Ⅶ
「着いたぞ、神楽。ほら、起きろ」
右肩をゆっくりと揺さぶられる感覚に、神楽はうっすらと目を開けた。そこには、つい先ほどまで目に映っていた闇はなく、代わりに赤とオレンジの陽光に彩られた車の座席が映っていた。虹彩をとおして伝わる眩しい光に両目を細めたまま、神楽が右手の方角に顔を向けると、遥が灰色のシートに左手を置きながら、眼前の少年の顔を覗きこんでいた。
「うわっ、びっくりした」
神楽が思わず素っ頓狂な声を上げる。遥は、それに怯む様子を見せずににっと口角をつり上げた。
「お疲れさん。着いたぜ、おれたちの本部に」
「本部に……って、あれ? 櫛夜那さんたちは?」
きょろきょろと自分と遥以外に人影のない車内を見回し、神楽が小声で口にする。そんな彼に目配せをするように、遥はちらと車の外に続く小道へと目線を向けた。
「女の子たちは、みんなもう移動してるよ。神楽にはこれから、おれと少しの間行動を共にしてもらうぜ。会わせたい人がいるんだ」
遥はそう言って、彼の右腕を制服越しに掴み、軽快な口調で告げる。
「とりあえず、おれたちも行こうぜ。あんまり待たせたら、おれが怒られるからな」
遥に半ば引っ張られる形で、神楽はゆっくりと立ち上がり、覚束ない足取りのまま車の外に出る。夕方になり肌寒くなった秋風が、神楽のシャツの隙間を介して、彼の素肌に鳥肌をびっしりと浮かび上がらせた。総身をがくがくと震え上がらせ、少し歯を鳴らしつつも、神楽はあらためて車の外の景色を目にする。
そこには、灰色のビルばかりが建っていた新東京49エリアとは明らかに違った、自然豊かな景色が広がっていた。緑の葉を多く蓄えた大小様々な木に混じって、深まった秋を象徴するかのように、黄色いイチョウやモミジが淡い色を浮かび上がらせる。それらは、疎らに散っている雲と、一面ピンクと紫色で彩られた空によって、神秘的とも思える光景に昇華していた。神楽が、しばらくの間目にしていなかった自然の美しさに目を奪われ、前後左右を見渡している中で、彼の視界の一端に薄いクリーム色をした施設が映りこむ。周囲の環境とは明らかに不釣り合いな施設を注視していると、横から遥の凛とした声が響く。
「あそこは、おれたち組織の本部。悠紀とおれたちは、あそこで共に生活し、そして長い戦いを続けているのさ」
神楽に会わせたい人も、あの中にいる。そう付け加えて、遥はあらためて神楽へと向き直る。遥の真剣なまなざしに、神楽は呆気に取られると同時に、言いようのない緊張感を感じ取り、それを和らげようと溜まっていた唾を一気に嚥下した。一陣の強い風が、二人の髪と服をにわかに揺らす。上空でゆっくりと動く薄紫色の雲が、一秒おきに光と影の微妙な変動を演出する中、遥は顔の左半分に暗い影を浮かべながら、ゆっくりと神楽に告げた。
「ようこそ。支配に抗う者たちの集う組織――『レーゲンス』へ」
Fortsetzung folgt




