ガイウス・レインハルトという男
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海は、静かすぎた。
風はある。
波もある。
だが――何かが足りない。
「……妙だな」
甲板に立つ男が、小さく呟く。
ガイウス・レインハルト。
この船の船長であり、かつてはヴァルネシア王国海軍に所属していた男だ。
その目は、常に海を見ている。
経験が告げていた。
(こういう静けさは、ろくなことにならない)
視線を水平線へ向けたまま、ガイウスはわずかに眉を寄せる。
海面は滑らかすぎるほど穏やかで、風の割に波の立ち方が不自然だった。
ふと、過去の光景がよぎる。
――甲板を叩く血の雨。
――折れたマスト。
――海に吸い込まれていく叫び声。
あの時も、海は静かだった。
「……」
ガイウスは小さく息を吐く。
あれから、もう何年経ったか。
彼はかつて、王国海軍の中佐だった。
現場指揮を任され、多くの任務を成功させてきた。
だが――
ある戦いで、判断を誤った。
“霧の中に浮かぶ影”。
敵艦と誤認したそれは、後に記録不能の異形だったとされている。
砲撃命令を下した直後、海域全体が崩れるように荒れ、
味方艦の半数が沈んだ。
悲鳴と破砕音だけが残った海。
その事実は、上層部によって歪められた。
「戦果あり」
そう記された報告書。
「……違う」
ガイウスは、その報告を認めなかった。
失った命を、なかったことにはできない。
だがその結果、彼は軍を去ることになった。
責任を取る形で。
(守れなかった)
その思いだけが、残った。
――だから、海に戻った。
戦うためではない。
守るために。
人を、無事に目的地まで運ぶために。
それが、今の彼の仕事だった。
「船長」
背後から声がかかる。
「……どうした」
「異常はありません」
見張りは双眼鏡を下ろし、水平線を見回しながら首を振った。
空は晴れている。
雲は薄く、海は鏡のように光を反射している。
だがガイウスは即答しない。
数秒、沈黙が落ちる。
「……そうか」
短く返しながらも、視線は海から離れない。
その時。
――ゴォン。
鈍い衝撃音が、船の腹を内側から叩いた。
「……来たか」
低く呟く。
次の瞬間、船体がわずかに傾く。
右舷側の海面が、不自然に盛り上がった。
「衝撃!右舷下だ!!」
乗員の叫びと同時に、海が“裂ける”。
いや、持ち上がるように黒い影が浮上してきた。
ぬめりを帯びた巨大な触手。
甲板の支柱ほどの太さがあり、表面には無数の吸盤がびっしりと並ぶ。
「クラーケン……!」
誰かが息を呑むように叫んだ。
海中から、次々と触手が現れる。
一本。二本。三本。
船体の周囲を囲うように伸び、金属の外板をなぞるたびに耳障りな軋み音が響く。
「距離を保て!絶対に近づけるな!」
ガイウスの声が甲板に響いた。
即座に乗員たちが動く。
左舷側に設置された大型バリスタへ走り、装填を開始する。
太い鉄矢が滑車で引き上げられ、弩の溝へと固定されていく。
「照準、触手の付け根だ!」
一本の触手が船の帆柱へ絡みついた。
ギギギギ……と、木が悲鳴を上げるような音。
「撃て!!」
――ドンッ!!
重い衝撃音とともに鉄矢が放たれる。
空気を裂き、触手へ直撃。
だが――皮膚は分厚く、矢は数寸しか食い込まない。
「浅い……!」
ガイウスの目が鋭くなる。
(外皮が想定以上に硬い。通常の魔物とは違う)
触手が持ち上がる。
影が甲板全体を覆った。
「来るぞ!!」
――ドゴォン!!
触手が甲板を叩きつける。
木板が砕け、破片が散弾のように飛ぶ。
数人の乗員が吹き飛ばされ、ロープに叩きつけられた。
「負傷者を下げろ!動ける者は配置維持!」
ガイウスは叫びながら、状況を瞬時に整理していた。
損傷はあるが致命的ではない。
しかしこのままでは押し切られる。
そう判断した瞬間――
視界の端に、“異物”が映る。
「……なんだ、あれは」
甲板の一角。
そこに、一人の男がいた。
乗客のはずの男。
だがその立ち方は明らかに異質だった。
船の揺れに対して重心がぶれない。
周囲の混乱に視線を取られていない。
(戦場に慣れている……いや、それ以上か)
男は走っていた。
迷いがない。
その手には、小さな布袋。
次の瞬間――
男はそれを、クラーケンへ向かって投げた。
袋は弧を描き、空中で口紐がほどける。
赤い粉末が散布されるように広がった。
(粉……?)
それは風に流されることなく、クラーケンの開いた口へ吸い込まれるように落ちた。
一瞬の静寂。
そして――
「ギィィィィィィィッ!!?」
耳をつんざくような悲鳴。
クラーケンが激しく暴れ始める。
触手が制御を失い、海面を叩きつけ、水柱が次々と上がる。
(内部に何か……有害なものを?)
理解は追いつかない。
だが――今は好機だ。
「今だ!!撃て!!」
ガイウスの声が即座に飛ぶ。
再装填されたバリスタが一斉に放たれる。
「口を狙え!」
――ドンッ!!――ドンッ!!
鉄矢が開いた口腔へ吸い込まれるように突き刺さる。
暴れていた触手の動きが鈍り、やがて巨体が傾いた。
海が静まり始める。
そして――沈む。
ゆっくりと、深海へ消えていった。
静寂。
波の音だけが戻る。
誰も動けない。
やがて。
「……助かった、のか?」
誰かがようやく呟いた。
ガイウスはゆっくりと視線を向ける。
あの男へ。
息は上がっている。
だが姿勢は崩れていない。
(こいつが、やったのか)
常識ではありえない。
だが結果は、目の前にある。
ガイウスは一歩、近づく。
そして低く問う。
「……今、何を投げた」
男は少し困ったように視線を逸らし――
「……調味料、です」
一瞬の沈黙。
(……は?)
こうしてガイウスは、ユウと出会った。
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