78.デュラハンからの伝言
「……フォースドラゴンが、神の使者……?」
重く沈んだ空気の中、ルカが小さくつぶやいた。
古代魔術研究室の一室。カイの報告を受けた四人は、深刻な面持ちでテーブルを囲んでいた。紅茶の湯気すら揺れるのを忘れたように静まり返っている。
「この星の守護者……か……」
マリが呟いたその言葉に、誰も返せなかった。
「本当に……そうなの? フォースドラゴンって、人間世界を破壊する化け物だって聞いてたけど……」
ミーアが不安げにカイを見上げる。カイは少しだけ迷ったように視線を落としたが、静かに頷いた。
「ビーブルは言ってた。フォースドラゴンは、本来、自然を守る存在で、戦うための存在じゃないって。むしろ、昔の人間たちがそれを恐れ、勝手に敵視して、勇者を召喚したんだって……」
「……なんで……」
オリビア先生が、手にした紅茶のカップを机に置いた。小さくカチリと音が鳴った。
「つまり、勇者って存在そのものが……誤解された正義なのね……?」
「……その可能性はあると思います」
静かにカイが言った。
「前回は、殺されはしなかった。封印だけだったから、自然のバランスは保たれた。でも……今回はどうか分からない。もし勇者がフォースドラゴンを討伐してしまったら……この星そのものが死ぬって、ビーブルは言ってた」
「そんな……!」
ミーアが目を見開いた。
「そんなの、勇者のやってること、ただの破壊者じゃない!」
「……知らずに戦わされてるとしたら?」
ルカの声が冷たく響く。
「そうだな……。問題は、勇者が“正義の使者”として、この星に降り立っていることだ。真実を知らないままなら、フォースドラゴンと戦ってしまうかもしれない……」
カイの言葉に、重苦しい沈黙が落ちた。
「……じゃあ、どうすればいいのからしらね?」
オリビア先生が、首を少し傾げ、いつもの飄々とした口調を押し殺して問いかけた。
「二つ、考えがある」
カイは立ち上がり、ゆっくりと歩きながら言った。
「一つは、今どこかにいるはずの“勇者”に会って、この真実を伝えること」
「そして、もう一つは……?」
「フォースドラゴンを探して、どこかに逃がす。誰にも見つからないように」
「……けど、勇者がどこにいるかも分からないし、フォースドラゴンの場所だって……」
「両方、当てのない話なのね……」
オリビアの言葉に、皆がうつむく。
「……でも、勇者のことなら……ひょっとしたら……」
ぽつり、とミーアがつぶやいた。
うろ向きに話していたカイが振り向きながら言う。
「フェイ、あのポンコツ女神……何か知ってるんじゃないかな?」
「え?誰……?」
マリ・ルカ・オリビアが思わず聞き返す。
「俺たちはエステンの北にある森から来たんだけど…… まぁ色々とあって自称女神と言う奴が
俺たちの前に現れたんだ、そいつは勇者を召喚する女神らしいんだけど、この勇者を
召喚するのは違う女神らしいが… 何か知っているかもしれない。」
「…………」
カイの言葉に黙り込む、マリ、ルカ、オリビア
マリがカイとミーアの目を見て聞いてきた。
「その、女神……? 本当にいるの?信じられないけど……」
カイはマリの両肩に手を置いて、静かに答える。
「まぁ確かに、信じられないような話だが……デュラハンがいる世界だぞ……女神や神が居たって不思議じゃないよ……」
そりゃ、いきなり神や女神だと言われても信じられるか、そりゃマリの言う通りいきなり信じろと言われても半信半疑にもなれないよな。
「女神のことや、”俺”のことは後でゆっくりと話そう……マリとルカ、それにオリビア先生には知ってて欲しいことがある……」
いつになく真剣な眼差しのカイを見る3人、みなして息をのむ。
そして、ルカが静かに立ち上がった。
「今、動かなきゃ。世界が終わる前に」
その言葉に、皆の顔に決意の色が浮かぶ。緊張と焦燥の中、ひとつの方向に意志がまとまっていくのが分かった。
カイは静かに頷き、紅茶のカップを取り上げた。そして一口含むと、ふぅっと息を吐いた。
「……いくか。森に帰ろう。そしてフェイに会おう」
五人の視線が交錯し、決戦前のような静かな覚悟が場を支配した。
そして――
「フェイ、頼むから今度ばかりは”うっかり”しないでくれよ……」
そのカイのつぶやきに、ミーアから苦笑が漏れた。




