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仮面協奏曲  作者:
7/7

おまけのおまけ

活動報告に載せていたものを移しました。

※お忍の王様が帰ったあと





「おまえ、本当に陛下の顔わかってなかったんだな」

「……そうみたいですね」


 自称ただのルーヴェンスが、騎士団長に連行されていったあと。

 片づけながらランスロットが呆れの目を凛子へ向けた。それについては言い訳のしようがない。気まり悪げに凛子は肩をすくめた。


「だって、花祭りのときはわけわかんなかったし。そのまま城までつれてかれても、王様と一緒だったわけじゃないし」

「まあな」


 ロッチェの花が降っていた広場の賑わいを思い出し、ランスロットが苦笑する。夏至の日。あのときはものすごく人が多くて、盛り上がりも最高潮だった。

 そんな最中だったのだ、着飾った凛子が現れたのは。


「顔なんて、あのとき覚えられなかったですよ。それからは謁見なんてなかったし、いきなり結婚とか言われるしでバタバタして。それで結婚式やらされたけど、王様を前に顔を上げるのは不敬だって言われたから」


 そのあとの初夜なんて、灯りは最小限。凛子だって初夜だ初夜だと思っていたら、緊張もするし戸惑う。顔だどうとか気にしている場合ではなかった。

 だから数日後に廊下で会ったとき、凛子が国王陛下に気づくことはできないわけで。むしろ、気さくに声をかけてくるのだから、陛下ではないだろうとさえ思っていた。身分の高い貴族なら、城のなかに入ることができると教えられたからなおさらだ。


「……ろくでもねえなあ」


 聞いているだけでも、丁寧な扱いとは言えない。素性のわからない相手だから、と言われればそれまでだが、そのカーミャリーコを側室に仕立てたのだから矛盾である。

 無精ひげのはえた顎をなでると、ランスロットは金槌を定位置へと戻す。作業台を拭き終えた凛子が、汚れたタオルをたたんで桶に入れた。腰にぶら下げていたタオルもそこに突っ込む。


「えらい人の考えはわからないですねえ。側室にしたくせに、歓迎しているわけでもないし。監視するにしても、ほかにやり方あったでしょうに」


 ランスロットの汚れたそれも受け取って、ふたり並んで、窯の火が消えたことを確認した。細い煙が空気に溶けていくのを見送る。


「なるほどね、それで愛想尽かして抜け出したってわけか。――女ひとりも幸せにできねえなんて、この国終わってんなあ」


 冗談半分、本気半分。

 ため息まじりのランスロットに凛子は笑った。ロッチェの女神が愛した国。凛子が迷い込んでしまった、白い花を愛でる国。


「そんなこと言って。ランスロットさん、この国大好きなくせに」

「うるせー」


 行くぞ、と話をぶった切ったランスロットに急かされて、凛子は灯りを落とした作業場をあとにした。

 ぶっきらぼうな言葉を最後に黙り込んだランスロットは、むっつりとした顔でくしゃりと髪をまぜる。まったく、素直じゃない。凛子はこっそり笑った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] このぶっきらぼうな感じが刺さる刺さる… それで仕事姿かっこいいとかやばいです。 [一言] もっと見守りたいです。大好きです。
[良い点] 面白かったです 二人の関係性が簡単に恋愛なるのでは無く、良き隣人として構築する姿が美しかったです 男二人が片方を下げることで選ばせるのでなく、しっかりとその人間性を描き、それでも共に歩けな…
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