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ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第弐號 閃滅翠聖/葬蒼凶機
50/58

弐拾頁目 梟雄割拠

 〜〜同時刻・帝国博覧館(パビリオン)第五層〜〜



 帝国の至宝、王権の象徴『天命理書』。

 最上層にそれを秘めた塔状の建物内は既に

 完全な人払いが終了して閑散としていた。

 一部の展示品にのみ灯火の光が掛かり、

 そこ以外はうっすらと暗く滲む静寂の空間。

 武具の展示エリア――『剣と栄光のホール』。

 そんな無人の階層にコツンコツンと靴音が響く。



「陛下。どうか出てきてくださいませ」



 草臥れたように、呆れたように声を出す。

 帝国宰相アドルフは護衛もなくたった一人で、

 同じく護衛も無しに消えた幼帝を探した。

 しかし彼は幼帝に叛意を疑われた身。

 簡単には出てきてくれないと悟っている分、

 未来の労力を想像して余計に疲労を感じていた。



「はぁ……探す側の身にもなっていただきたい

 十代の元気に付き合えるほど若くないのです」


「……」


「お分かりいただけませんか?

 陛下のお戯れに、付き合う時間は無いッ!」



 ダンッ、と強く大地を蹴り打つ。

 反響が薄暗い第五階層に素早く響き渡り、

 宰相はまるでエコーロケーションのように

 跳ね返ってくる音を聞き分け呼吸を探る。

 暗闇に逃げ隠れた小動物の荒い吐息を。



(――見つけた)



 音を消し、その場に残像を残して

 アドルフは暗闇の中に飛び出していった。

 まるでその姿は夜空を駆ける梟。

 梟雄(きょうゆう)の将が獲物を求めて加速する。

 展示品の上を超え、吹き抜けの柵を跨ぎ、

 やがて彼は目的の一角に辿り着いた。


 其処にあるのは積み重なった武具の数々。

 明らかに人為的な手が加わった、

 帝国の宝を雑に扱った贅沢なバリケードだ。



(稚戯だな)



 ここに至るまでに加わった速度そのままに、

 宰相はバリケードの重心に的確な蹴りを入れる。

 十歳児の作った簡易な結界は一撃で砕け、

 バラバラと崩れて道を開けた。

 が、それと同時に槍と繋がった糸が

 アドルフの死角に潜む短刀を引き寄せる。



「!?」



 咄嗟に宰相は上半身を回し、

 黒手袋を纏う指の間でその刃を受け止める。

 だが完全な回避は出来なかったようで、

 気付けば彼の頬についた一筋の切り傷から

 真っ赤な血が滴り落ちていた。



(毒なら死んでたか)



 少し奥の方で小さな影が逃げ出した。

 そして即座に追えばいいものを、

 どういう訳だが宰相はしばらく

 その背を眺め物思いに耽ってしまう。


 彼がようやく正気に戻ったのは、

 視界の端、遥か遠方の空に爆発を見た時。

 渦巻く水流と逆巻く業火がぶつかり合って、

 大気を揺らすその余波を感じ取った時だった。



「……あんな者らに来られてはたまらんな」



 ここで遊んでいる暇はない。

 そう自分に言い聞かせるように呟くと、

 宰相は再び幼帝を捕らえに歩き出す。


 首よりぶら下げた、

 服の下のペンダントを弄りながら。



 ~~帝国万博・北東部~~



 業火が水流を喰らう。

 水が火を、ではなく火が水を喰らう。

 焔と共に撃ち出された斬撃が飛沫を消し去り

 デザイン重視な建物の突起を切断した。

 重力に引っ張られて落着を目指す瓦礫群。

 その合間を縫って、鮫の魔物が飛び出した。



「ッは! 想像以上に、やっべえなぁ!?」



 人型から棘を持つ鮫の姿に変化すると

 ヘリオはそのまま垂直に落ちて

 ドーム状のガラス天井を突き破った。


 彼が侵入したのはとある西国の博覧館。

 一部には睡蓮の花が並ぶ池があり、

 壁面を覆うガラスと水晶が

 日も落ちた今は内部の灯りを反射して

 幻想的な幾何学模様を照らし出していた。

 だがそんな鮮やかな光景を

 ゆっくり眺めるような余裕も品性も

 ヘリオは持ち合わせていなかった。


 彼は敵の侵入を目視できる場所に身を隠すと、

 荒れた呼吸を整え反撃の道を模索する。



(あれが噂の、波羅の剣士、っすか……)



 極東の島国――波羅。

 ヘリオはその噂を幾度も耳にしていた。

 海の交易路に現れる海賊の大本。

 かつての魔王戦にも参加しなかった無縁の国。

 冒険者ギルドも無く、国内の情勢は不明。

 しかしそれでも轟くは蛮勇の名。


 それこそが極東の島国が有する異質の戦士団。

 通称――絡繰戦機『侍炉流(サムロトル)』。


 今交戦しているあの動く機械の鎧が、

 正にその侍炉流(サムロトル)であると海魔は理解した。

 だが真に注意べきはその戦闘性能。

 剣士の放つ蒼炎はヘリオの水も容易く飛ばし、

 その装甲は棘の鱗では傷一つ付かない。

 だというのに焔を纏った飛ぶ斬撃は致命的で、

 肉体再生持ちのヘリオであっても

 波羅の剣士を前に防戦一方の苦戦を強いられた。



「真正面からやり合っちゃダメっすね、あれは……

 完全な奇襲で、どデカイぶちかましで――」



 ――刹那、じんわりと背中に熱が伝う。

 ヘリオの燃える闘志が現れた、訳もなく、

 彼を狙った蒼炎の斬撃が壁を裂く。

 攻撃が直撃しなかったのは偶然。

 肌を撫でる熱気に籠った殺意から、

 それを理解し、海魔は大きく飛び退いた。



「っ! そっちも不意打ち上等っすかァ?」


『ピポポポ。コォォォォォォォ。ピポポポポポ』


「気さくなお返事感謝っすわ!!」



 片腕に魔力の籠った水塊を蓄えて、

 背丈以上に肥大化したそれをヘリオは射出した。

 対する侍炉流(サムロトル)もまた流麗な動きで剣を構え、

 迫る巨大な水の塊に焔の突きを放つ。

 業火は今回もまた水を内側から喰い破り、

 その余波で周囲のガラスが砕け散る。


 が、落下する無数のガラス片の合間を

 ヘリオは躊躇なく駆け抜けた。

 彼の片手に携えられていたのは木製の銛。

 先端に自身の棘鱗が付いた自作の矛である。



「せァ!!」



 水流を纏う突きは装甲ごと剣士を押し、

 もろともに壁を貫き隣の部屋に移動する。

 其処は先程見た睡蓮の池が美しい空間。

 幾何学模様を描くガラスドームの夜空の下、

 思いっきり戦うのに適した広さの場所だった。


 即座にそれを理解出来たのは戦士の性分。

 物言わぬ鋼の剣士に、海魔は鋭い目を向ける。

 迫る焔の刀身を、矛の一振りで受け流す。

 それに端を発した攻防は更に一段加速した。


 刀が閃き、矛が唸る。

 一瞬の間に二人の間合いは縮まり、

 鋼と鋼が虚空に斬撃の半月と火花を散らした。

 波羅の剣士は踏み込みと同時に斬り下ろし、

 矛使いの海魔がその一刀を弾いて防ぐ。

 かと思えば突然剣の刃先が旋回し、

 横薙ぎの一撃が空を裂いたが、

 これをヘリオは跳んで回避すると

 返す手で侍炉流(サムロトル)の首に一撃を喰らわせる。



(っ! 硬ぇ……!)



 だがやはり、致命傷には遠く及ばない。

 分厚い装甲を貫くには至らず、

 カァアンと乾いた音だけが響き渡る。

 またそれを合図とするかのように、

 波羅の剣士は装甲の隙間から業火を生んだ。



「っお!? 熱ッ!」



 火はヘリオの腕を一瞬掴み、

 爆風が彼の体を後方へと突き飛ばす。

 幸いにして池に落下したため消火は済んだが、

 今の一撃で木製の矛は焼き切られていた。


 やはり生半可な攻撃は効かない。

 実演を以て改めてそれを痛感すると、

 海魔は水中に潜ったまま技を放つ。



「六頭覇鮫『ヘキサルキア』!!」



 撃ち放たれた水流は六つの水柱と化し、

 大きく弧を描いて剣士を襲撃した。

 ヘリオの水流操作技術も相まって、

 六の頭を持つ水の鮫は回避困難。

 三つ目の頭が蒼炎に焼き払われた所で、

 他の頭を囮に水流の鮫が敵の足を掬う。


 それに合わせて更に残る二頭が齧り付く。

 侍炉流(サムロトル)の胴はバキバキと音を鳴らし、

 何度も壁に打ち付け、更に負荷を与えた。

 が、この技で出来たのはそこまで。

 水の鮫に咥えられた剣士は片刃刀を握りしめ、

 外装の狭間から今まで以上の蒼炎を吐く。


 敵の行動に反応し

 全ての頭で一斉に牙を立てて襲い掛かるが、

 彼を捕らえた水の塊は内部に高熱を宿し、

 即座にドーム内の中央で炸裂した。


 爆発の振動は池の上の足場を悉く破壊し、

 更には壁面にも深い亀裂を生んだ。

 やがて温度差で発生した突風に巻き込まれ、

 池の水が一瞬干上がり底が見える。



『――!?』



 そんな暴風に、海魔は棘鱗を織り交ぜた。

 風は水流で操られた鱗に更なる速度を与え、

 突風のど真ん中に在る鋼の剣士の下まで

 何周も円を描いてから送り届ける。



「新技ぁ――『スカーゲイル』!!」



 速度の乗った棘のミサイルが

 防御態勢を取る侍炉流(サムロトル)の肩に直撃した。

 今までよりもずっと早いそれらは

 かなり手ごたえのある鈍い音を奏でていた。


 何より、剣士は今防御に専念している。

 つまり鱗の襲撃とは逆方向から攻めれば、

 少なからず反応が遅れるという事。

 それを理解していたのかいなかったのか、

 ヘリオは再び水流を操り背後から迫った。



(ぶち抜く! 双頭覇鮫『ディアルキア』!)



 頭数は減らし、その分威力に上乗せする。

 この一撃を以てトドメとするために、

 全力の水流波をヘリオは解き放った。

 事前の仕込みも効いていたらしい。

 侍炉流(サムロトル)はまともな防御姿勢を取れず、

 無防備な背中からモロに攻撃を喰らう。



「いっけええええええ!!」



 情け容赦なく、何より油断なく、

 ヘリオは直撃後も更に水流をブチ当てる。

 やがて敵は激流と共に床に叩きつけられ、

 固い地面を抉って完全に自由を失った。


 きっとこの場に他の観戦者がいれば

 誰もがヘリオの勝ちを宣言していただろう。

 しかし他ならぬヘリオ本人は、

 既に現実を理解し青ざめていた。



「……へっ、バケモンが!」



 激流の直撃を今も尚受けながら、

 侍炉流(サムロトル)はヘリオだけを見据えていた。

 そして身動きが取れないはずの水流の中で、

 彼は腕を捻って片刃刀の向きを整える。


 直後、水が逆流する。

 否、水を喰らって蒼炎が逆行する。

 激流を押し返し、業火がヘリオに向かった。



「ッ……! くっそォッ!!」



 ドームの天井を爆炎がブチ抜いた。



 ~~~~



 浮彫になったのは、地力の差。



「痛っぇ……」



 高熱の瓦礫を押し退けて、

 ヘリオは砕けた両腕を再生させる。

 だがそれにも多くの魔力を消費する。

 トドメを刺すつもりで全力を出した後では

 ただの肉体再生ですら苦しかった。



「こいつぁ……()()()()なぁ」



 心の内で留めておくつもりだった言葉が

 思わず口からポロリと零れ落ちる。

 それほどまでに悟った力の差は歴然で、

 ヘリオの腹の中は諦観でいっぱいだった。

 が――



「ッア!!」



 海魔は自身の顔を何度もはたく。

 パシン、パシンと乾いた音を打ち付けて、

 深く呼吸し、立ち上がった。



「っしゃ! もう一戦!」



 ――彼の眼はまだ死んでいなかった。

 勝てるとはあまり思っていない。

 何か特別な力が覚醒して、

 奇跡的に逆転出来るとは考えてすらいない。


 あるのは経験と忠誠心。

 かつて強敵から逃げた事で失った物の大きさと、

 それに心を痛めた主君への思いやり。

 どこの勢力かも分らないこの厄介な難敵に

 ベリルの手を煩わせる訳にはいかないという

 責任感にも似た忠義であった。


 そして、戦意が尽きぬのは相手も同じ。

 蒼炎を燻らす片刃刀を携えて、

 暗がりより鋼鉄の剣士は歩み寄る。



「おたくも執念深いっすねぇ……」


『ピポポポ。コォォォォォォォ。ピポポポポポ』


「へっ! 何言ってんのか分かんねぇよ!」



 飛ばした先制攻撃の鱗が剣士の頭部に直撃する。

 無論それはカァンと甲高い音が響かせただけで、

 侍炉流(サムロトル)には何のダメージも無い。

 だがその攻撃によって僅かに頭部が傾いた事で、

 ヘリオが急接近する隙が生まれた。


 刀の有効な間合いは既に過ぎ去り、

 一歩退かねば斬れない状況。

 しかし水流ジェットの推進力を持つ

 海魔の速度が敵の後退を許さない。

 固い鱗に覆われた拳が敵の顔面に直撃した。



(前に大将が教えてくれたっけ……

 魔導機構(マシナキア)のメイン制御機構は頭にあって

 ダメージ入ったら機能の八割終わるって!)


『!? ピポポポポポ』


「てめぇも頭ぶち抜きゃ少しは動き止まるか?

 ならせめて――その首ここに置いてけやぁ!!」



 振るい抜かれた鉄拳が鋼の剣士を殴り飛ばす。

 やがてそれが突っ込んだ建物は崩れ落ち、

 周りを巻き込んで一気に倒壊した。

 だが数秒と経たずして瓦礫の色が赤く変わり、

 ドロリと溶け出し高熱のビームが放たれる。

 ほとんどマグマのように溶けた瓦礫の中から、

 依然無傷の侍炉流(サムロトル)が再起する。


 とはいえ攻撃が効かない事など

 海魔の方も百も承知。

 敵が状況を探ろうと首を振った時には、

 既に彼はその背後を取っていた。

 大口を開けた、鮫の形態(すがた)で。



「ガァア!!」


『ヅッ!?』



 剣士は防御の構えを間に合わせるが、

 鮫の大口はそれすら飲み込み喰らい付く。

 そして肉体変化で鮫の体に多足を生やすと、

 ドタバタと駆け回り瓦礫の中に突進する。



(魔力足んねぇ……攻撃方法がどんどん減る

 けど――!)



 鮫は口の中に熱を感じる。

 敵がヘリオの体内に向けて業火を放つ予兆だ。

 だが戦闘巧者な節のあるヘリオは

 そのタイミングを山勘で読み切ると

 即座に人間形態に戻る事で完全に回避した。

 そして剣士を離したのが空中だったため、

 彼はそのまま敵の装甲を掴んだ。



(絶対に手は止めねぇ! 攻め続ける!

 こいつはここで継戦不能にしてやるぜぇ!)



 重力エネルギーを味方に

 ヘリオは空中で数度回転すると

 そのまま敵を地面に叩き落とした。

 砲弾よりも速く打ち出された鉄の塊は

 地面に大きな亀裂と衝撃を走らせて、

 空中浮遊を続ける帝国万博を少し揺らす。


 流石にこれまでの攻撃が効いたのか、

 今度は立ち上がるまでに

 幾分かの時間が掛かっているようだった。



(――! ここだ、ここしかねぇ!)



 空中での姿勢を水流で整え、

 ヘリオもまた地上に向けて加速する。

 突き出したのは棘の鱗に覆われた貫き手。

 夜空を背景に青い魔力を纏って落ちる姿は

 さながら地上に降り立つ流星のよう。

 無防備な敵の顔面に海魔の一撃が直撃する。


 直後後方に噴き出す水流がのたうち回り、

 亀裂の走った地面は瞬く間に崩壊を始めて

 その場所にはクレーターが出来上がる。

 またそれと同時に、バキッという音が響き、

 ヘリオの腕が固い装甲から一段下がった。



(!? 取った!!)



 今までとは明らかに異なる手応え。

 ヘリオの一撃は遂に侍炉流(サムロトル)の鎧を穿つ。

 頭部の損傷は魔導機構(マシナキア)にとって致命傷。

 顔の装甲に指四本分の亀裂が走った鋼の剣士は、

 既に機能の大部分に影響が――



()()()()()()



 ――出ていない。

 聞こえた声が海魔の背中に悪寒を走らせ、

 続く下からの熱気が彼の第六感を刺激した。

 ヴェルデ戦以来久しく忘れていた恐怖の念に

 海魔は思わず飛び退きクレーターから脱出する。


 結果的に、この即断は正しかった。

 彼の居た場所からは蒼炎の竜巻が発生し、

 焔がまるで意志を持ったかのように飛翔する。

 そして業火の中より現れた波羅の剣士の、

 頭部に付けた傷跡の狭間からは、

 真っ赤に輝く人の目玉が覗いていた。



「中に、人が居んのかよ……!」


『我が祖国の主神よ。ご照覧あれ――』



 逆巻く爆炎の柱を背に、

 波羅の剣士は刃の刃先を下に向ける。

 まるでそれは神に捧ぐ祈りの構え。

 するとその直後、両肩の装甲が駆動し

 ヘリオに向けて空洞を向ける。



(やべ……)



 ヘリオは直感で、それが砲撃であると悟る。

 またそれと同時に敵が今の今まで

 明確な『技』を使っていなかった事も。

 本気にさせた事を誇りと思って喜ぶべきか、

 それとも深く絶望するべきか、

 自嘲するような笑みを交えて模索した。


 だが、最終的に取った結論はどちらでもない。

 エネルギーを蓄える日輪の如き灼熱に、

 ヘリオは己の両腕を向けていた。



「双頭……覇鮫……!!」



 逃げの選択はしない。

 無様な姿はもう晒したくはない。

 正真正銘、この戦場で放つ最後の一撃。

 海魔はここで全てを出し切る事を選択する。



「――『ディアルキア』!!」



 反動で地面が抉れるほどの水流を、

 ヘリオは空中の敵へ向けて解き放つ。

 青く染まった水の噴射は最早レーザー。

 その光線に波羅の剣士もまた技で応えた。



『――地獄八熱・大焦熱!!』



 両肩の装甲、否、砲門から放たれた熱は、

 天と大地の狭間にて水流と激突する。

 周囲の残骸は瞬く間に溶け出し、

 エネルギーの鍔迫り合いは焔が押した。



(っ、やっぱダメっすねぇ……俺じゃあ――)



 再び自嘲し、視線が下がる。

 肉体には無視できないダメージが散見され、

 体を守っていた鱗も次々と剥がれ落ちた。

 だがそれでも、ヘリオはその足を前に出し

 限界を超えたその先を咆哮に乗せた。



「ッ! ゥゥアアアアアアアアアア!!!!」



 追い詰められた魔物の咆哮が、

 万博全土に轟いた。

 ――やがて灼熱と水流は混ざり合い、

 閃光を生み出し、そして爆ぜた。



 ~~~~



 激戦の跡地は水蒸気が立ち込めり、

 視界不良の広大なエリアが出来上がる。

 鋼の剣士は一通り周囲を見回すと、

 脅威が散ったと考え立ち去るのだった。


 そしてそんな姿を、崩落で出来た穴から

 満身創痍のヘリオが見届けた。



(あーあ、勝ち逃げされちまった……)



 全身は大火傷を負い、鱗は全て剥がれ、

 人型の擬態を保つ事すらままならない。



(悪ぃ、大将、皆……少し休――)



 海魔は最低限身を隠せる横穴まで這うと、

 そこで意識を手放した。


 海魔ヘリオ戦闘不能――脱落。

 波羅の剣士、通称『侍炉流(サムロトル)』。

 頭部装甲に損傷を負うも、継戦可能。


 開戦時の全勢力合算、約三万六千名。

 現在の人数――残り三万二千名。

 これほど強者が揃った戦場では

 誰が落ちるか分からない。



 〜〜同時刻・北西部〜〜



 路上の花壇が炎を噴いて爆ぜ散らかす。

 凶悪な榴弾の着弾によって、

 鳴動と共に大地を抉って人を燃やした。

 魔導大国セグルアの博覧館に近いこの場所は

 魔導機構(マシナキア)の数が特に多く、

 他勢力と違い無差別攻撃を行うそれらは

 逃げ遅れた民間人も標的としていた。



「やめろ! 魔導機構(マシナキア)が人間を襲うなんて!」


「なんで……ただ観光に来ただけなのに!」


「どうして殺されなきゃいけないのよォ!?」



 初日に万博に来場できるような者は

 相当幸運な一般人か、或いは相応の金持ち。

 魔導機構(マシナキア)など見た事も無いような田舎者か、

 逆にその恩恵を得て肥えた者の二択であった。

 故に、反逆された時の恐怖は人一倍。

 もつれる足で走る最後尾の女性が横転し、

 その背中に人型魔導機構(マシナキア)の銃口が向けられた。


 が、凶弾が女性を貫く事は無かった。

 熱を込め始めていたその銃身を

 真横から割り込む聖騎士が両断したのだ。



「エルザディア聖騎士団!」


「ッ――!」



 兜に顔を隠した騎士はハルバードを振り回し、

 目前の人型を迫る他の機械たち諸共

 軽い一薙ぎで粉々に打ち砕いてしまった。

 だが長物による撃砕以上に

 その速さ、身のこなしもまた見事。

 砕けた敵の破片を刃の腹で打ち返し、

 見える遠方の敵三機も即座に破壊した。



「おお! 流石はエルザディアの精鋭!」


「……ここより南西。オラクロンの博覧館(パビリオン)

 避難所として解放されています。お早く」


「お、おお! 助かった! ありがとう!」


(ふぅ、中立も楽じゃないな)



 希望を得て走る民間人の背を見守り、

 兜の目元を持ち上げ騎士は深呼吸をする。

 中立であるべき聖騎士は民間人の味方。

 おいそれと国内の争いに介入は出来ない。

 即ち、戦っても良い敵が限られる。

 やりにくい事、この上ない。



「へぇー、これが聖騎士サマか」



 そんな聖騎士の背後に一人の男が迫る。

 銀髪に、赤いメッシュを携えて、

 棘の突いた悪趣味なマントを翻す青年。

 王位継承権、第一位のその男。



「イオス・(イン)・パルメリオ伯爵?」


「あれ? 仮面付きの騎士って

 人前で喋っても良いんでしたっけ?」


「緊急事態につき、特例です

 この場では素早い情報伝達の方が優先される」


「はぁー、なるなる! チョー理解しました」



 ズカズカと伯は止まる気配もなく接近する。

 そうして更に四歩ほど近づいた、その時――

 伯爵は腰の剣を引き抜き聖騎士に突きを放った。


 警戒していた騎士はその攻撃を素早く防ぎ、

 イオスの不意打ちは聖騎士の防具を

 カァンと一回小気味良く鳴らすに留まった。



「ぐぷ! ははは! 防がれちった!」


(っ……こいつ!)


「やっぱ貴族のお遊び剣術じゃあ遅い?

 それともシンプルに俺が不意打ち下手?」


「お遊び気分かこのガキ!」


「あー、やっぱ聖騎士は喋んない方がいいぜ

 口を開いた途端、すっげぇ雑魚に見えてくる」


「何を――ぬぅッ!?」



 直後、イオスの剣から黒泥が生じた。

 光の当たり具合では暗い紫色にも見える、

 半透明の流体が聖騎士の鎧を侵食する。

 明らかに、触れてはならない何かに触れた。

 そう判断した聖騎士は即座に自分の腕を断つ。



「ぐぅ……! ぉおお!?」


「ヒュー! ナイス判断~!

 そのまま一気に喰えそうだったのに」


「貴様……魔法剣士か!?」


「あー、まぁ区分したらそうなんのか?」



 右手に禍々しい黒剣を、

 そして左手に渦巻く黒泥を携えて、

 国を喰らわんとする伯爵は笑みを浮かべた。



「俺の術は敵の魔力を喰って黒泥(コレ)に変える」


「っ……!」


「時に聖騎士。あんたらの防具

 頭の天辺から踵の先まで魔力たっぷりだねぇ?」


(相性最悪、か……)



 中立とはいえ攻撃されたのなら話は別。

 間に合わせの布で止血を済ませると、

 聖騎士は武具を構えて交戦の意思を示す。

 例え心の中で既に死期を悟っていても。



 ~~北部~~



「くそ! 一機やべぇのがいやがる……!」



 別の所で更に別の聖騎士二人が戦っていた。

 一人は巨大な斧を携えた兜付きの騎士。

 もう一人は、顔を出す許可を持った若い男。



「ちッ! レオナルド! 一旦引くぞ!」


「その方がいいみたいっすね……クッソ!」



 聖騎士二人が、撤退を余儀なくされた。

 彼らが走り去るのと逆方向、

 即ち、敗退の原因は

 燃える建物と建物の狭間に立っていた。


 しかしそのシルエットは人間ではない。

 歯車と装甲に覆われた影は魔導機構(マシナキア)のソレ。

 そして炎に照らされた継ぎ接ぎの肌は、

 人ならざる種族特有の『鱗』を持っていた。



「あれって絶対、()()っすよね!?」



 これほど強者が揃った戦場では

 誰が落ちるか分からない。


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