路地の奥
「おめでとうございます。これで晴れて工藤様もクラスBの冒険者です。」
受付嬢のにこやかな笑顔を共に細かい書き込みがしてあるライセンスカードを受けとる。
「特典については先程説明させていただいたのでこれで手続き完了です。」
「良かったな」
エルザはにこやかに微笑みながら祝福してくれた。
そのまま組合をでて大通り立つ。
「じゃあ、今日のところは遅いので休んで明日依頼を受けようと思います。
今日は本当にありがとう。」
「いいんだ。礼を言われるほどのことはしていない。」
大型猪から助けたからとはいえ、一国の王女に世話をかけられすぎた気がする。
「では、これで」
「あ・・待ってくれ」
振り向くと何故か驚いたような顔をしていた。
夕日がかかって少し顔が紅潮して見えた。
「いや、そのなんだ。 宿は決まっているのか?」
「今から見ようとおもいます。」
「あーそれなら・・近くに銀の雄牛亭という宿があるからそこに泊まるといいぞ。」
「宿までありがとう。今度お礼します。」
ここに来てからエルザに頼りっぱなしだ。
ほんと、何かお礼しないとな。
けど王女って欲しいものあるんだろうか・・・
そんなことを考えながら歩いているとこの通りには珍しい八百屋らしきものがあった。
「お、これはすごい。これは・・・青いラディッシュか?それにこっちも始めてみる野菜が」
料理人魂が騒いできたところで少しゾワリとした気配を感じた。
「これは・・・」
何故呼び止めたのだろう。
エルザは少しの時間立ち止まって考えてしまった。
私は最初は宿屋のことまで思い至らなかったのに声をかけた。
「んーもやもやする。」
こんな気持ちは生まれてはじめてだった。
そんなことを考えながら歩いていくと途中で細い路地裏に差し掛かった。
「確かロイの武具店はここを通ると近道だったはず。」
しばらく歩くと路地の入り口に影がたっていた。
いや、正確には影ではない、忍び装束のような黒いバトルスーツで目以外を覆っており、
さらに特殊技能の隠蔽により普通の人が見てもそこには何も写らないはずだ。
影は音もなく跳躍し背中の小太刀を引き抜く、落下しながら標的を見据える紅い眼は涙を浮かべ・・・
「!?」
微かな物音に気付き振り返ったエルザだったが通りは静寂に包まれていた。
「・・・気のせいか」
そのまま立ち去っていった。
相当なスピードで体当りをした翔太はそのまま路地裏の脇道に転がる。
相手は尋常ではないスピードで小太刀を振るがバックステップで回避する。
老人の剣を上回るそのスピードのまま壁を削ってしまう。
そのままの勢いで路地の壁を登ろうとしたところを刀を跳躍しながら上段で振る。
殺すのが目的ではないので軽めで振るわれているとはいえこんなに狭い路地では相手に有利に働く。
体を丸めるようにしてその攻撃を避けながら攻撃予備動作に入る。
刀身に紫のエフェクトがかかり、剣先が霞む。
この武技の名前は暗殺その名の通り攻撃に特化した暗殺者に使用する物が多いものである。
そのありえないほど強化された一撃を力を込めた一閃で迎撃する。
月詠のその白いオーラと紫のエフェクトがコンマ1秒ほど拮抗したがあっさりとその均衡は崩れ、小太刀が砕かれる。
その勢いを止めつつその暗殺者の首にあてる。
そして、先程からずっと疑問に思っていたことを口にだす。
「お前、どうして泣いていたんだ?」
少女は一瞬身を固くしたがその後すぐに弛緩する。
そう、少女だ。暗闇の中で紛れていたがその体はほっそりとしていてどう見ても少女のものだった。
少女ははっきりとした意思を感じさせるような視線をこちらにあわせる。
そして安堵したように息を吐いた。
「・・・殺してください。」
はいそうですかとなるはずがない。
さっきまで放っていた殺気は驚くほど消えていて狂気をしめすように光っていた目も薄くなっていた。
とりあえずと言う風に軽く降り下ろした刀の柄が恐ろしい勢いで少女から意識を奪った。