 やがて開けた場所に出る。

 ああ、絶景やね。何色もの緑山の連なりに、紅葉とまでは行かないものの、既に色を変えつつある木々。

 見渡す中に人工のマイルストーンは何もない。

「もう少しだな、この先に池がある。その畔にわしらの住まう庵があるのじゃ。ちょっと先に片付けてくるから、しらめが先導を頼む。」

 やもりさんが頷く。バッサバッサとくろめが飛んで行く。やっぱり空を飛べるのはいいなあ。なんか方法はないやろか。中空に氷かなんかを固定してその上を走っても、飛んだことにはならんしなあ。


 ガラガラドターンとか漫画のような音がして、庵からとろめが転がり出てくる。

 ドジっ子テンプレも良いが、ここでいまいち可愛くないのがリアル。

「代わる。」

 やもりさん、すすっと入っていく。静かやね、素早いね、さすがヤモリ。

「そうか、すまぬ。」

 バツの悪そうなくろめが寄ってくる。

「では先にお参りしよう。ほら、そこだ。」

 そこだが、遠くはないが、階段もなくかなりきつい傾斜の道を数十メートルばかり登らねばならぬようだ。しかしここからでもよく見える。大木、濃い緑。桜かな。その影になる位置に、白木の鳥居が見える。

 ブーツで来てよかったよ、下駄では無理だそんなスキルは現代人の俺にはないわ。

 登りきると小さな広場があり、下から見えた鳥居が在る。割と新しいように見える。

 その先に小さな祠があった。年季が入っているが、無骨なしっかりとした作りに見える。背後にはご神木であろう大木。注連縄が巻かれ、あちこちに苔生している。なんかね、この体になってわかるんよね、力とか、生命力とか。気とかオーラとかそんなもんかも知らん。この木は凄い、俺に匹敵すんじゃないか?もっとか?いや、木だけじゃないぞ、この祠の分も合せてや。

「作法はありますか?」

「いや、そんなものはわからない、ただ手を合わせてくれればいい。」

 杖を寝かせて地に置く。手を合わせ、目を瞑る。

『金桂殿と申されたか。この度はお働きいただき、申し訳ない。』

『お初にお目にかかります。氏神様でいらっしゃいますか。』

『ああ、そうじゃのう。土御門明春と申す。我が願いの為に、申し訳ない。』

 えらく低姿勢な神様だな。大体、そんなに何かをまだしていない。

『かねかつら殿と申されますか。私は桜の木であるところの遠雷と申します。何卒、くろめを、宜しくお願い致します。』

『御神木様でしょうか。こちらこそ、そのように丁寧な挨拶をいただき、過分にございます。』

『はい、桜に宿る精にて、白雷様よりご加護をいただき、明春様とともにこの地を安土してまいりました。』

『いや、わしなどが出来ることは極限られているのじゃ。それで申し訳ないが、萬の神に我が君に祈りを捧げておったのじゃ。なすべきことをなされるものを、この地に参らせてくれぬかと。千日満願叶うたのが三日前じゃった。』

『そうですか。』

 ああ、そうやね、なんかストンとこう納得したわ。いくら高次元意識体の爺さんに呼ばれたからと言って、ここからスタートなんは何でやろは思ってたからな。ちゅうことは、ってもう言ってはるな、くろめ達のことやねんな。

『我等が眷属たるくろめを見守り、しらめをも眷属として守ってきたが、そろそろ何もできなくなりそうでな。』

『私は間もなく寿命を迎えます。申し訳ないのですが、後を任せられるものを育てることが出来ませなんだ。くろめはそもそも白雷様の気紛れで生かされたもの。その生を自由に全うしてほしいというのが我々の願いなのです。その為に守っていただきたいのです。』

『くろめの件、その為だけに来て頂いたのではないのだが、この遠雷様は情の深い御仁でな。白雷殿の忘れ形見に思いを残しすぎておるのじゃ。遠雷殿の中では、まだ、あの日の小烏なのじゃろうが、もう立派な大人なのじゃから。枯れてゆく我が身、この地の精気とともに身を滅ぼす必要はないとうことを、また既に天狗は存在してはならぬということを、教えてあげてほしいのじゃ。』

『……。はい。お話いたしましょう。できるだけのことは致します。』

『ありがたいことです、何かお礼ができればいいのですですが……。』

『いえ、お気持ちだけで結構ですよ。まだあまりくろめ殿を知っているというわけではございませんが、人となりは理解したつもりです。まずは差し迫った危険を避け、後にどうしたいか、救われる道を探しとうございます。』

『本当にありがとう、良い人でよかった。そして強い人でよかった。満願成就じゃな。本当にありがたいことじゃ。』

 ああ、この箱入り天狗め、なんと良い保護者さんやねん、こういう環境でこそドジっ子は産まれるとでも言いたいんか。

『恐らく連れを待たせておりますので、後ほど、霊体のみで訪れてもよろしいでしょうか。できればそのときにお話の続きをさせていただければと思います。』

『おお、魂を飛ばせるのか。それは素晴らしい術者じゃのう。ただ反魂の法には気をつけられよ。まあ金桂殿の法力の前には弾かれるのが落ちかもしれぬがのう。』

『ありがとうございます。ではまた後ほどにて、失礼致します。』

 顔を上げ目を開くと、心配そうな顔でくろめがこちらを覗き込んでいる。狐と目が合う。

『ゆき、お前知ってたやろ。』

『何でもは知ら』

『もうええっちゅうねん、どっから知識拾うとんねん、せや、比丘尼の話もせんならんで。』

『はい。覚えておきますワ。』

「すみません、神様と少しお話しておりました。」

「そうか!会われたのか!とてもお心の広い、お優しい方たちであったろう!」

 まったく、甘やかされてるよなあ。

「ええ、本当に。では庵に戻りましょう。」

「そうじゃな!」

 また腕を組んでくる。……まあ、いいか。狐も、見ぬふりをしているな。案外気のいいやつだったりするんかな。あでもこれ、羽がくすぐったい。耳に擦れて、あぇ、いややっぱり離れようか……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ