7.ミーアの訓練
鳥のさえずりが、静かに森の朝を告げる。
「カイ……朝だよ。起きて」
小さく優しい声が耳元に届き、カイは寝返りを打った。
「ん〜……あと10分だけ……」
それでも布団にしがみついて離れないカイを見て、ミーアは困ったように笑う。
「先生が怒るよ?」
「うわっ、それはヤバいやつだ!」
カイは目を見開き、慌てて飛び起きる。
目をこすりながらベッドから抜け出すと、ミーアがくすりと笑っていた。
短く切られた青い髪が朝日に照らされ、耳の長いシルエットが揺れている。
数日前まで怯えて言葉も少なかったミーアが、今では笑顔で起こしに来てくれる。
その変化が、なにより嬉しかった。
「おはよう、ミーア。起こしてくれてありがとな」
そう言って、そっとミーアの頭を撫でた。
「えへへ……おはよう、カイ」
◆
朝食のテーブルには、それぞれの朝が並べられていた。
ヒルダとミーアの皿には、焼きたてのパンとチーズスープ、それに果物が数種。
一方カイの皿の上には、茶色くこんもり盛られた――
「今日も……キノコごはんか……」
ホカホカと湯気の立つ山盛りのキノコごはん。森で採れる野生キノコが、炊き込み風にされている。
「文句あるのか?」とヒルダが目線だけで威圧する。
「いえ、今日もありがたくいただきます……」
ヒルダがパンをかじりながら口を開いた。
「今日から訓練内容を変える。午前は模擬戦だ」
キノコを吹き出しかけたカイが、むせながら顔を上げる。
「も、模擬戦!? 相手って……まさか!」
「そうだ、私自慢のゴーレムだ!しかも特製ゴーレムンが相手だ」
訓練場。森の中に設置された平らな土の広場に、金属の響きが鳴り響く。
「ゴーレムン、起動」
ヒルダの合図とともに、魔法陣が展開し、魔力の光を放つ装甲が姿を現す。
全高2メートル、厚い魔力装甲で覆われたその姿は、まさに鉄の巨人。
「やあああああっ!」
カイは叫びながら剣を振るい、一直線に飛び込んだ。
ゴーレムンの反応は速かった。拳を構えたまま、一瞬のうちに正確なカウンターを打ち込んでくる。
カイはそれをなんとか回避し、地面を滑るように移動して背後を取った――が、
ガガンッ!!
「ぐあっ!」
肘鉄が腹部に直撃し、カイの体が空中を回転して地面に叩きつけられた。
それでもすぐに立ち上がる。
「まだだ……まだ終わってねぇ!」
カイの動きは日々鋭くなっている。だが、ゴーレムンの動きはそれ以上に洗練されていた。
体重移動を見切り、攻撃のクセを読み取り、わずかなスキを突いて叩き潰す。
しかも、ヒルダによって新たな魔法指令が追加されていた。
「火炎カウンター起動」
ゴーレムンの拳が赤熱化し、攻撃を受け流すと同時に、熱波を発する。
「うおっ! あっっつつつ!?」
焦げた匂いが漂う。
カイは倒れながらも、必死に立ち上がろうとする――
が、ヒルダが手を上げて止めた。
「そこまで。今日の模擬戦はここで終わりだ」
「……くそ……全然歯が立たねぇ……」
土まみれになりながら膝をついたカイを、クロがクンクンと鼻先で突っついていた。
午後。森の静かな岩場。
「ここからは、体内魔素の制御訓練だ。ミーアと一緒にやれ」
ヒルダの声にうなずく二人。
岩の上に座り、姿勢を正して目を閉じる。静かに呼吸を整え、魔素の流れを感じ取ろうとする。
「……流れを感じるって、どういうことなんだ……」
カイは眉をひそめながらも、なんとか集中しようとする。
が――
ミーアの座っていた岩が、ふわりと浮かび上がる。
わずかに数センチ。しかし、岩は確かに浮遊し、微動だにせず空中にとどまっていた。
カイが音に気づいて目を開くと、驚きで目を丸くする。
「えっ、おい……ミーア、浮いてる……!?」
ミーアは目を閉じたまま、静かに呼吸を続けていた。彼女の中に流れる魔素が、穏やかに空気を震わせていた。
やがて目を開いたミーアが、にこっとカイの方を見て微笑む。
ヒルダが腕を組んで頷いた。
「見事だ、ミーア。お前には確かな魔素適正がある」
「ありがとう、ヒルダ」
カイはしばらく黙っていたが、やがて深くうなだれた。
「……俺だって……ちゃんと頑張ってるのに……」
その後ろで、ヒルダとミーアがそっと笑みを交わす。
クロがいつの間にかカイの背中に乗り、ポスっと頭に前足を置いた。
「おい、クロ……それ慰めてるのか……?」
夕暮れの森に、ほんのりと笑い声がこだまする。
カイの不貞腐れた顔を残して、この日の訓練は静かに幕を閉じた。
午後。森の静かな岩場。
「ここからは、体内魔素の制御訓練だ。ミーアと一緒にやれ」
ヒルダの声にうなずく二人。
岩の上に座り、姿勢を正して目を閉じる。静かに呼吸を整え、魔素の流れを感じ取ろうとする。
「……流れを感じるって、どういうことなんだ……」
カイは眉をひそめながらも、なんとか集中しようとする。
が――
ミーアの座っていた岩が、ふわりと浮かび上がる。
わずかに数センチ。しかし、岩は確かに浮遊し、微動だにせず空中にとどまっていた。
カイが音に気づいて目を開くと、驚きで目を丸くする。
「えっ、おい……ミーア、浮いてる……!?」
ミーアは目を閉じたまま、静かに呼吸を続けていた。彼女の中に流れる魔素が、穏やかに空気を震わせていた。
やがて目を開いたミーアが、にこっとカイの方を見て微笑む。
ヒルダが腕を組んで頷いた。
「見事だ、ミーア。お前には確かな魔素適正がある」
「ありがとう、ヒルダ」
カイはしばらく黙っていたが、やがて深くうなだれた。
「……俺だって……ちゃんと頑張ってるのに……」
その後ろで、ヒルダとミーアがそっと笑みを交わす。
クロがいつの間にかカイの背中に乗り、ポスっと頭に前足を置いた。
「おい、クロ……それ慰めてるのか……?」
夕暮れの森に、ほんのりと笑い声がこだまする。
カイの不貞腐れた顔を残して、この日の訓練は静かに幕を閉じた。




