vsエルシア
エルシアの言葉を合図に、4体の魔導機兵達が動き出した。
細身の胴体に両手に剣を持つ赤い機体、β型が俺達に向かい4本の足で駆けて突進してくる。
10メートルはありそうな巨大な剣は金属製に見え、淡く光を帯びながら振動していた。
迎撃するためにノールが前へ出るとβ型は剣を薙ぎ払う。
それを彼女が盾で防ぐと轟音が鳴り響いたが、斬撃を弾かれたβ型は大きく仰け反り後方に吹っ飛んだ。
ノールが追撃しようとしたが、今度は人に似た形のγ型が遠距離攻撃をしてきた。
両手に2挺の銃と両肩に2門の大砲、更に胴体部分にも大型の発射口がある。
重量感のある機関銃から俺達を目掛けて光線を連射し、胴体からもでかい光線を放つ。
その攻撃をノールは更に前に出て盾を構えて受け止め、しばらく連射は続いたがγ型の銃撃を全て防ぎ切った。
流石はノールだな。あれだけ攻撃を受けても微動だにしてないし、その場から動いてすらいないぞ。
その光景を見たエルシアは感心した様子でノールに声をかけていた。
「ほう、βとγの攻撃を無傷で防ぐか。ミスリルやアダマンタイトですら傷を付ける程度の性能はあるはずなのだが……面白い。君、後でその盾を調べさせてくれ」
「嫌であります!」
「……ケチ、ちょっとならいいだろう」
エルシアは頬を膨らませて不満そうにしている。
敵を相手にケチとか言い出しやがったぞ……。
本当に何を考えているのかよくわからない奴だな。
そう俺が呆れていると、ルーナがいつの間にかエルシアの背後に迫っていた。
おお! 流石はルーナだ! もう不意打ちはお手の物だな!
気づかれることなくルーナは槍をエルシアに向けて突き出すが、その手前でガキンと大きな音と共に攻撃が止まった。
エルシアから離れた何もない空間が波打つようにうねり、ルーナの赤く光る槍を阻んでいる。
「ちっ、なんだこれは」
「直接私を狙おうとするとは驚いた。4体の魔導機兵によるエナジーシールドさ。ふむ、それにしてもやけにエネルギー消費が激しい。ただの人間とは思えない威力……おや、耳が長い? あちらの弓を持った子も同じようだが君は亜人かな? どんな種族なんだい?」
「戦闘中にふざけた奴だ」
「ふざけた奴とは失礼な。私は常に真面目だよ。……ふむふむ、侵入者とはいえ興味深い者達だ。研究者として心が沸き立つよ」
マジマジとエルシアに眺められたルーナは、不快そうにしながらその場から離れた。
さっきから随分と余裕そうにしていたが、シールド的な物を展開していたからか。
見た感じカズィクルを使っていたけど、それでも貫通できなかったようだ。
魔導機兵が関係しているっぽいし、先にあいつらを倒さないとダメそうだな。
エルシアはタブレットのような物を操作していて、今もこちらを気にしていないのか周りをあまり見ていない。
やはりURユニットバトルの上級だけあって、そう簡単に倒させてはくれないか。
エルシアを倒すにはまず4体の魔導機兵をどうにかするしかない。
幸い攻撃特化に見えるβ型でもノールが盾で防げたから、それ程苦戦はしなさそうだ。
それにしても俺の知っている魔導機兵と随分と違うぞ。
「あれが魔導機兵なのか。見た目が全く人型じゃないけど、一応サレナと同じ扱いなんだよな?」
「古代の魔導機兵を現在の技術で再現したものだね。僕も詳しくは知らないけど、人型の完全再現はまだ出来ないみたいだよ」
「それでも十分脅威になりそうね。それぞれ別方向に特化させたロボットかしら」
エステルの言うように、αは防御、βは近距離、γは遠距離、δは……なんだろう。
δは他に比べてそこまで大きくなくて、平たい横長の機体で大きなカメラが付いている。
特に武装もなくプロペラなどもなく、ミニサレナのように宙を浮遊していた。
観測機的な物だろうか? あれは後回しにしてよさそうだな。
俺が観察している最中もノール達は戦闘を続けていた。
エステルがβ型とγ型を魔法で追撃している。
「えいっ!」
エステルが掛け声と共に杖を振ると、魔法陣が現れて極太の光線が放たれる。
β型は避ける間もなく命中するかと思いきや、α型が滑り込んで魔法を防いだ。
光線がα型に直撃したが、軽く表面が溶ける程度で霧散してしまう。
なん、だと!? あれの直撃を食らって全くダメージがないぞ!
俺はそのことに驚いていたが、一方エルシアは興味深そうに呟いている。
「驚いた、反魔力場内であれ程の魔法を行使するか。帝国の魔導師や自分で試した時は、一切魔法が使えなくなったのだがね。しかもαの装甲を損傷させるとは、これは良いデータが取れる」
満足そうに頷くエルシアを見て、エステルは眉をひそめて不満そうだ。
「むぅ……嫌な場所ね。結構魔力を込めたのにあれしか威力が出なかったわ」
「いつもより魔法が使いづらいってことか?」
「ええ、魔力の消費が普段の倍くらいかも。魔法の発動を抑制する何かが働いているみたい。それにロボットにも魔法攻撃への対策がされているようね」
やはりエルシアの拠点なだけあって、この場所自体や魔導機兵に魔法対策はされているのか。
せめて防御特化のα型を倒せれば他もすぐに崩せそうなのだが……。
そう考えていると、今度はマルティナが動きを見せた。
魔導機兵に向けてゴーストを飛ばして機体に潜り込んでいく。
すると、4機の動きがあからさまに鈍くなる。
サレナにも効果があったけど、ロボットにすらデバフをかけられるのは凄いな。
エルシアはタブレットと魔導機兵を交互に見て首を傾げている。
「出力が下がった……ふむ、機体内部に異常は見られない。君達、我が子達に何かやったのかね? ……おーい、聞こえてるぅ! 何をしたのか教えてくれたまえよ!」
「なんと言いますか、随分愉快な方なんですね。マルティナさん、あの様子なら後で仲良くなれるんじゃないですか」
「それって研究対象としてですよね……。やだ、怖い」
目を輝かせて叫ぶエルシアを見てマルティナが震えている。
何が原因かわかっていないようだし、死霊術師の力はエルシアにとって未知のものみたいだ。
研究対象になったら一体何をされるのか……怖いな。
その後も魔導機兵との戦闘は続き、ノールとルーナが前に出て戦い、エステルとフリージアが遠距離から援護していた。
マルティナはゴーストによるデバフを掛け直し、俺は時折飛んでくるγ型からの遠距離攻撃を防ぐ。
δ型は攻撃こそしてこないが、上から見た情報を共有しているのかα型やβ型が死角にいるノール達にも反応してくる。
他の魔導機兵が損傷すると細いレーザーを飛ばして、その部分が修理されていく。
δは分析と修理用の機体なのか……レーザーで装甲の破損が直るってどんな仕組みなんだ。
魔導機兵達も俺達も、それぞれ完全に役割が分担された状態の戦いでしばらく拮抗していた。
しかし、それもルーナの一撃により崩れ始める。
スキルのクールタイムが終わったルーナが、盾役をしていたα型にカズィクルを放つ。
フリージアの矢やエステルの魔法を弾いていた装甲は、抵抗もなく槍に貫かれα型の青く光るモノアイが消えて機能停止した。
一撃で装甲を貫かれたからかエルシアは声を上げて驚いている。
「なんとぉ!? α三式がやられた!? 物理にも魔法にも最高レベルの耐久性を持たせていたのだが……」
「ふん、この程度紙屑同然だ」
「……見事だ! こんな力は見たことがない! 計測器が振り切れている! 物理でも魔法でもない未知の力だ! もっとだ、もっとその力を見せてくれ! ……あっ、さっきの技を次に使うならぜひδ五号で頼む。計測や観測をするのに1番適している機体なんだ」
エルシアは息を荒くしてタブレットを見ている。
あいつ味方がやられたのに興奮してやがるぞ……。
煽るように得意げに笑っていたルーナも、エルシアの様子を見てドン引きしている。
「平八、あいつおかしいんじゃないか?」
「あー、うん。もう気にしない方がいいぞ」
「流石に自分側がやられているのに喜ぶ人は私も初めて見ますね。ある意味余裕があると言いますか……不気味ですね」
喜んでいるどころか、次に倒す対象まで指定してやがるからな。
負けた後のことを何も考えてないというか、本当にデータのことしか頭になさそうだぞ。
それとも4機の魔導機兵が倒されても、俺達を倒す方法が他にもあるから余裕ってことか?
マルティナのURユニットバトルが中級だったのを考えると、上級のエルシアに奥の手があってもおかしくない。
倒しきるまでは油断しない方がいいな。
だが、そんな不安とは裏腹に俺達は順調に魔導機兵を倒していった。
盾役をしていたα型がいなくなったことで、エステルの魔法を防ぎ切れずにβ型、γ型もすぐに機能停止。
空中を飛んでいたδ型もフリージアの矢によって撃墜。
あっという間に総崩れになりエルシアを守るロボットは排除できた。
「やったね! 私達の勝ちなんだよ!」
「これで魔導機兵は全部倒したか。後はエルシアを倒すだけだな」
「そうね。見えない壁はまだあるみたいだけど……魔導機兵の残骸から魔力が漏れているわ。シールドの維持はまだされているようね」
「面倒だ。早く済ませよう」
「まず降参するか聞いた方がいいと思うでありますよ。本人に戦闘力はほぼないでありますよね?」
「前みたいにトラウマを残しても困りますか。ねぇ、マルティナさん」
「それを僕に聞かないでください……」
マルティナは思い出しているのか青ざめた顔で震えている。
URユニットバトルの記憶は完全に消えないみたいだからなぁ。
トラウマが残る倒し方をしたら、召喚後に支障が出る可能性がある。
相手が降参したらURユニットバトルが終わるのかも気になるし、倒す前に話を聞いておこう。
エルシアに声をかけようとしたが、その当人は鼻息を荒くして何やら興奮している。
「むほほー! 最高の戦闘データが得られた! これを解析すればより高性能な魔導機兵が造れる! 君達には感謝するぞ」
「そ、それはよかったな……。それよりこの後はどうする気だ? 大人しく降参してくれないか。もう魔導機兵もいないし戦えないだろ」
「まあ落ち着きたまえ。そう急いては事を仕損じるというものだよ。お楽しみはこれからじゃないか。実はもう1つ欲しいデータがあってね……ポチっとな」
エルシアは取り出した小さな端末のボタンを押した。
すると機能停止した魔導機兵達が再び動き出す。
α型の丸い胴体をベースに、β型の手足、γ型の武装、そしてδ型が頭部のように結合。
全身にスパークが迸り、離れていても物凄い熱を感じる。
「がっ、合体しやがっただと!?」
「凄いんだよ! カッコいいんだよ!」
「クッ、倒された機体同士で合体する……なんてロマンがあるんだ!」
「ロマンとかはわからないけれど、ちょっと厄介な感じがするわ」
「単純に4体分の力が合わさったと考えたら脅威ですよ」
「やっぱりすんなりと終わらせてはくれないのでありますね」
完全に機能停止したと思ったのにまさか合体とは!
しかも壊れた部分も合体と同時に修復されてやがるぞ。
驚く俺達を見てエルシアは満足げに語り出した。
「ふふふ、驚いてくれたかな? この烈・Ω六式改、見た目だけで驚いてもらっては困る。通常魔導機兵の6倍のエネルギーゲインがあるのだ。αからδの機能は勿論のこと、Ω専用の対消滅エネルギー波も放つことができる。はっきり言おう、君達に勝ち目はないぞ」
ぐっ、何を言ってるかよくわからないが何か凄いことはわかった!
Ω型の威圧感は凄まじく、赤いモノアイに見つめられてロボットなのに足がすくみそうだ。
神話級のサレナ程じゃないけど、俺ですらこいつの強さを感じられるぞ。
こんな奥の手があったからあんな余裕そうにしていたのか!
「まあ、問題があるとすれば3分で活動限界が来ることだね。動力源が耐え切れずに暴走してドカンとなるのだよ。山脈が軽く消し飛ぶぐらいのエネルギーになるだろう」
「は!? ふざけるなよ! そんなのさっさと止めろよ!」
「それが困ったことにさっきから操作を受け付けなくてね。動力源だけじゃなくて制御にも異常が出ている。はは、困ったものだ。だからΩは使わないようにしていたのだが、気分が高揚してついやってしまった」
「ついやったで済む話じゃないのでありますよ!」
「最悪ね……。私でもあのお姉さんはちょっと危ない気がしてきたわ」
「なかなかに狂っている方ですね。あれがマッドサイエンティストってやつですか」
「マッドサイエンティストとは失礼な。私は正常だよ。とにかく頑張って戦ってくれたまえ」
山脈を消し飛ばす爆発とか自分もろともじゃねーか! マジで何考えてやがるんだこいつ!
くそ、ただでさえ強そうなのに制限時間内に倒さないとダメなのかよ!
これがURユニットバトル上級……ここまでやべー奴が出てくるとは。




