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侍女暮らしのお邪魔虫夫人~結婚早々家から追い出されたので、趣味で小説を書き始めたら、いつの間にか人気作家になっていました~  作者: ゆずこしょう
裸の公爵様。

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お邪魔虫夫人。

「なぜ、君は今日もその格好をしているんだ?」


結婚式から一ヶ月――


コレットは今日もブリジット王妃の侍女として王宮で働いていた。


「その格好と言われましても……わたくしはあくまで……」


「あ~わかった、わかった……『侍女ですので』だろ?君の言いたいことは手に取るようにわかるよ。」


コレットはリュシアンが座りやすいように椅子を少し後ろに引いた。


「わかってくださっているのでしたらよかったです。」


リュシアンも自然に椅子の前に立って腰をかける。


そんな二人のやり取りを見て、ブリジットはクスクスと笑った。


コレットはテーブルの上に紅茶とケーキを出してから、ブリジットの後ろに立った。


「コレット、君も座って?」


「……ですが……」


「今は侍女としてではなく、公爵夫人として腰をかけてくれ。」


結婚式を終えてからも、コレットは未だに公爵夫人のままだった。


理由は簡単だ。


コレットが離婚するのを拒んだからである。


話は数週間前まで遡る――


結婚式が終わってすぐの頃、リュシアンはコレットを呼び出した。


『コレット。君には悪い事をした。本来であれば離縁というのはできないんだが、一応私の血縁者がやらかしたことだからね。結婚を無かったことにしようと思っているんだが、どうだろうか。』


『それは、他のご令嬢もですか?』


『もちろんだ。幸い、あの二人は教会にいたことで身の潔白も証明されている。まだ見つかっていない二人の女性は分からないが……』


今回の件で、全てが片付いたかと言われればそうではない。


まだ見つかっていない女性もいるし、ファンラット国の動向も分かっていない。


(側妃のことも残っているしな……)


リュシアンは次から次に出てくる問題に思わずため息を吐く。


『……で?君はどうしたい。』


『そうですね……』


コレットはカップを手に取ると、そのままゆっくり口につけた。


『あつっ……』


無意識の行動だったのか、紅茶を飲んだ瞬間目を見開き瞬いた。


『くっ……』


リュシアンの笑い声がコレットにも聞こえていたようで、ギロりと睨んだ。翡翠の目がキラリと輝く。


『わたくしは……このまま離婚しないでおこうかなと思います。』


『なっ、本気か?』


相当熱かったのか、フゥフゥと紅茶を冷ましてからもう一度カップに口をつけた。


『えぇ、こんなことで嘘を言っても仕方がないでしょう?』


『だが……もしかしてあの男のことが……本気で?』


『そんなわけないではありませんか。ただ……』


コレットはカップを見つめたまま動きを止めた。


そしてゆっくり顔をあげる。


(こんな笑い方もできたんだな。)


その笑みは、今までのような妖しげな笑みでも、いたずらを考えている子供のような笑みでもない。


どこか嬉しそうで、それでいて穏やかな笑みだった。


その笑顔に、心臓がどくりと脈打った。


『この名前が無くなると困るのです。『お邪魔虫夫人』ではなくなってしまいますから……』


コレットから出てきた言葉に、思わず言葉を失う。


(こいつ……それだけのために……)


『それに、結婚していれば父もうるさくありませんしね。』


『だったら別の男と……』


リュシアンはそこまで言って言葉を呑み込んだ。


(別の男……か。それはそれでなんだか嫌だな。)


『ふふっ。わたくしは貴族会でも有名な『ヴィンテージ・レディーンですよ?』この歳で独り身になっても相手などそうそう見つかりません。でしたら、好きに生きた方がいいではありませんか。まぁ……シルベリアンを名乗るのは嫌ですけど……』


『そうか……』


リュシアンはコレットらしい言葉にそれ以上言い返すことはできなかった。


そして現在――


彼女はブリジットの侍女として前と変わらぬ生活を送っている。


「公爵夫人として……ですか。仕方ありませんね。」


コレットは心底面倒だと言うような表情をこちらに向けると、空いている席に腰を下ろした。


「シルベリアン公爵の今後について、話が終わった。」


「……はぁ……」


自分の夫でも全く気にならないらしい。


「爵位は没収され、アデラールは離宮に幽閉される。もちろん私との約束があるからな。私の影武者として働いてもらうつもりだ。」


「そうですか。」


「それともう一つ。あの領地は一旦王家預りとするが、今回のことでボルダコリー伯爵に一部を渡すことになった。」


「へぇ~……お父様が管理できるとは思いませんけれど……」


「そこは考えてある。この際だ。お父上には退いてもらい、マリウスに継いでもらおうかと。そして伯爵から辺境伯へと爵位をあげる。」


「まぁ、それはいいですわね。ですが爵位は上げなくてもいいのでは?」


コレットは頬に手を当てると小さく息を吐いた。


「そこは……あれだ。見栄え的なものだ。それと、コレット……」


「はい?」


不思議そうな顔でこちらを見る。


「結婚を無かったことにしても夫人でいられる方法はないか考えてみた。」


ここに来て初めて興味のある話が出たのか、パッと表情が変わる。


「な、そんなことができるのですか?」


「あぁ……できる。」


リュシアンはそこで一旦言葉を切り、じっとコレットを見つめた。


「……?」


(普通の令嬢だったらここで顔を赤くするんだろうな。)


だが、コレットは不思議そうに見つめ返すだけだった。


リュシアンは小さく息を吐くと、ゆっくりと立ち上がり、コレットの前まで歩み寄る。


そして、片足を下げ、ゆっくりと膝を着いた。


「私と結婚して夫人にならないか?」


「……へぁ……」


まさかの言葉に、コレットは変な声をあげる。


(ちょっと、急に何言ってるのよ。)


確かに、夫人でいるためにそのままでいると言った。


だからといって、「自分と結婚しよう」と言うやつがいるのか。


(目の前にいたわね……)


「それはちょっと……」


コレットはリュシアンからそっと視線をずらす。


「なんだ?嫌なのか?それとも他に好いている男でも……」


リュシアンは身を乗り出した。


「いえ、そういうのはおりません。ですが……」


「……なんだ?」


二人の間に一瞬の静寂が落ちた。


その様子をブリジットが微笑ましい顔で見ている。


「肩書きが大きいでは無いですか。わたくしは侍女をしたい、ひっそり暮らしたい。影から皆様の様子を見守りたい。」


指折り数えながらやりたいことを話すと、人差し指をリュシアンに突きつけた。


「そして何より、お邪魔虫夫人として作家を続けたいのです!」


「……は?」


まさかの返答にリュシアンは目を見開いた。


(きっと断られると思っていなかったのね)


別にリュシアンが嫌という訳では無い。だが、コレットにとって王太子妃というのが重すぎる。


リュシアンは天を仰いでふうっと息を吐き出すと子供のような無邪気な笑顔を向けた。


「わかった。」


「……えっ?」


「君がそこまで言うなら無理にとは言わない。だが、一つだけ頼みたい。」


「なんでしょう?」


「正式に結婚する必要はない。だが、私の婚約者として……いや、仮の王太子妃として振る舞ってくれないか?」


「仮の王太子妃?」


「私には敵が多いからな。正式な妃を迎えるまでの間、必要な時だけ王太子妃として表舞台に立ってほしい。」


「ある時は王太子妃として、ある時は侍女として――」


リュシアンはそこで少し笑った。


「そしてある時は、夜蝶として私を助けてくれないだろうか。」


コレットは少し考えてから目を細めて口角をあげた。


「それは、それで面白そうですね。」


「だろう?では……」


「ええ、交渉成立ですわね。」


コレットが右手を出すと、リュシアンがその手を取った。


そして、自分の方に引き寄せるとコレットを抱きしめる。


(ここまでする意味があるのかしら。)


「これからよろしく頼む。お邪魔虫夫人。」


「こちらこそよろしくお願いいたします。」


ブリジットは和やかな様子で二人を見つめていた。


「では……手始めに……この王城の観察から。」


「それはいいな。君の連載を楽しみにしているよ。」


「まぁ、王太子に楽しみにしていただけるなんて光栄ですわ。」


***


それから数日後――


「今週の朝刊小説読みまして?」


「もちろんですわ。わたくしもその場におりましたけれど、小説で読むとひと味違いますわよね。」


サロンでは今日も貴婦人たちが集まっていた。


(なんで、黒服なんだ……)


サロンの店員の一人が店内を見渡す。


そこには先日までのカラフルなドレスを身にまとった貴婦人たちの姿はなく、暗めの服で統一されたシンプルなドレスを着ている貴婦人たちが集まっていた。


そう、それはまさに――


誰かを悼むようなそんな光景……


かと思いきや、話している内容はいつもと変わらない。


「わかりますわ。もちろん生で見るのも迫力がありましたけれど、お邪魔虫夫人の文章の方が楽しめますわよね。」


「ただ、ハスキーの最後はちょっと呆気なかったと思いません?もう少し、スカッとすることがあっても良かったと思うのですけれど……」


「そうかしら?わたくしはテリアン王子が近づいて口元で囁いた言葉にゾッとしました。」


「なんでしょうか。裏の意味が込められているようなそんな感じでしたわね。」


「あとは、騎士シェパードは……最後の最後まで笑わせてくれましたわね。おバカさんがいると物語も華やかになるのだと改めて感じました。」


「これでお話が終わりなんて残念ですけれど……お邪魔虫夫人の次回作が待ち遠しいですわね。」


「「「そうですわねぇ~」」」


その頃、コレットは――


「王太子妃さまぁぁぁぁ!!」


「ブリジット様。本日の紅茶です。それと、新しく作ってみたデザートなのですが……」


「まぁ、美味しそうね。」


「はい……今日は日差しが強いですからね。少しでも涼しくなるものを……と。」


今日もいつもと変わらず侍女として、そしてお邪魔虫夫人として新しい物語を書いていた。


「コレット王太子妃!やっと見つけましたよ!!」


「あら、見つかっちゃったわね……」


~完~

こんばんわ、ゆずこしょうです。

この度は『お邪魔虫夫人』を最後までお読みいただき、ありがとうございました(*.ˬ.)"

皆さまのおかげで無事完結することができました。

コレットの物語は、ここで一度幕を閉じます。

ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。


コレットがこの先、誰と結ばれるのか。

最後までリュシアンと添い遂げるのか……。

それとも、まさかのアンソニーなのか……。

作者的にはアンソニーも捨て難いのです……。


またいつか、お邪魔虫夫人の新しい物語をお届けできればと思います。

次の物語でお会いできることを楽しみにしています。

最後まで本当にありがとうございました(*.ˬ.)"


ゆずこしょう

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