表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/219

95.再び光に

日が沈み、街は夜の帳に包まれていた。

噴水広場には、どこか沈んだ雰囲気を纏った二人の姿があった。マリとオリビア――そして最後に姿を見せたのは、ルカだった。


「お待たせ……」


馬車から降りたルカは、少しだけ笑って見せたが、その表情にはやはり疲れがにじんでいた。


誰もが、何かを抱えていた。

わかりきっていた。誰も言わなくても。


「それでは、再びヒルダ母さんのもとに行くのね」


オリビアが静かに口を開いた。

その声もまた、どこか張りつめていた。


「でも、ここではファルコンは呼べないのね」

「町外れまで歩くしかないね……」


マリがそう言って頷くと、三人は黙って歩き出した。




町はずれの草原に向かう途中、マリがぽつりとつぶやいた。


「……『戦争になるかも』って、聞いたの……」


不意に口をついて出た言葉だった。

押し込めておくには、重すぎた。


ルカも頷く。


「私の家も同じだった。兵を出すって……父が……行くって……」


重い空気が漂った。


「……私も、掴んだ情報があるのね。でもそれは……ヒルダ母さんに会ってから話すのね」


オリビアの瞳には、いつもの飄々とした雰囲気はなく、鋭い意志の光が宿っていた。




町はずれに着いた4人。

草原の中心で、オリビアが空を仰いで両手を掲げた。


「来るのね、ファルコン!」


その声に応じるように、暗い夜空を割って風が舞った。

音もなく、大きな翼が空を横切る。

旋回しながら、ヒルダの従魔・ファルコンがゆっくりと降りてきた。


「さ、乗るのね!」


オリビアが元気よく言うが――一人だけ、表情が絶望に染まっていた。


「こ、これだけは……再び乗りたくなかった……」


顔面蒼白、涙目のマリだった。


「うぅ……地上……地上が恋しい……」


ファルコンが大きな翼を広げ、力強く地を蹴った。

重力が一気に消え、夜空へと舞い上がる。




しかし――そのときだった。


「――え?」


マリがふと気配を感じて振り返った瞬間、紫色の光が視界に差し込んだ。


「なっ……!」


光の矢――魔法の矢だった。

ベンゲルの市街地中心部から放たれたそれは、ファルコンの左翼をかすめて飛び去った。


「攻撃!?」


「こっちに向かって……!」


次の瞬間、数本の光の矢が次々と空へ放たれた。

その軌跡は、確実に彼女たちを狙っていた。


一瞬にして緊張が走る。


   オリビアは無詠唱で杖を召喚し、両手で構えた。


「ディフェンス・シールド展開!」


淡い緑色の魔法障壁が、ファルコンの周囲を覆う。

その刹那、光の矢が魔法壁に突き刺さった。

鈍く重い音――だが、まだ貫かれてはいない。


「くっ、あと何本か……!」


マリも短杖を握りしめ、ルカも構えの姿勢をとる。

だが、矢の数が多い。防ぎきれない。


「お願い!飛んで! ここから離脱するのね!」


オリビアの叫びに、ファルコンが翼を大きく広げ、体を傾けて旋回――そして一気に最高速へと移行した。


視界が揺れ、身体が強く押し付けられる。


「きゃああああああああああ!!!」


マリの悲鳴が夜空に響く。


光の矢が次々と魔法壁に突き刺さっていくが、ファルコンの加速がそれを上回り、光の矢は次第に置いてていかれていた。




風が止んだとき、広がっていたのは星々の世界だった。


誰もが無言だった。

ただ、静かに息を整えていた。


「……あ、危なかったのね……」


オリビアが杖を降ろして、深く息を吐いた。


「誰が……何のために……」


「ベンゲル……スタンハイム王国が攻撃をしてきたってこと……?」


ルカの目が鋭く光る。


「――とにかく、今はヒルダさんのもとへ」


「そう……急ごうなのね」


ルカとオリビアが決意を固める中――







「む、無理……やっぱり……わたしには無理……」







マリは涙と鼻水を流しながら、ファルコンの背中で完全にぐったりしていた。


「高いところがダメなのね、マリ……」


オリビアがぼそっと呟いたが、マリはもはや聞こえていなかった。




そして、彼女たちを乗せた影は、夜空を切り裂いて――

再び、ヒルダのもとへと飛び去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ