破滅への序曲 2
そして、煙の発生源にたどりついたのは急ぎはじめてすぐだった。
「これは・・・」
つい一日ほど前まで村が広がっていたところにはただの廃墟が点々としていた。
焼いた脂身をひたすら食べ続けたような気持ち悪くたる臭いのするそれは不吉の象徴のようにたなびいていた。
確かに少し立ち寄って話をしただけのような面識のない人々だったがこれはあまりにも酷すぎる。
「ひとまず三人に別れて生存者を探そう。まだいるかもしれないから気をつけて。」
二人は服で鼻を押さえながらも頷いて動き始めた。
この村で何がおこったかはこの惨状をみれば一目でわかる。
何者か・・・モンスターか人間かはわからないが襲撃されたのだ。
まだ火の手は端々にちり、焦げた人だったものが道端に横たわっている。
ばきばきと踏みしめた建物の残骸が音をたて炭化したものから崩れていく。
奥まで進んでいくと醜悪な顔が少女に向かって鉈を振り上げている所だった。
声にならない呻き声をあげながら少女を取り囲んでいる。
コブリンだ。RPGでは初期モンスターとしてお馴染みの亜人だが、その濁った目に写る悪意と血の着いた鉈がそんなイメージを払拭させる。
翔太は一気に踏み込んだ。
急激な加速に耐えきれず、地面は陥没して空気は灼熱する。
「はっ!」
手にした剣でラインをなぞるような感覚で振り抜く。
その一筋は何万回繰り返した動作のように鮮やかに急所を撃ち抜いていった。
一度にそこにいた三匹を葬ると、突然消え去った命の危機が信じられないように少女はへたりこむ。
「怪我は・・・ないみたいだね。」
「あ・・あ・・」
まだ呆然としている少女の無事を確認すると
インベントリを展開してアイテムを探す。
「・・・多分これだな。」
説明をみながらスクロールしていくと『記憶の断片』というアイテムを取り出して使用する。
羽のデザインがされたネックレスを少女に掛けてあげると即座に効果が発動されて少女の焦点が戻ってくる。
「大丈夫か?自分の名前とかわかるか?」
なるべく警戒させないように優しい声をだして問う。
記憶の断片は副次的な効果として精神を安定させる効果があるのだ。
少女はこくりと頷くと
「私はいいの!でもお兄ちゃんが私の目の前で・・・」
口に出すことで現実と確定されてしまうことを恐れたかのようにくちごもる。
「お父さんもお母さんもどこいったの?」
少女はキョロキョロするがそこには村などなく、少女の顔が絶望で彩られる。
「お母さん!」
と言って駆け出しそうになるのを必死にとどめ、少女の顔を真正面にみる。
「今ここは僕の仲間が探しているし、もしいなくても別の場所に避難してるだよ。」
そう言わないと少女が今にも押し潰されてしまいそうで。
魔法道具で激しい混乱やゴブリンにおそわれた恐怖をなくしているようだがそれを上回るほど精神が不安定になっている。
「少しだけ『記憶』を見せてもらうよ。」
この少女の心の傷に触れるものを把握しておくために『記憶の断片』を起動させる。
ここでそれに該当ことがあれば少女の心は修復不可能なほどに破壊されてしまうからだ。
この魔法道具に付与されているのは共有される思い出というものだ。
直前などに見た強い思い出を共有させる魔法で翔太の視界はいきなり低くなり視野が狭くなる。
これが恐らく少女が見ていた視点だ。
自分の記憶にも正しい村の風景が写し出される。
少女の知り合いらしい中年の男性と話していると突然激しい音をたててクレーターができる。
村人たちが騒然となって口々に喋りだし、いえいえのドアがあいて人がでてくる。
「ここが人間の村かい?貧相なもんだね。」
嘲笑するような声と共にクレーターから顔をだしたのはゾクリとするほど妖艶な美女だった。
「あんまり大きな所でも無さそうだし立ち寄って損したね。楽しくもない。」
体にぴったりと着いたボンテージ鎧にもにた露出の多い格好をした彼女は歌うように毒をはいた。
「フラジール」
「御用でありましょうか?」
建物の影から水面に上がるようにでてきた執事姿の青年が手を前にもってきて礼をしめす。
「この村は魔族がいるのに相応しくないし美しくもない。包囲させてるゴブリンどもにやらせておけ。」
「了解いたしました。」
「あの蛮族どもはそれだけでいいだろ、全くもって美しくない。」
彼女はゴミ溜めでも見るような目であたりをみわたすと
「あんなものどもにかける時間がもったいない、先を急ぐぞ。」
そういってきびすをかえそうとしたとき、少女と話していた男性が呆れたように近づいて声をかける。
「なあ、ねえちゃん。昼間っから酒のんだのかしんねえけどさ・・・」
彼はそこから先を言うことができなかった。
「私にしゃべりかけるな、人間。」
恐らく少女には何が起こったのかわからかっただろう。
翔太の目にはあのマルナークをこえるようなスピードで振られた手が男性の首を切断するのを確認できていた。
その血の一切ついてない白い手を戻すと興味を失ったように歩み去っていく。
男性が倒れるのと同時に悲鳴が上がり、人々が逃げようと必死になる。
少女も救いを求めるように視線を動かしながら走り、少女の兄らしき人をみつける。
「ミーナ早く逃げよう。村の外からゴブリンが襲ってきた!」
「お兄ちゃん何処に?」
「とにかく遠くにだ。山の方角に逃げよう。 お父さんもお母さんもすぐに会える。」
少年は安心させるようにいい、少女の手をとる。
あちこちにゴブリンが進行し蛮行のかぎりをつくしている。
そのうち、火の手が上がり始め、空を煙が覆っていく。
「ミーナ!」
突如体押され、転んでしまうと少年が覆い被さるようにかばっていた。
少年の背中と足は真っ赤に染まっており、今も倒れたまま、血を流し続けていた。
「いいから逃げるんだ!」
いつの間にかあたりは地獄絵図で、本来の標的を逃したゴブリンが歯ぎしりをしながら鉈を構えている所だった。
「でも、おにいちゃん、」
「お兄ちゃんは後からちゃんと逃げるから、先にお母さんの所にいってくれ、お願いだから!」
その鬼気迫る様子にたまらず走り出すとその時、視界の端に捉えた少年の口は愛していると声に出さず動かしていた。
少女は急いでお母さんに伝えないと、と思いながら道端にあった篭につまずいてしまう、中に入っていた薬草をかぶってしまい強く臭いがつく。
急いで立ち上がって角を曲がろうとすると数匹のゴブリンがそこで家を荒らしているのが見えた。
別の道からいこうと後ろを向くがそちらにもゴブリンが数ひきいた。
「隠れないと。」
少女は近くの家に飛び込んで身を潜めようとする。
「火が!」
ちょうどさっきの薬草のおかげで臭いで気づかれずにゴブリンが荒らし回ってとおりすぎるまで長い間待っていると火の手が回ってきてたまらず家から出てしまう。
ギロッとこちらを向いたゴブリンたちが追いかけてくる所で『記憶』は終わっていた。




