プロローグ(挿絵あり)
目覚めるとそこは白い部屋だった。天井が見える。
視界の端から中年男性が私を覗き込むように現れた。
頭がぼーっとして働かず、私を見つめるその男に対してなんの感想も反応も出てこない。自分は寝起きはいいほうなんだが。
ゆっくりと上半身だけ起き上がる。
中年男は自分が寝ていたベッドの脇の椅子に座り、互いの目線が同じくらいの高さになった。
脳はまだ仕事を始める気にならないようで、言葉もなにも出ない。夢の中にいるようだった。
私も中年男を見つめ返す。
男は白人だった。知ってる顔ではない。
痩せぎすで少々奇妙さを感じる白衣を着ている。そうだ、白衣というよりトーガを思い出させなくもない。
少しして、無表情に私を見つめているその男が口を開いた。
日本語だ。
「おはよう。私の名前はピーター・デュエルと言う。見ての通り研究者だ。いろいろと聞きたいことはあるだろうが、まずはいくつか簡単な質問をさせてもらっていいかな?あなたの名前は?」
私の頭はまだぼーっとしている。
「平岡晴」
素直に、そして機械的にそう答えた自分自身に対し、私は困惑した。
ようやく脳が動き始める。
私の声が私の声ではない。どうして若い女性、あるいは子供の声なんだ?
強い違和感が私を襲う。
無職中年独身一般男性。45年間必死に生きてきた結果がこれだ、私だ。
ごめん、あまり必死には生きてこなかったかもしれない。客観的にはともかく主観的にはあまり不幸も感じていない。少なくとも禿げてはいないし。
しかし、非常に悔しいが私は不細工だ。容姿については強く不幸を感じている。
一方で、私に質問した無表情な白人男、ピーターの顔にかすかに喜色が浮かぶ。
「平岡君。もう少しだけ質問させてくれるか?君の住所は?生年月日は?」
ピーターから、お見合いというよりは履歴書に書くような内容の質問が続く。
お見合いの経験はないが、私は履歴書を書くプロだぞ。
困惑しつつも機械的に男の質問に答えていく。
同時に思い出してきた。
私は今、アメリカまで治験バイトに来ている。そうだ、そうだった。
この質問もなにかしらの検査か?いや、それも少々おかしいように感じる。
飲まされた試験薬が失敗作で、私は意識を失っていたとか?
私の声はどうして女に?私の身体になにか異常が発生したのか?
「最後の質問。今年は西暦何年だ?」
「202X年」
私がそう答えるとピーターは満足そうに頷く。
「そうだ。君にとってはそうだろう。だが実際にはそうではない。今年は西暦2542年だ」
どういうことだ?今は未来なのか?
私は周囲を見回す。特に未来的な感じはしない。よくわからない機械はあったが特に未来ちっくでもない。よく見るよくわからない機械だ。
研究者を名乗る男の言うことが事実なのだとしたら、私はコールドスリープでもしていたのだろうか。それにしても私の声はいったい?
困惑は解消されるどころか深まるばかりだ。
「君は平岡晴で間違いないね?そのはずだ。そして君はアイ・オコンネル。オコンネル取締役家の娘だ」
さあ、ますますわけがわからなくなってきたぞ。




