表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/219

85.供養

森の奥深く。

見慣れた景色、懐かしい匂い、聞き慣れた風の音。

そこに、あの小屋があった。


朽ちず、変わらず、凛とした佇まいで――。


「……戻ってきたな」

カイがポツリと呟いた。


「うん……ほんとに……」

ミーアも小さく返す。


オリビアは黙っていた。というより、なにか大事なことを思い出したくなさそうな目をしていた。


3人にとっては、懐かしい我が家のような場所。

けれど、それ以上に今は――


「ただただ、怖かった!!!」


彼らの脚は、まるで生まれたての小鹿のように、震えていた。


後ろでマリとルカが、緊張から背筋を伸ばしながら小声でささやく。


「カイ……ここが、あの黒の魔女の家なの?」


「うん……でも、気をつけて。今日はナスを焼いたやつがいるから……」


その瞬間、オリビアがビクッと肩を揺らした。


「まだ怒ってないかもなのね……もしかしたら気付いてないかもなのね……」


その願いは、次の瞬間、音を立てて崩れた。


――ドォン!


小屋の裏手から物凄い足音が聞こえた。


出てきたのは、石でできた巨大なゴーレムのゴーレムンだった。


ただし、その両手には――


一本の焼け焦げたナス。


そのナスをじっと見つめながら、カイたちに向けて、無言で近づいてくる。


「き、来た……!」

カイが引きつった笑みを浮かべながら呟く。


ミーアは小声で「絶対あれ、ナスの弔いしてる……」と震えながら言った。


ゴーレムンが口を開いた。低く、石がこすれるような声だった。奇跡だった。


「ダレ……ナス……コガス……」


「こ、これは……」

オリビアが一歩前に出て、声を震わせながら手を挙げた。


「……ワタシなのね……」


その瞬間、ゴーレムンの目が緑から赤に変わり点滅した。

そして、おもむろに後ろを振り返る。


中から出てきたのは――


黒のローブに身を包んだ、凛とした女性――ヒルダだった。


「ただいま帰りましたぁあぁぁ……!!!なのね!!!」

オリビアが泣きながら地面を滑り、正座する。


ヒルダは、しばらくその様子を見ていたが、やがてため息をついた。


「……オリビア。久しぶりに顔を見たと思ったら……うちの畑を灰にしてくれるなんて……成長したのね……」


それが褒め言葉でないことは、誰の耳にも明らかだった。


ヒルダがゴーレムンに手で合図をすると、ゴーレムンは静かにナスを供養台のような場所へと運び始めた。


「ナスに……供養台……成仏するの……!?」


マリとルカが小声でつぶやくと、ミーアが一言、ぽつり。


「ゴーレムンの畑のナスって、育つのに5年はかかるのね……」


「え!?5年も!?」


「……やっと育ったのに、焼かれたのね……」

ヒルダの声に、再び場の空気が凍りついた。


カイは、震えて泣くオリビアの肩をポンポンと叩きながら言った。


「ま、まぁ……これからナス以上に大事な話があるからさ……うん……勇者とか、フォースドラゴンとか……」


ヒルダが眉をひそめる。


「……入って。ナスの件は後回しにするから、まずは話を聞かせな」


「……ありがとうお母様あああああぁぁああああっっ!!!なのね!!!!!」

オリビアが再び地面に額をこすりつけながら泣いた。


こうして、一行は緊張の中、小屋の中へと足を踏み入れた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ