表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第弐號 閃滅翠聖/葬蒼凶機
49/68

拾玖頁目 風の名前

 斜陽の空。日月の空隙(くうげき)。浮かぶ島。

 帝国万博の高度は現在約五千メートル。

 龍脈のエネルギーが直撃した戦場は

 酸素分圧も大幅に低下したその位置で

 ひとまずの停止を見せる。

 そこは高山病のリスクもある過酷な世界。


 だが、今この場で武器を取った者の中に、

 そんな事を気にしている者は一人も居ない。


 明日死ぬとも分からない世界を変えたくて

 立ち上がったのは帝国最底辺の民衆たち。

 彼らの大半は文字も読めず、学も無い。

 それでもこの一戦で何かが変わると確信し、

 北限解放軍の連判に名を連ねた。



「宰相を探せ! 幼帝を打ち取る!」


「――させぬわッ!」



 相対するは忠誠高き帝国の兵士。

 地位と権力とで腐敗した多くの同僚を捨て、

 宰相に気に入られた事を誇りに武器を振るう。

 例えこの身を捨ててでも閣下を護らんと。


 そんな戦いが今、各地で巻き起こっていた。


 解放軍兵士が数に物を言わせてなだれ込み、

 帝国兵のバリケードを打ち崩したかと思えば、

 その後方に控えた一人の精鋭兵士が

 三節棍を巧みに操り敵先方の脳天を撃つ。


 そこから水路を挟んだ対岸の方では

 鎧に身を包む兵士が凶悪な形状の戟を

 振り回して敵を薙ぎ払うが、

 近くの建物に潜んでいた逆徒どもが

 彼に油をぶちまけ火を放った。


 地形を利用した、一進一退の攻防戦。

 しかしこの場の陣営は二つに非ず。

 混迷極める雑兵たちの戦場に

 駆動音を響かせ機械の軍団が殴り込む。

 一番槍は下半身が一輪車の人型魔導機構(マシナキア)

 両腕に装備した盾と銃剣は、

 上半身の高速回転と共に殺戮の限りを尽くす。



「これはこれは。……ふふ、想像以上の地獄絵図」



 血肉の入り乱れる戦場を、

 建物の屋上から見下ろす魔物が一匹。

 白衣に身を包むオッドアイの男、ギドだ。

 十年前の戦い以降魔力を使えない彼ではあるが、

 今はどうやら()()()満々の様子であった。



「随分とご無沙汰でしたからねぇ、一暴れしますか」


「やめておくのじゃなギド

 この戦場は玉石混交、不意な強敵とかち合うぞ」


「……とはいいつつ、セルス様ご自身は

 何やら随分と張り切っているようですが?」


「そうか? ふむ、まあそうかもな」



 どこか楽しそうにそう語るセルスは

 後ろで手を組み肩を解す。

 元が粘体(スライム)なのにストレッチが要るのかと

 冗談混じりに質問をしたのはヘリオだった。



「なんじゃヘリオ。お主もこっちに来たのか?」


「うす。拠点防衛はペッさんに任せたっす!」


「さては押し付けて勝手に来ましたね?

 ま、君なら守りより攻めの方が合ってる」


「ッすよね! で、オレちゃんたちって

 結局誰を殺りゃあ良いんすか?」



 息巻く海魔はコキコキと首を鳴らす。

 彼らの任務の最良はオリベルト侯爵の勝利。

 しかしそれはあくまで公国の意見。

 ここは腐っても人類圏最大国家のチョーカ帝国。

 そんな国の内乱にせっかく居合わせたのなら、

 魔物の本性も多少は見せねば損というもの。

 それが魔物たちの長、ギドの意見。



「うす、つまり?」


「目につく人間、皆殺しでオーケーです」


「分かりやすい!」



 噴き出す水流をジェット推進機に

 人に化けた鮫の魔物は乱戦祭りに飛び込んだ。

 彼の乱入直後より高まる悲鳴の声を余韻に

 ギドたちもまた魔物の顔でほくそ笑む。



「では我々も行きましょうか」


「ふん、足手纏いは助けてやらんからな!」



 二匹の魔物は屋上から躊躇なく飛び降りた。



 ~~万博会場・南西部~~



 予測不能な魔物の参戦など露知らず、

 人間たちは人間たちで抗争を続けていた。

 中でも特に人が集まりつつあったのが此処、

 万博南西部、建物間の広大なスペース。

 左右を多種多様な建造物に挟まれた、

 入場者用の巨大な屋外通路である。



「帝国公爵! ソダラ公とお見受けいたす!」


「ここを通るとはなんと不幸な老人か!」


「我ら北限解放軍の知恵と怒りを思い知れ!」



 現れたのは息巻く民衆の暴徒。

 通路の奥には三百を超える数の近接兵。

 そして左右の建物からは弓を構えた遠距離兵。

 合わせて五百近くの敵兵が出現した。



「ほぉー! 一丁前に伏兵か?

 ちったぁ地形の読める奴がいるらしい」



 対して今居るソダラの手勢は二百名。

 しかもそのほとんどが近接武器を装備し、

 遠方の敵に対して使える攻撃手段は

 当たるかも分からない槍の投擲が精々だろう。

 奇襲に成功した解放軍兵士たちは

 既に勝ちを確信していた。

 だがそれは、ソダラ公もまた同じ。



「しっかし肝心の駒がお粗末だねぇ?

 現地で指揮執る奴がぁ雑魚過ぎるッ!」



 この時点で解放軍が犯したミスは二つ。

 一つは伏兵の出現タイミングが早過ぎた事。

 まだ公爵軍が懐深くに入るよりも前に

 気が逸って名乗りを上げてしまったのだ。

 そしてもう一つ、こちらが致命的。

 遠距離伏兵部隊のあまりにも間近に、

 近接だけの友軍を配置してしまった事だ。



「ソダラ軍! 突撃ぃー!!」



 ソダラが掲げた大剣の刃先を目印に、

 鍛え抜かれた精鋭二百名が雄たけびを上げた。

 それは何の魔力も含んでいない怒声だったが、

 戦慣れしていない解放軍兵士を怯ませるには

 十分過ぎるほどの効果があった。


 覇気の無い矢の雨など小雨に等しく、

 公爵軍は降り注ぐ死を剣で弾き

 臆する事なく死地を駆ける。


 やがて迫り来る彼らの闘志に触発され、

 通路の奥に控えていた近接部隊が進軍した。

 元は敵の強行突破に蓋をする役割だったが、

 彼らの指揮官は既に戦の狂気に呑まれていた。

 ただ初期位置で盾を構えていれば良いのに、

 怯む雑兵に突撃命令を下してしまう。



「はぁい、お馬鹿ちゃん」



 ソダラは自ら先陣を切り、

 大剣の一振りで敵先方を打ち崩す。

 先端の砕かれた紡錘陣形はあまりに脆く、

 両軍の陸戦部隊はあっと言う間に混合した。

 陣形も何もないただの乱戦。

 これでは遠距離部隊も機能しない。



「民のためにと立ち上がった連中が

 まーさか大事なお仲間を撃たねぇよなぁ?

 これで互いの兵力は実質二百と三百ぅ!

 個々の練度差で、俺たちの勝ちぃ!」



 気付けば左右の建物内にも

 ソダラ兵の攻勢が伸び始めていた。

 乱戦の中で手の空き始めた者たちが

 弓兵たちの目を盗んで制圧に動いたのだ。

 近接部隊を地上に配置していたため

 遠距離部隊の護衛は皆無。

 お粗末な配置が災いし、

 あっという間に雌雄は決した。



「作戦立案は外注か? 万博内の地形を把握

 ま……十中八九、イオスのガキだろうな」


「先に討ち取りますか公爵様?」


「あー要らん要らん! 邪魔者は別動隊任せだ

 俺たちゃ当初の目標をさっさと完遂させる」



 二倍以上の兵力差と不利な初動を覆し、

 チョーカ帝国の猛将『青き逆鱗』は

 大剣を万博に突き刺し腕を組む。

 この戦いでの公爵軍の死者はゼロ。

 万博に居合わせた者たちの中でも

 かなりの強豪勢力が狙うのは、

 たった一人の、命一つ。



「首を洗って待ってろよ、宰相(アドルフ)!」



 ~~同時刻・王朝博覧館(ナバールパビリオン)~~



「よし、突入!」



 照明も落ちたナバールの施設の扉を

 帝国兵六百名が打ち破った。

 彼らの所属はソダラに与した貴族の私兵。

 かつて皇帝の名の下に戦地を駆け回った、

 公爵軍本隊にも負けず劣らずの精鋭たちだ。


 彼らの目標はナバール勢力の制圧。

 表立った戦力の無いオラクロンとは違い、

 かの国は護衛と称して多くの兵を入国させた。

 チョーカ、セグルアに並ぶ三大国の一つが

 一枚岩で介入してくるのは危険過ぎる。

 故に先制奇襲攻撃による足止めか、

 或いは捕虜を取っての停戦の呼びかけか、

 どちらかを狙い彼らはこの地にやって来た。



「っ……隊長、ダメです」


「既にもぬけの殻、か」



 館内に残ったナバール人は無く、

 展示物もいくつか消えていた。

 初速を速めた行動のつもりだったが、

 どうやら後手に回ったらしい。


 一通り館内の検索が完了すると

 隊長は速やかにナバール追撃の指示を出す。

 だが彼らがいざ動こうとした丁度その時、

 隊長はとある展示物がやけに気に留まった。



(なんだ……これは?)



 目を奪われたのは真っ赤な具足。

 ガラスケースに封印されたそれは

 機械と鎧を組み合わせたような甲冑だった。

 やがて隊長の視線に釣られるように

 部下たちもその展示物に集まり出した。

 すると次の瞬間、具足の目元に光が灯る。



「ッ!? 総員退――」



 響く声が早いか、或いは閃光が早いか、

 その展示物を中心に巨大な爆発が起きる。

 噴き出した火炎は一瞬で王朝博覧館(ナバールパビリオン)を燃やし、

 真っ赤に染め上げ廃墟に変えた。


 この時の被害数、四百と二十六名。

 尚負傷者はこの数に含まない。全員死者。


 空気と混ざり合いバックドラフトが発生すると、

 業火と瓦礫に紛れて先程の隊長が飛び出した。

 その片腕は既に焼け焦げ、剣は途中で折れ、

 肺の中に入り込んだ煙が喉を潰した状態。

 そんな中で彼はこの惨事を起こした敵を見た。



(動きやがった、あの鎧機械!)



 獄炎を振り払い、其れは彼の前に現れる。

 頭部には巨大で立派な金の鍬形。

 顔の部分は黒い装甲に覆われ、

 兜と面具の間に鋭い機械の眼が青く輝く。

 また両袖は巨大な装甲と化しており、

 その腕の先には、鮮やか片刃刀が握られていた。



(こいつを自由にさせてはならない……!)



 爆発から生き残った兵士の誰もが、

 本能的にそう直感していた。

 彼らはたった一人の動く鎧を取り囲み、

 満身創痍の身体で高熱を帯びた武器を握る。

 そんな彼らを頼もしそうに一瞥すると、

 隊長は激痛に苦しむ喉に最期の負荷を掛けた。



総員(ぞうう゛ぃん)! 一斉に掛かれぇ(いっづえにががれぇ)ーッ!!」



 帝国兵たちが四方八方から飛び掛かる。

 彼らの瞳に迷いは無い。迷い無き戦士の眼光。

 そしてそんな彼らの瞳が最期に目撃したのは

 敵の片刃刀が青き焔を纏った瞬間だった。



 ~~~~



(今、空が青くなった?)



 遥か遠方の雲が青く光ったのを目撃し、

 空を征くベリルはそちらの方に意識を向ける。

 だがそんな彼を地上からの弾幕が襲った。



「ッ!?」



 迫って来たのは緑に光る無数の光弾と

 それに混じって飛来する青い光刃。

 ベリルは急旋回の緊急回避でそれらを躱し、

 やがて制御を失ったように地面に着く。

 そうして目線を上に持ち上げてみると、

 そこには銀髪褐色肌な二人組の男女がいた。



「ほら見な! やっぱ魔物飛んでたじゃん!」


「ほんとだ。疑って悪かったよ」


(ナバール人? 砂漠の精鋭か……)



 男の方は両肩にランチャーを背負い、

 女の方は左腕に巨大刃を携えた盾を持つ。

 明らかに超古代文明の遺産なのだろうが、

 ベリルが足を止める理由にはならない。

 黒翼の天魔は短刀に刃根の刀身を取り付けた。



「押し通る――」


「「上等ッ!!」」



 刹那、無数の弾幕が空に爆ぜた。

 ナバール人の光弾とベリルの刃根が飛び交い、

 黒い刀身と白亜の盾とが火花を散らす。


 この段階で押していたのはナバールの二人組。


 ランチャーから放たれた無数の弾幕は

 同じく無数に放たれた刃根と正面衝突しても

 相殺されるどころか減速する事すら無く、

 無傷で突破するには回避するしかなかった。


 また返す手で渾身の一太刀を放とうとも

 間に割って入る女の持つ盾は、

 細い彼女の腕からは想像も出来ないほど

 いとも容易く魔物の一撃を弾き返した。



(っ……こんなのもあるのか、超古代文明兵器!)


「ハハハ! まぁそう自信喪失した顔すんな! 

 現代の技術で突破できないのは自国(うち)で検証済み

 壊せるのは同じ超古代文明の兵器だけだ!」


(あっそ、なら!)



 ベリルは更に加速し二人の連携を搔き乱す。

 建物の中を通り、連絡橋の下を潜り、

 デザイン重視なアーチを通過したかと思えば

 地上のスレスレを沿うように飛ぶ。

 そうして敵を自分を挟んだ対の位置に置くと、

 彼は女の方に牽制用の刃根を飛ばしつつ

 ランチャー持ちの男の方に急襲を仕掛けた。


 狙いは勿論、共倒れ。

 案の定ベリルを追い払おうと光弾は放たれ、

 回避された瞬間から標的を同胞に変えた。



(まずは、一人――)


「って、やっちまうよな。()()()()()()()()!」


「――!?」



 ベリルの行動は完全に読まれていた。

 というより、敵の勝ちパターンに

 まんまと誘導されていた。


 光弾は突如狂ったように空中で振動すると

 くるりと方向を変えてベリルに向かっていった。

 その攻撃をベリルは寸前の所で回避するが、

 砂漠の精鋭が狙っていたのは更にその先。

 女の方が、光刃の刃先を少年に向けていた。



「トドメ!」


(光刃の射出……! くッ――)



 彼は咄嗟に迫る斬撃に自身の刃を添えた。

 軌道を少しでも変えようとしたのだ。

 そして同時にねじ切れそうなほどに体を捻り、

 辛くも撃ち込まれた光の刃を回避する。



(マジか! あのタイミングで避けるかよ!)


(まぁ最初に一度見せちゃってたもんね)



 必殺のコンボを回避され、

 ナバールの二人組は心底驚いていた。

 が、あくまで驚いた止まり。

 大国の精鋭は更にその先も用意していた。



「けど残念! とっておきの()()()()!」


「――っ! なに!?」


「戻っておいで! 光刃ちゃん!」



 女の合図と共に光の刃は元の軌道を逆行する。

 当然その道中には回避直後のベリルがおり、

 彼は背後から迫る刃に片翼を引き裂かれた。

 結果完全に制御を失った少年は地上に落ち、

 不時着直後の大きな隙を逃さすまいと

 今度は男の方が無数の光弾を撃ち込んだ。



((これで! 勝ちィ!))



 ナバールの精鋭たちは勝利を確信する。

 実際、天魔にこの状況を打破する術は無かった。

 刀や刃根では弾幕を弾くには強度不足であり、

 また今の損傷では硬化させた翼の防御も無意味。

 当然回避の暇などなく万事休すのドン詰まり。

 ほんの少し、帝国領に入る少し前までは。



「――『風の(トゥラ・ク・)名前(オイズァル)』」



 既に彼は別の手札を持っていた。

 その真名()を呼んだ直後

 彼の両腕を渦巻く青い旋風が喰らい、

 弾幕に向けて開いた手を伸ばしてみれば

 烈風が暴風の障壁となって光弾を弾き返す。



「「なッ!?」」



 大きく逸れた弾は全てベリルの周囲で炸裂し、

 巻き起こった粉塵が一時的に彼を隠した。

 今度こそ動揺を含む驚きを見せた敵たちは

 その結果にすぐに正気を取り戻し武器を構える。

 だがそうなった時には既にそこに魔物の姿は無く、

 また天魔の脳内では今度こそ

 勝利を掴む新たな道筋が出来上がっていた。



「光弾、光刃、巻き戻し、――覚えた」


「っ……!? どこだ!?

 どこに行きやがった魔物野郎ぉ!」


「風向きを変える――『風の(トゥラ・ク・)名前(オイズァル)』!」



 撃ち出された始点は半壊した建物の中。

 其処から噴き出した一直線の突風が、

 盾を携えた女の方に差し向けられた。

 女はその突風を寸前で認識し、

 素早く体の前に盾を構える。

 が、暴風が女に与える負荷は凄まじく、

 華奢な己の体だけでは踏ん張りが効かない。



「っぁ……! 発動……『座標固定』!!」



 故に彼女は早々に切り札を切った。

 女の声を媒介として起動した機能は

 盾を装備した者の一時的な無敵化。

 移動を捨てた事による完全防御形態だ。

 光刃は装甲の内部に引っ込み、

 輝くエネルギーが彼女を覆い尽くす。

 途端に女は裂風にも負けない強度を得て、

 それ以上押し込まれる事は無かった。



(よし……! 耐えられそうだな?)



 仲間の無事に安堵の表情を浮かべ、

 男の方が壁を登り空中に飛び出した。

 狙いは当然、建物内の魔物の小僧。

 風は未だ仲間の女を狙って吹いている。

 どうやら力業での拮抗勝負がお望みらしい。

 そう確信し、男は光弾の横やりを放つ。



「仕舞いだ! 魔物野郎!」



 何十発の光弾による砲撃。

 元よりエネルギー弾、弾切れは無い。

 全弾発射と言わんばかりの猛攻が、

 廃墟の中のベリルを狙った。



「って、やっちゃうよね。()()()()()()!」


「――!?」



 元よりベリルはこの形を狙っていた。

 盾の持つ無敵化こそ予想外ではあったが、

 どの道、耐えられなければそれで良し。

 仮に耐えられてしまったとしても、

 隙だらけの自分目掛けて光弾が来る。

 仲間を庇おうと、焦った光弾が。


 ――疑問。

 何故敵は光弾操作を奥の手にしたのか。


 弾の動きを自由自在に操作可能ならば、

 最初に奇襲した時からやればいい。

 あのタイミングなら流石のベリルも

 対処が間に合わずに負けていただろう。

 では何故それをしなかったのか。

 何故言葉による誘導を行い、

 確実な着弾を狙おうとしたのか。


 ――仮説。

 敵の弾丸操作はそれほど自由度が高くない。


 そもそも高度な魔力操作術は魔物の特権。

 超古代文明の遺産で可能にしているとはいえ、

 限度というものがあるのだろう。

 となれば考えられる操作条件は二つ。

 撃つ前に移動ルートを決めねばならないか、

 或いは元々特定の動きしか出来ないか。


 どちらであれ、

 この角度とタイミングなら関係ない。



「『風の(トゥラ・ク・)名前(オイズァル)』!」



 既に風を撃ち出している方とは逆の手で、

 ベリルは迫る光弾に向けて風を放った。

 しかし今度のそれは拒絶の障壁に非ず。

 むしろ弾の勢いと流れを受け止めて、

 元々あった気流と合流させる接続経路(インターチェンジ)

 即ち、敵の光弾を別の敵に向く風に乗せた。



「「なあっ!?」」



 最初の六発が、女の盾に直撃する。

 直後から彼女を覆うエネルギーに

 ノイズのような淀みが生じ、

 続く十八発が遂に盾にヒビを入れた。



「ひっ! 助け――」



 トドメの二十と六発が盾を壊す。

 残る何発かは上半身を穿ち、

 更に何発かは標的を失い地面で爆ぜた。

 ナバール人の精鋭、一名撃破。



「ッ――おのれ魔物風情がァ!」


「その武器、もう一個弱点があるね」


「ハッタリだ! もう誤爆はねぇぞ!」


「要らないよ。そんなの――」



 そう呟いたかと思えば、

 ベリルは敵の前に姿を晒して手を伸ばす。

 敵はそれを風を生む挙動と警戒するが、

 その時には既に、彼の後方に死が忍び寄る。

 夕刻の暗がりに紛れて迫っていたのは

 黒い二枚の刃根であった。



(しまっ!?)


「その武器は狙った方向にしか向けない

 そして――本体殺せば勝ちでしょ?」



 二枚の刃根がクロスを描き、

 男の頸動脈を鮮やかに引き裂いた。

 何やら恨み言を吐いたようにも聞こえたが、

 声にならないのなら届かない。

 元より相手は人間でこちらは魔物。

 ベリルはこの短期間で精鋭二人に勝利した。



(僕は着実に、強くなってる)



 腕に巻き付く蒼風をしばらく眺め、

 魔物の仔は勝利の余韻を噛み締める。

 しかし同時にかなり近場で爆発音が響き、

 どこかの兵士たちの怒声も聞こえた。



(思ったよりも消耗したし、今は逃げかな

 空を飛ぶのも……ちょっと控えようか)



 先の戦いが空中で目立った事が原因と定め、

 ベリルは地上を征く事を選択する。

 時間はかかり、恐らく回避不能な敵もいる。

 だがそれでも彼の奥底に在る我儘が、

 未だ傲岸不遜に叫んでいた。



「……アルカイオス」



 戦場中央の目的地を目指し、

 ベリルは再び駆け出した。



 ~~会場北東部・とある国の博覧館前~~



 次第に夕刻から夜へと移ろい変わる頃、

 ドーム状の建物の眼前で戦いの閃光が煌めく。

 水流を推進力に飛び交うのは棘の鱗。

 切り裂かれていたのは陣営問わずの人間たち。

 攻め立てていたのは、金髪褐色な鮫の魔物。



「ホラホラ! もう終わりっすか!?」


「くッ! 何故こんな奴が万博に!?」


「魔物だって楽しみたいんすよ! お祭りはぁ!」



 名のある武人を狩る事これで四人目。

 倒した雑兵の数は既に五百を超え、

 魔導機構(マシナキア)も三機ほど撃破した。

 個人の討伐数という意味でなら、

 海魔は恐らく現段階でもトップクラス。

 自他共に認めるほど、ヘリオは無双していた。


 無数の敵に囲まれようともなんのその。

 放たれた矢を尖った牙を持つ口で受け止め、

 振り下ろされた大剣を硬い鱗の鎧で弾く。

 返す手で放たれた水流は敵集団を纏めて押し流し、

 ギドたちから離れた孤立無援の状態にも関わらず、

 ヘリオはたった一人で戦場を支配していた。



「ふぅーそろそろ()()が欲しいっすねぇ

 どこかに一風変わった敵とか居ないんすか〜?」



 調子という名の大波に乗った海魔は

 やけに大きな独り言を漏らした。

 すると、日頃の行いが良かったのだろうか。

 彼の前に『極上』の強敵が姿を見せる。


 其れは爆炎と共に区画を分かつ壁を切り裂き、

 蒼き炎と死した肉片を伴って現れた。

 頭部には巨大で立派な金の鍬形。

 顔の部分は黒い装甲に覆われ、

 兜と面具の間に鋭い機械の眼が青く輝く。

 また両袖は巨大な装甲と化しており、

 その腕の先には、鮮やか片刃刀が握られていた。


 万博全体において現段階における

 個人での撃破数ならヘリオはトップクラス。

 だが決して最多記録保持者(トップレコード)では無い。

 最多記録保持者はこの動く鎧。

 遥か極東の島国よりやって来た『蛮族』である。



『ピポポポ。コォォォォォォォ。ピポポポポポ』


「へへっ! コイツぁ中々どうして……」



 互いに互いの得物を抜く。

 この場に居る以上、戦意の確認は不要。



「メチャ歯応えありそうな敵っすねェッ!!」



 海魔と蛮族が相対する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人間に育てられたベリルが優しさと怖さと危うさを持っていて魅力的でした。無双状態になるとテンション上がりますね。 アルカイオスとの関係も素敵ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ