22.爆散魔法
「ふむ……この世界のファイアは、色によって強さが変わるのじゃ」
森の片隅。昨夜、爆煙と共に地形を変えたあの場所にて――
マルギレットが炎を掌に浮かべながら、魔法の“色”の段階について教えてくれていた。
「よいか、小童。ファイアの色はこうじゃ」
マルギレットが指を立てて、順に数えるように言う。
「黄色 → 赤 → オレンジ → 青 → 白 → そして透明、じゃ」
「透・明……?」
「うむ。“火”でありながら、光のように透明で、もはや熱すら感知できぬ。ワラワのファイアはそこまでいくぞ」
そう言って彼女が浮かべた“それ”は――確かに、透明だった。
空気が歪むような、蜃気楼めいたそれは、近づくだけで汗が吹き出す。
「うわっ、熱っ……!」
「ほっほ、近寄ると蒸発するぞ?」
冗談なのか本気なのか分からない笑み。
この幼女(外見)……やっぱり只者じゃない。
「……俺のは、青でしたけど、まだまだってことか」
魔素の流れが改善されたとはいえ、あの爆発魔法ですら“まだ下から2番目”。
自分には、才能がないのかもしれない――そう思った矢先だった。
「おい、小童!」
マルギレットが鋭く言い放つ。
「調子に乗って全開魔法をパンパン撃ってみろ、お前の身体、爆散するからのぉ」
「……爆散!?!?」
目が点になるカイ。
「そう、爆散、爆裂、肉片散乱!」
バキンと杖を地面に突き立てるマルギレット。
明るい調子で、とんでもないことを言う。
「魔素量が多い者ほど、スケール調整に失敗すると危険なんじゃ。
器が小さいのに大量の魔素を一気に通せば、壊れるのは当然じゃろ?」
「なるほど、要するに……無理をしなければいいってことですね!」
「まぁ、そじゃが……」
(絶対こいつ、理解してない顔しとる……)
肩をすくめるマルギレットだったが、そこまで心配しているようにも見えなかった。
「小童、自分に合った魔法というものがある。探ってみるがよい」
マルギレットは、焚火を囲んで紅茶を啜りながら、カイにそう助言した。
「この世界には、火・水・土の三大属性があり、さらに光・闇・風などの派生系がある」
「先生師匠は全部使えるんですよね?」
「当然じゃ。光魔法はワラワの十八番じゃな。攻撃から回復、補助まで幅広い。――まぁ、使える人間はごく稀じゃがな」
「光属性、カッコいいな……! よし、光魔法を目指してみます!」
「ほぅ、目のつけどころは悪くないの。がんばってみな」
焚き火の炎に照らされて、マルギレットの瞳が少しだけ柔らかく光った。
※
数日が過ぎた。
だが、ヒルダたちはまだ戻ってこない。
マルギレットはというと――
完全に異世界飯にドはまりしていた。
「小童! 今日の飯はなんじゃ!?」
「えーっと……ハンバーガーを作ってみました」
「ほぅ! 食う!」
テーブルに並んだ自家製バーガーにかぶりついたかと思えば――
「トマトがイヤじゃ! 酸っぱい!」
「じゃあ抜いてくださいよ!」
「ピクルスも無理じゃ!」
「ピクルスじゃなくて漬け木の実です!」
「そういう問題ではない!」
……こいつ、めんどくせぇ!!
昨日はホワイトシチューを作ったが――
「ニンジンが入っとる! ワラワはニンジンがキライじゃ!」
「マジで子供かアンタは!!!」
「うるさいぞ小童! ワラワは心は乙女なのじゃ!」
(……いや、乙女というか、偏食幼児……)
そんな日々が続く中、ふとカイは思い立って尋ねてみた。
「先生師匠って、この世界の魔法全部使えるんですか?」
マルギレットは、フォークでトマトを皿の端に避けながら答えた。
「全部ではないぞ。ワラワにも使えぬ魔法がある」
「おお!? それはどんな魔法ですか?」
「古代魔法の中に“禁忌の魔法”というものがあってな、ワラワでもその仕組みは理解できん」
「近畿の魔法……?」
「そうじゃ、禁忌――って、なんじゃその顔は」
「え、近畿……関西圏みたいな魔法かと」
「アホか、おぬしは」
おでこをペチンと叩かれた。
「とにかく、禁忌の魔法は誰にも使えん。存在自体が疑われておるものも多い。
まぁ、使えなくても困らん。必要な魔法はすでに揃っておるからの」
「なるほど……でも、いつか禁忌魔法ってやつ、見てみたいですね」
「フン、見たら魂ごと消えるかもしれんぞ? まぁ、おぬしなら少しは期待できるがな」
マルギレットはそう言って、最後の一口のハンバーガーを頬張った。
カイはそんな彼女の食べっぷりを見ながら、思う。
(久々に、たこ焼きが食いたいな……)
この世界で、鉄板はない。ソースも、青のりも、かつお節もない。
だが――
「先生師匠、今度は球状の粉物、作ってみてもいいですか?」
「おぉ!? また新しい料理か! うむ、良いぞ小童! ワラワは期待しておる!」
笑顔を浮かべたマルギレットの目が、焚き火よりも煌めいていた。
――それが、後に“爆散たこ焼き事件”と呼ばれる騒動の序章となるとは、
このときのカイはまだ知らない。




