5.初めてのおつかい
昨日は、剣にどんな名前を付けようか悩んでいて……そしてクロと出会ったんだよな。
小屋へ戻ると、ヒルダが眉間にしわを寄せ、何やら難しい顔をして手紙を読んでいた。
「先生、それ……何かありましたか?」
俺が声をかけると、ヒルダは手紙を折りたたみながら答えた。
「いや、大したことじゃない。……それと現実逃避はやめろ」
……つまり、何かはあったんだな。
ふと、自分の腰に吊るされた剣に目を落とす。
(……そうか、俺の聖剣はポチなんだ)
「カイ、お前、町に行ったことはないんだよな?」
「はい、ありません」
「なら行ってみるか。仕事の成果もあるしな」
「行ってみたいです!」
そうして俺の“初めてのおつかい”が始まった。
目的は、狩りで集めた尻尾と魔石の換金。それと日用品の買い出し。そして、ヒルダから預かった一通の手紙の配達だった。
加えて、クロを同行させろと言われた。俺よりも遥かにレベルが高いそうだ。マジか。
出発の準備中、ヒルダがブーツを一足差し出してきた。
「これを履いて行け。足が速くなる」
疑いながらも礼を言って履いてみる。意外と軽くてフィット感がある。
「……では、行ってきます」
「寄り道するなよ」
子供扱いか! ……まあいい。
俺とクロは森の南を目指し歩き出した。
町までは徒歩で三日。しかし、このブーツを履いた俺は、走っても走っても疲れ知らずだった。
「うおぉ……すっげー! 走るのが楽しいって、人生初かも!」
途中、魔物と出会うこともあったが、クロが軽くあしらってくれる。
「お前、ほんとに強いな」
「ワオン!」
ふと気づくと、クロが少し大きくなっている。
「お前、大きくなった?……って、おぉ!? 小さくなった!」
クロは体を縮めて俺の肩に飛び乗った。
初日の夕方には予定の半分以上進んでいた。途中、コボルトが出たが、ブラッディウルフに比べたら雑魚すぎて無視。
野営はクロがいるため安心だった。
「おやすみ、クロ」
翌朝。太陽が昇る頃には起床し、朝食を済ませて再出発。
昼前には森を抜けた。
「やっと出られた……」
「ワオン!」
目の前に現れたのは、スタンハイム王国エステン城の城下町。
人口三千程度だが、しっかりした城壁と城門があり、行列ができていた。
「これ、めっちゃ時間かかるやつじゃん……」
俺はクロに合図を出す。小さなクロが門から離れた場所に走り、大きくなって遠吠えをあげた。
「魔物だ! ブラッディウルフだ!」
門番たちが慌てて住人を門内に押し入れる。
「早く入れ! 急げ!」
……ラッキー。
城下町に入ると、しばらく散策したのちに、小さなクロが合流してきた。
「ナイス連携!」
「ワオン♪」
ギルドに到着。尻尾と魔石を売却しようとするも、数が多すぎる上にギルド未所属とのことで、一旦預けることに。
次に、ヒルダから渡された買い物リストに「サーガという商人を探せ」とあった。
町中を聞き込みするが、そんな人物の情報は皆無。
「なぁ、クロ。先生、俺に試練でも与えてるのか?」
「ワオン?」
諦めて安宿へ。
「まぁ、ベッドがあるだけマシか……」
就寝中。突然クロが顔を叩いてきた。
「ん……なに?」
廊下に足音。三人の気配。
扉が静かに開かれ、剣を抜く音がした瞬間――俺は飛び起き、枕元の剣で迎撃。
「何者だ!」
一振りで三本の剣を叩き折る。賊たちは驚愕し、一歩後退。
「ここまでとは……!」
「用件を話せ」
カイの瞳が鋭く光る。
賊たちは「サーガの命令」と口にした。
誘導されるまま向かった先――そこには、黒いフードを被った男、サーガがいた。
「おや、ヒルダ様のお弟子さんでしたか……早く言っていただければ良かったのに。ひひひ」
「先生は……何を買えって言ってるんだ?」
「上玉が入荷したので、ご連絡を……ひひひ」
案内された先には檻に入った幼い子供。
「っ……!」
言葉が出なかった。足が震え、喉が詰まった。
「冗談だろ……」
「いいえ。こちら、エルフ族の希少個体でございます。ひひひ」
「……この子を買わなければ、どうなる?」
「貴族のペットか、魔法実験用の素材に……エルフ族は便利ですからねぇ」
俺の拳が震えた。剣を抜き、檻を一刀で斬り裂いた。
「俺が連れて帰る」
「お買い上げ、誠にありがとうございます。檻と服はサービスで……ひひひ」
「これまでに、先生は何人買ったんだ?」
「そうですねぇ……百人か、二百人か……ひひひ」
拳を握りしめた手のひらから、血が滴った。
震える子供をそっと抱き寄せる。
「もう大丈夫だ。俺が守るから……安心しろ」
宿に戻り、パンとチーズ、スープを与えた。
クロがクンクンと匂いを嗅ぎ、子供の頬を舐める。
「ちょっ、食べたらダメだからな!」
ビクッとするクロと、子供。
……いや、たぶん食べるつもりはない。




