2nd story:楽しいカラオケと手狭スカウト
「……悪い、叶。お待たせ」
ぼけーっと数分待ってみると、学校側の方からとたとたと緒倫が大きな体で小走りして寄ってきた。
遊んでいた携帯をポケットにしまって、顔を上げる。
「おう。平気。てかお前、部活動とかやってんのか?」
「気分ある時やってる」
「遊ぶのはいいけどさ、友達とかじゃなくていいの?」
「一緒にいる奴、大体逆方向。向こうのゲーセン行くって話出てたけど、遠いしな。何か新しいゲーム機が入って……ああ、でも明後日とかはそいつらと遊ぶかもしんない」
「じゃ、明後日はいいけどさ、もし帰る相手いないようなら昼にでもLINEしろよ。俺も都合付けば一緒に帰ってやるからさ。俺も基本一人だし、方向一緒じゃん?」
「分かった」
「で、今日はどうする?」
「カラオケ行きてー。最近行ってない」
「んじゃ、それで」
カラオケは駅前だ。
あんまり遅く離れないが、二時間くらいなら余裕だろう。並んで歩き出すと、ふと自分が軽く陰ってるのに気付いて横を見た。
走ってきたせいで暑くなったのか、タイを緩めて襟を開いている緒倫を見上げる。
「……緒倫、お前、また背ぇ伸びた?」
「伸びた。いいだろ。やらねーよ?」
「ぐっ……。この、生意気な。……つか、もらえねえだろ!」
「もーアレだな。叶は止まるよな、そろそろ。三年じゃん。つか縮むか?」
「おじいちゃんかよ!」
ボケツッコミかましながら、下らない話をしながら俺たちは駅に向かった。
カラオケに入ってすぐ、俺たちはいつものノリで好き勝手に歌い始めた。
俺はテンポ高めのアイドル曲とか好きだし、バイトがらアニメやゲーム曲もよく歌う。戦隊ものとかライダー系も好きだ。格好いい。映画とかでよく耳にする曲も好き。
上手いか下手かは別にして……だが、気持ちよく歌えればそれでいい。だって別に誰かに聞かせるわけじゃねーもん。そりゃ、聞かせるんなら上手くなくちゃダメだけどさ。
段々テンションが上がってきて、立って身振り手振りが入る。基本、立って歌いたい派なのだ。
「やー。すっきりするよな、カラオケ。俺もめちゃ久し振りかもしんない!」
「叶。あれ何だっけ、あれ」
「ん?」
「♪ちゃらちゃららら、なんとかせーんぱーせんらーぶ」
「ああ……。へいへい」
リモコン持ったまま、俺の向かいで緒倫が右腕上げて、乙女ゲーの有名曲を振り付きでワンフレーズ歌う。
基本的に万事においてやる気が無いが、緒倫は意外と古風なところがある。
……いや。古風というか、変わっている。
ゲームどころか漫画にすらあまり興味無く、ファッション誌は暇潰しで、あれば読むにしても、本は“漫画・世界の偉人”とか、小説なら“日本文学全集”とか小難しいものか、若しくは絵本が好きだ。つか、絵本の方が好きかも。
俺もだけど、ただ外ではなかなか読みづらいものがあるからな。ぱっと見何か読んでんなーと思うと、大体そんな感じだ。堅苦しい文学。
流石に緒倫も外で絵本を読んだりはしていない……が、本屋に行くと図体のでかい緒倫が絵本コーナーで立ち読みしていると、絵面すげえなと思うし、単純に度胸あんなとも思う。俺は一人で絵本コーナーに立ち止まる勇気があまりないからだ。
文庫とか持ってると格好良く見えるが、文庫はぺらいのが好きじゃないんだと。…ま、よく分からんが好みだが、人それぞれだよな。
たぶん、俺が知ってるBLとか百合とか、乙女とかいう単語すら、ひょっとしたら知らないかもしれない。
そんな緒倫が、一部マニアックな曲を知っているのは、確実に俺の影響だ。一緒にカラオケ来た時、ちょいと俺が歌うもので耳に残ると、それを覚えてしまうから。
自分のリモコンで、緒倫が望む曲を入れてやる。
「お前、あれ好きなー」
「男のデュエットとか珍しいじゃん。他に何かある?」
「いや、あるだろ。意外と。…つか、これデュエットじゃないだろ。多すぎだろ、人数」
「ノリ良くて好きだけど、未だに。野郎の見分けつかねーけど」
「そっか? 色で着くだろ。キャラ名までは流石に俺も分かんねーけどな」
置いていたマイクを拾って、緒倫が俺に手渡す。
それを受け取りながら、突然思い出して、俺は携帯を取りだした。
「…あ、悪い。ちょっと待って。これだけレスらせて」
「今かよ」
「悪い。……」
…とか良いながら、録音画面を引っ張り出す。
丁度良いや。これ録って、プロデューサーに「どうっすか?」って送ってやれ。
いいじゃんって話になったら一回会ってもらって、無理だわこいつってなったら、そもそも緒倫に声優の話はしなけりゃいいんだ。俺頭いいかもしんない。
そうすれば、緒倫を傷付けることもない。
「…まだ?」
「…っし。おっけ。お待たせ!」
既に録音開始した状態で、画面伏せて携帯をテーブルに置く。
準備ができた段階で、マイク片手に立ち上がった。緒倫は立ちはしないが、振り付けを見よう見まねで覚えたらしいから、手をくるくるさせたりしている。
「よーし、歌うぞー!つか、踊るぞー!!」
「こう、くるくる…。だよな。確か」
「俺が最初ねー!」
「…てか、最初一緒だし」
イントロが流れ始め、気合い入れて一曲歌う。声はキャラで変えて歌うぞ、俺は。練習にもなるし。
飛んだり跳ねたりまではいかないけど、やっぱ楽しく歌わなくちゃな、カラオケは。
…しかし、と俺はちらりと歌いながら横目で緒倫を見た。
うまいんだよなぁ…。本人は分析採点とか大嫌いみたいだけど、前に無理矢理やらせたらかなり高得点でびっくりしたし。正行より平均点が高い。
深いというか、心臓から口までのパイプが太くて濁りが無い声っていうか…。緒倫に夏の怖い本読ませると、ガキどもすっげービビるんだよなぁ。
「…っと」
そうこう思っているうちに曲が終わった。
やべ、途中から普通に歌っちまった。…まあいいか!
「ヘイ、緒倫。ヘーイ!」
「へーい」
一曲歌い終わり、パンッと手を打ち付ける。
画面に俺アカウントの点数が表示されてる間に、俺は伏せていた携帯を取った。
「お前、次歌ってていいよー」
携帯を表に返す。
…よし。録れてる。手早く停止ボタンを押して、ウェブ上のデータ共有アプリを起動した。
急いで送っちまえ。忘れないうちにな
プロデューサー宛に、ぱぱ…っと成り行きをまとめた短い文章を打っていると、ふと違和感に気付いた。
いつまでも次の曲がかからず、顔を上げると、カラオケのでかい画面には曲の紹介みたいなVTRが流れている。
「…? どうした、緒倫。歌ってていいぞ」
「何。彼女?」
「は…?」
次の曲を入れることなく、緒倫が子機を組んだ足の上に置いたままじっと俺を見ていた。
唐突な切り返しに疑問符を浮かべる。
「彼女でもできたんかなーって。やけに今日、落ち着きねーから」
「はあ…? 馬っ鹿、違ぇーよ。バイト関係」
「ああ…。なんだ。例のもらいすぎのバイトね…」
「そ、うだよ…」
そーだよ、もらいすぎのバイトだよ…。
つか、“もらいすぎ”って何だよって話だよな。別にもらいすぎっていう程仕事であっぷあっぷしてるわけじゃねーし、なめてんのかっていう…。
俺が多少しょんぼりしながら相槌を打つと、納得したらしく曲を検索し出す。ピッピッという高音の機械音が部屋に響く。
「叶、女っ気無ぇもんなー」
「あのな、そっっっくりそのまま返すかんな。つかな、男子校で女っ気ある奴とかの方が必死すぎだわ。だって普通会わねーだろ。機会とかねーし!」
「ある奴はあんじゃね?」
「つーか今時男子校とか…。私立で男子校とか、阿呆か…」
「一応、共学は共学なんじゃねえの。女子校あるじゃん、うちの」
「校舎違うし都道府県すら違うし、こんなん共学じゃねえよ!」
「ま、そうかもな。…じゃ、先歌うから」
緒倫の感じていた違和感は拭えたのか、リモコンを操作し始める姿を見てほっとした。
急いでメールの続きを打つ。緒倫の声、プロデューサーの目に留まるといいんだけどな。
…いや。目じゃなくて耳、か?
「…よし」
ファイルを送信してから、顔を上げる。
緒倫が、少し前のドラマで使われていた男性アイドルグループの曲を歌っていた。これもたぶん俺が前に歌ったから覚えたやつだろう。
「――♪」
…ほんと。よく飛ぶ声だから、悪くはないと思うんだけどなー。
緒倫みたいな、ぼーっとした天然キャラとかいそうだし。素でいけんじゃなかろーか。
こいつと一緒に仕事できたら面白いんだろうけど…。
歌う緒倫を見て一度溜息を吐いて、俺もリモコンで曲を探した。
「…お前、よく食うな」
「歌ったら腹減った」
「夕飯食えるのか?」
「これ夕飯でいいや」
「夕飯には早……ん?」
カラオケを出て、ファストフードに入って軽く腹ごなしをしていると、ポケットにいれている携帯が振動した。
少しだけ取りだして画面を一瞥すると、プロデューサーの名前が表示されていて、慌てて席を立つ。
「は、はい…!もしもし!」
「……」
隣に座ってた緒倫に片手を上げてから、席を離れてトイレ前の端に移動することにした。
携帯の向こうから、元気な声が耳に飛ぶ。
『ああ、左近田くん。悪いね。今、大丈夫?』
「はい。平気です」
『メールありがとね。音も。彼がその友達って子? 何だっけ名前。えーっと…』
「あ、緒倫です。天海緒倫」
『ああ、そうそう。天海くん。オリンとか、名前イマドキだねえ。なかなかいいじゃない。悪くないよー。素人でしょ? 歌も上手いし。でもあれ確実に隠し録りだよね。大丈夫?』
「ははは。…まあ、内緒ってことで」
うん、本来は駄目だよな、やっぱり。
緒倫にも絶対バレないようにしておこう。怒りそうだ。
『彼、何歳?』
「あ、一つ下です。十七」
『十七かー。十七ねえー…。うーん』
…あ、やべ。
そういえば、CERO18なんだっけ、今回の話って。年齢的にアウトかな…。
…いや、でも濡れ場は後半とか言ってたし、当面準備だけっていってたし。その間にあいつ誕生日来るかもしれないし。
どきどきしながら反応を待っていると、携帯の向こうでプロデューサーがあっけらかんと続けた。
『…まあ、いいか。取り敢えず候補上げてみたいなこと筧さん言ってたし。悪いけどさあ、左近田くん。その天海くんて子、なるはやで一度事務所に連れて来れない? ちょっと色々テストしてみたいんだけど。それでその結果を筧さんに報告するからさあ』
「あ、はい…!じゃあ、日にちとか時間聞いて、また連絡します」
『うん。宜しく~!』
「はい。じゃ、また。失礼します」
携帯を切る。
直後、思わずガッツポーズをした。
「…よっしゃ!」
ぐっと拳を握ってから、くるりと反転して急いで席に戻る。
「緒倫…!」
狭い店内を忙しなく戻ってきた俺を、緒倫は不思議そうに見た。
「何。どした。そんなに慌てて」
「あのさあのさ、ちょっと話があるんだけど!」
「…何?」
飛び込むようにイスに座って、俺は緒倫に途中の色々を省いて結論を伝えた。
「俺のバイト先が、人手を探しててさ。できれば、お前にも手伝って欲しいんだって」
「は…? 俺?」
「俺が、お前の話ちらーっとしたんだよ。放送部の後輩がいるって。そうしたら、ちょっとテストしに来て欲しいって」
「テストって…。まさか、手伝いって声優のこと言ってんの?」
「そう!」
「……」
喜ぶかと思いきや、緒倫は呆れたように俺のことを見返した。
「あれ?嬉しくねえの?」
「…いや、無理だろ。常識的に考えて」
「無理かどうかを確かめる為にも、なるべく早く一度来いってさ。声とか演技とか、チェックしたいんじゃね?」
「そんなんでいいわけ? 今時、声優になりたい奴なんて掃いて捨てる程いんじゃねえの? 叶の事務所テキトーすぎ。お前だって最初ナンパだろ?」
胡散臭そうに緒倫が顔を顰める。
まあ、気持ちは分かるが、実際俺だって今別にそこまで変な仕事に誘われてる訳じゃないし、新しいってことで確かにまだ全体的に軽い感はあるけど、事務所の施設的にも空気的にも悪いところじゃない。
「でも実際、オーディションと変わりねえだろ。取り敢えず聞いて、駄目なら駄目でバッサリ切られるんだからさ。お前今週、放課後とか土日暇気味ってさっき言ってただろ。運命だって」
「そりゃそうだけど…」
「興味あるっつってたじゃん」
「あれは、言葉の綾っつーか、場ノリだろ」
「タナボタ的ラッキーだろ?」
「いや、おかしい。普通そんなほいほい声かけるかよ。大体、俺の声がどんななのかも知れないのに一度来てくれって、博打すぎねえ? すげえ濁声の可能性もあんだろ」
いや緒倫、悪い。
そこはもう第一段階クリアしてる。
しかし、てっきり前のめりで「イエーイ!やったぜー!」って流れになるかと思ったら、そうでもないな…。
…でも、出来れば俺、相手は知ってる奴の方が楽でいい。知らないプロの人となんてガチガチに緊張して、仕事になんないと思うし。
哀しいことに俺には度胸がない。基本がチキンだ。知り合いは一人でも多くしたい。
それに、万一緒倫が今回筧さんの目に留まらなくても、うちの事務所と縁作っておくのは悪い事じゃないと思う。
最悪いいじゃん、事務とかでも。雑務でもいいじゃん。
放送委員の延長線上で、一緒に仕事とかできたら絶対楽しくなる。全部俺都合で申し訳ないけど。
折角の切っ掛けだ。駄目元で、何とか引っ張り込んでやれ。
「なあ、頼むよ緒倫。取り敢えず、テストだけでいいからさ。お前もお話し会好きじゃん。時々ボランティア手伝ってくれっし、イベントの人形劇とかもやったことあるだろ? そんなもんだって」
「それは単にガキが好きで、叶の手伝い程度のことしかやってねえからで」
「お前歌も上手いし、美声だっつったじゃん。放送も上手いし」
「声優と放送って正反対の気ぃすんのって、俺だけなわけ?」
「なによりさ、一緒にやれたら面白いじゃん」
「……。そりゃ、面白いだろうけど…」
「ここで渋るなよ。アウトされる時はアウトされっから。これで事務所に『やっぱ緒倫とか要んねー』っていわれる可能性だってあんだからな。ここで渋ってゴメンナサイになったら、お前余計に格好悪いぞ。受かるにしろ落とされるにしろ断るにしろ、テストだけは何でもない風にさらーっとこいよ。な、な、なっ?」
「……」
緒倫の袖を抓んで、ぐいぐいと左右に引っ張りながら頼み込む。
少し考えているようだったが、やがてうざったそうに俺の手をやんわり払った。
「…。…じゃあ、そんなに言うなら、テストだけ」
「よっし…!」
やった…!
どこか釈然としない様子の緒倫を無視して、俺は携帯のスケジュールを開く。
「そんじゃ、明日は?いける? 行けるよなお前部活ねーんだもんな?」
「…ねえ。叶の事務所ってどんだけ人足りてねーの?」
何気に引き気味の緒倫を無視して、俺はさくさくと予定を入れた。
帰り道、早速プロデューサーに連絡して、次の日に事務所に顔を出すことにした。
トントン拍子。いい感じだ。
学校が終わって待ち合わせ、電車に乗って俺たちは自宅があるのとは別の駅で降りた。
人が山のように行き交う駅だ。交差点や歩道橋を、人を縫って歩いていく。
街中とはいえ、住宅地住宅地している俺らんちの近所と違って、たぶんあまり緒倫が好きではないザワザワ感に満ちている。
「いつもこの辺来てんだ?」
「まあな。学校の方と違って、人多いよな。でも、もういい加減通い慣れた」
「…俺、愛想とか良くないんだけど。迷惑かけたらごめん」
「んな謝るんだったら頑張って愛想良くしろよ。愛想っつーか、社交? それに、先にぼーっとした奴だとは伝えてあるから、平気だろ。プロデューサーも大概軽い人だから」
微妙に緊張しているらしい緒倫を連れて、俺たちは事務所に向かった。
角をいくつか曲がって表通りから反れて、ひっそりと立っている白い縦長ビル。玄関にある社名がなければちょっと怪しい風貌かもしれないが、一歩中に入れば綺麗なものだ。
スタッフ用の裏口にまわって、カードキーを通す。荷物をロッカーに置いてから事務所に行こうと廊下を歩いていると、ひらひら手を振っている中年男性。
「おお、左近田くん。待ってたよー!」
「プロデューサー、こんにちは。おつかれさまです」
手を振っていた人…プロデューサーが、にこにこと出迎える。
「すいません、忙しいのに」
「いやいや、逆に悪いね。素材見つけてきてもらって。彼が天海くんかな?」
「はい。天海緒倫です。…緒倫、スタジオ・レミエルの第一プロデューサーだよ」
「…こんちは」
ぺこりと緒倫が会釈する。
借りてきた大型猫のように大人しい。
そんな緒倫に、プロデューサーが「よろしく~」と相変わらず普通のおっさん丸出しな感じで懐から名刺を取り出し、渡した。
「ちょっと緊張気味っぽいんですけど」
「いいよいいよー。彼、案外ノリ良さそうだし。左近田くんの後輩なんだってね。…じゃあ、早速で悪いけどちょっと適性見させてもらっていいかな。こっち来て」
「…はあ」
「ほら、行ってこいよ!」
尻込みしてる緒倫の背中を、どんっ!と叩く。
売られる仔牛のような目で……なんてことはないが、緒倫らしくないとぼとぼした足取りでプロデューサーの方へ歩み出た。
…が、一度助けを求めるような目で振り返る。諦めわりーな。
しっしと払うように手を振った。
「だーいじょうぶだって、ほら。行ってこい。駄目元駄目元!」
「……」
「心配すんなって!基本が駄目だって思ってりゃ恐くないだろ。お前程度が、マグレで受かるとか、基本無いからだーいじょうぶだって!」
「…ねえ、叶。応援してんのか貶してんのか……何なの、マジで」
「すぐ終わるから。左近田くん、今日は仕事ないもんね。好きなとこで待ってて。外見とかぱっと見の方は悪くないし、一時間かからないと思うから」
「はい。お願いしまーす」
ドナドナされていく緒倫とプロデューサーの背中を見送って、俺は二人を待つことにした。
続
【あとがきキャラクター簡易紹介】
●左近田叶
私立大附属高校二年生。放送委員。
星座:獅子座/血液型:A型
好きなこと:みんなで遊んだり食事したり、読み聞かせ、バイト
苦手なこと:環境の急激な変化、喧嘩、身近な人同士の不仲
好きな本:『つみきのいえ』『ぼくのニセモノをつくるには』『秘密の花園』
若い事務所が抱えている声優の鳳雛。
明るくはきはきしているが、大人の目からは不思議とあまり目立たず一歩控えている節がある。
年齢や見た目の割に自立性が高く、クラスで特に誰と連んでいるわけでもないが皆から慕われている。
幼い頃から図書館に出入りしており、高校から読み聞かせボランティアに在籍。
絵本やほっこりする児童本やシンプルなストーリーのラノベが好きだが、学校では隠している。
現場でたまたま休日来ていた上位プロデューサーの目に留まり、ピンチヒッターとして始めたのが声優バイトの始まり。
大らかな性格の一方で突発的なプレッシャーに極端に弱い。
例えば難易度の高い同じ仕事でも、「よろしく」といつものように手渡されるのと、「期待しているよ!」と言われるのとでは、前者の方が圧倒的スムーズに仕事運びができる。
だが今後の為にはと将来性を見越し、その性格を踏まえた上で、今回極端に“プレッシャーは自覚してもらうが左近田がやりやすく”と事務所と取引先が動いてしまった。
自分の為よりも、隣人の為に動けるタイプ。