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71.ヒルダの日常

スタンハイム公国エステン北にある、大森林、通称『呪いの森』。


森の北側にそびえる火山の影響で、森林全体が魔素の濃度は非常に高く、それが原因で強力な魔物たちが生まれ住み着いている。

その中でも、特に人々の脅威となっているのがランクA〜B相当の魔物、ブラッディウルフ。


この魔物の存在が、森を人々の立ち入りを拒む場所へと変えている。


――でも、それは私にとっては好都合だ。


私はこの森にひっそりと暮らしている。名前はヒルダ。いわゆる“黒の魔法使い”と呼ばれている存在だ。


毎日静かに、ゴーレムンと過ごしていたが、ある日それは変わってしまった。

転生者カイによって……


今の私の日常はというと、弟子たちの修行を見守ることが大半だ。

今、私の小屋に住んでいるのは二人――カークと、ダメな女神フェイ。

そして、時折姿を見せるカイの従魔、クロも一緒にいる。


フェイは、いつも私のことを恐れていて、目が合うだけで肩をすくめて飛び退く始末。距離を保ちつつ、せっせと雑用をこなしている。

天界へは何らかの理由で帰れないらしく、その点は私もあまり詮索しないようにしている。


もう一人の弟子、カーク。

彼は剣士として強くなりたいと志願してきた。初めて会った時、私が師匠と知った瞬間に気絶したのも、今となってはいい思い出だ。


「ヒ、ヒルダ様、今日のメニューは……も、森の大木ですか?」


「そうだ。昨日より硬くていいのを見つけた」


「また筋肉痛が……」


彼には魔法剣士としての素質がある。センスは悪くない。ただし、どうしてもカイに比べると、全体的なパワーが足りない。

カイが特別なのか。転生者としてこの世界に来た影響で、すでに常識外れの力を持っている。


でも、私はカークをそれ以上にしたい。いや、するつもりだ。


そのために、私はある修行メニューを用意した。


――筋トレ。


「さぁ今日は腕の日だ。薪割りの要領でこの岩を粉砕してみせろ」


「……岩!? それ、木じゃないですよね……」


「文句を言う前に筋肉に聞け」


筋肉という概念を知ったのは、カイの影響だった。

彼から聞いた“部位別に鍛える”という概念に、私は深く感銘を受けた。

その上で、この森に生えている特殊なキノコ――通称“超回復キノコ”を摂取させ、効率的に筋肉を育てている。


カークの身体は確実に変わってきていた。


「最近、アーマーがきついです……特に太ももと胸板が……」


「ふふん、それでいい。力こそ正義だ」


さて、そんな厳しい修行の合間、私はといえば――


朝は森の魔素濃度の計測、そして火山活動の観測。

これが終われば、あとは……特に何もしない。


朝から晩まで、古代魔法の書物を読みふけっている。


「この世界に、知らない魔法などない」


それが私の信条だ。


とはいえ、最近気になることもある。


――それは、「シワ」。


エルフ族である私の年齢は、500歳を超えている。

人間換算すれば……30代か40代程度だろうか。


鏡を覗き込む。


「……目じりに、やはり……シワが」


あの転生者、カイから聞いた“化粧品”という文化。

私はそれに強く惹かれ、自作を試みるようになった。

夜な夜な調合を繰り返し、ついに“乳液”なるものを完成させたのだ。


「ふふ……これで少しは……」


毎晩、寝る前にそれを塗る。

肌の手入れも、欠かさない。

最近では、日中の紫外線を防ぐために、フード付きのローブを一日中着ている始末だ。


カーク曰く、「魔女みたいだ」




……さて、夜の乳液タイムの準備でも始めるとしようか。

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