17:状況の確認1
さーて。今からお仕事モードやねー。心をニュートラルにしましょう。
何を言われるか。
人外やし、異世界やし、文化も微妙なところやし。俺にとって悪いルートや方向性もあり得るが、恐らくとりあえずはその反対の方向性やろなあ。その上でどう対処するかやけど。誠意と本音でいかんとしゃーないよね。客先打ち合わせでは営業がいて俺がいて役割分担みたいなのが有って。互いにバランスとりながらストッパーをしてたけど、今回は一人やしなあ。まあある程度神様のせいにしとかなどうにもならん。
せやね。神様のせい。神様の遣わした俺。だけどどうしたら良いかわからん。力はある。恩義に報いる。出来ることはする。限定は大事やね、出来ることに限るよね。
「かねかつら様。」
全員揃って平伏しているで。なんかなあ、逆に圧力を感じるわ。
「うん。頭を上げてください。」
もう口調は戻さなな、これ以上あれを続けると瞬発力に劣ってまう。
「へへーっ。」
より恐縮してるん?
「話が進まないので、頭を上げてください。」
「はっ、承りましてございます。」
ゆっくりとゴブ父さんが体を起こす。頭はまだ下がっている。様式美やねえ。まあ、時間はたっぷり有るんやろうけど。
「私はそのように大層なものではありません。」
「いえ、かねかつら様は神様でございます。朝はどうしたらよいかわかりませんでしたので、そのままでしたが、これよりどうさせていただくべきかもわからず、お呼立ていたしましたこと、お詫び申し上げます。」
ああ。そうね。
神様。身近にいそうな社会やからなあ。氏神とか龍神とか普通に実在しているような感じやったしなあ。こんだけ色々やらかしたからには、特殊で脅威やから妖怪や鬼神扱いよりはマシというか、そういうことであると。
「私は神様そのものではないですね。神様の遣いというのが最も近いと思いますが。」
「神の御遣い様ですか……わかりました御遣い様。そのようにさせていただきます。」
あれ?なんかマニュアルでもあんの?
「まずはすてを眷属とし絶えずお傍に侍らしてくださいませ。御用の向きは今は私が伺っておりますが本来はとても恐れ多いこと、側女よりお伝えいただくのがよろしいかと存じます。またれいかも側女でも下女でも端女でも構いませぬのでお傍に侍らしていただけますか。」
「いや、えっと、ちょっと待って、待ってください。私は昨日こちらに来たばかりなので、あまり色々なことをわかっておりません。ですから未だそういった個人の責任を負ってしまうようなことは保留にしたいのですが。」
「すてについては元々身寄りもなく貴方様に大きくしていただきました。れいかについてはあなたの名前を知っております。仮のお住まいについては用意いたします。」
嫁にしろとか言っている訳ではないのだな……奴隷という言葉も無さそうだな……まあちょっと置いておこう。それよりもだ。
「とりあえずその件については検討しますね。それよりも知りたいのは盗賊ですか?落ち武者ですか?その者たちに対する情報です。対処の仕方を考えねばならないでしょう。」
烏天狗さんが苦しそうな悔しような表情で口を開く。やっぱり恐いな。
「やつらは……呪いをかけるのだ……ワシも一度受けて大変な目にあったのだ……」
そこからは口々に嫌そうな顔で皆が勝手に喋りだした。
「あのやまいぬ共はとても汚い言葉を使います……聞くに堪えない上に一度受けてしまうと……」
「ろくな力もない輩が、あの書のせいでとんでもなく迷惑なことを仕掛けてくるのでございます。」
「私も受けちゃったの、それからこんな……」
「私は本当に危なかったのだ、ムジナのやつめが……」
「はい、一度落ち着いてください。それはどのようなことか話せる内容なのでしょうか。」
そう言うと皆押し黙る。ゴブ娘達も烏天狗さんもゴブ父さんも明らかに顔が赤い……ん?これはひょっとして戦とかそういう暴力沙汰ではないのか?
「……何というか、その、羞恥を煽るような内容なのでしょうか?」
相変わらず無言で、意味ありげな目線でこちらを見るすて以外は顔を伏せたりそっぽを向いたり。苦々しげな表情である。
「分かりました、詳細は後ほどすてに聞くとしましょう。」
「申し訳ありません、ここから少し離れた溜池の脇にあまり広くはないですが寺が有ります。住職は大昔からいませんが、きれいに手入れはしております。寺子屋代わりに使われているところでございます。まずはそちらにお移りいただきとうございます。」
ゴブ父さんが言う。なるほど。寺子屋は寺子屋か。それなりに学があるのは、識字していそうなのはそういうことなんだろうな。ああ、もっとまとめて知りたいぞ。寺子屋が有るなら何らかのテキストが有るだろ。江戸時代なら論語とかか?何か手本帖のようなものがあるのか?すてのような親無し子でもあれだけしっかりした受け答えができるのは教育システムが根付いているからだろうか。
「はい。わかりました。そこには筆や書き記せるものが有りますか?あれば使いたいのですが。」
「はい、もちろんございます。ご自由にお使いください。すてに細かいことはお聞きいただければと存じます。」
良かった。流石に10を超えるチェックリストにToDoリストを頭の中だけで運用できるほど頭が良くないからなあ。しかしどうするかな。一度書き出してからメモでも取りながらまとめるほうが良いか。ならまずはすてに分かる範囲を聞いて、それからゴブ父さんかだれか聞く人も含めて確認したほうが良いか。すてでは知らないことが多すぎるだろうしな。そもそも幾つなんやろか。あんなしっかりした言葉、普通小学生では無理っぽいぞ。
「では早速参りましょう。」
歩いてみるとやはり一般的な農村の印象が強く、しかし戦前の地方に比べてよほどきれいに整えられており、不自然なほどに清潔な感じがする。なんかこう、洗練されすぎている。点在する年季の入った小屋の作りも、畝の作りや田圃の形状そのものも、よほど考えられている、行き当たりばったりで地形に合わせたのではない雰囲気。この辺りが、この世界の秘密みたいなもんか?
寺は、普通に寺だった。20畳から30畳ほどの板の間の向こうが腰ほどの高さになっており、そこに等身大よりも少し小さい結跏趺坐の仏像が真ん中に安置してある。外回りにもう少し小さい眷属の像が幾つか並んでいる。十二神将っぽい。仏様の前に分厚い座布団が有り、そこに何か居た。白いもふもふだ。何?
ひょこっと立ち上がるとてててと寄ってくる。白っぽい、狐か?ただ妙に犬くさい。サイズは少し小さい。全体に白いが尻尾と耳が黒っぽい。これはあれか、家畜化された狐か。たしかロシアで実験されてたやつ。
「私、神よりかねかつら様の下に遣わされたきつねにございます。」
俺の前にちょこんと座ると、やや高い声でそう宣う。俺はまあそんなに驚かない。やってねえ。定番やん。
でも寺に狐ってのが違和感バリバリ。周囲は全く驚いた風もなく、頭を垂れている。
「ご苦労様です。色々話せますか?」
「はい。ようやく完成しました、おまたせいたしました。」
俺の眷属として作ってくれていたんか。ありがとう神様。何というか、それならばやはり目的が有るんやろな、俺がこの世界にきた理由が。
『そうじゃ。汝の知識と言語ベースで理解できる範囲のことをすべて伝えることが出来るようになっている。宜しく頼むわ。』
はいはい、拾われた命、未だ痛い目にあったわけでもなく神様に仕えることに吝かではない。しかし何で俺なんだろうと思いながら、としおは狐を抱え上げた。
「後ほど名前を与えてください。」
「はい。考えておきましょう。」
ああ良かった、何が良かったと言って、かわいい。狐もふもふかわいい。




