ボス部屋を目指して
1つ目のワープ地点を登録した後、新たに地図アプリへ表示された他のワープ地点も解除して回っていた。
場所が判明していたので迷うことはなかったが、数日かけてようやく最後の6個目を解除し終え報酬がスマホに表示される。
【ハジノ迷宮階層内第6ワープ登録しました。50階層内でのみ移動可能です。解除報酬:プレミアムチケット3枚】
「ウェヒヒ、この迷宮最高だな!」
「完全に目的がワープ解除になっているのでありますよ……」
「でも闇雲に探索するよりは目標があった方がいいじゃない。おかげで地図アプリもだいぶ埋まってきたもの」
ワープ登録をする度に解除報酬を貰え、すっかりホクホク気分だ。
●装備強化権
●魔石150個×3
●プレミアムチケット3枚×2
これだけで既に迷宮攻略並の報酬……ここをクリアしたら一体どれだけ凄い報酬が貰えるのだろうか。
そのことを考えて思わず顔をニヤケさせていると、アルブスが訝し気な表情で俺を見ていた。
「魔導具でワープできるようになっただけなのに異様に喜んでるわね。怪しい……」
「そ、そんなことありませんよ! 魔導具に他の台座の位置が表示されたから向かっただけですし!」
「私達の魔導具じゃワープの登録すらできないし、君達の魔導具は上位互換品みたいだね。ボス級の魔物からのドロップ品なのかな?」
「あー、そんなところですね。でも攻略報酬だったので、ここで手に入れるのは難しいと思いますよ」
「そっかぁ。他の迷宮の攻略にも役立ちそうだし、騎士団としても是非欲しかったんだけどなぁ」
レビィーリアさんは本当に残念そうに俺のスマホを見ている。
本当のことは言えないからもう入手不可能だと言い訳したが、騎士団の人に欲しがられるとちょっと怖いな……。
台座に置く度報酬が貰えてることも言ってないし、露骨に喜ぶのは止めておこう。
「これで表示されてたワープの登録は終わったけど、まだボス部屋が見つからないな。ボス部屋はなくて下の階に行く階段がどこかにあるのか?」
「ボスがいないとは思えませんが、大きなボス部屋はないかもしれませんね」
「どういうことだ?」
「この台座の部屋のように、ボスの居場所も魔法陣で転移した先にじゃないですか?」
「うげ、そうだとしたらこのだだっ広い階層の中から、手がかりなしでその部屋を探さないといけないのか……」
今まではボス部屋となるとちょっと広い空間だったから、地図アプリで表示される範囲に引っかかればすぐにわかる。
まだこの階層がどれだけ広いかもわかっていないのもあるけど、シスハの仮説通りだったら更に見つけるのは困難だ。
やはりまずは迷宮の端っこまで進むしかないのだろうか……。
そう考えていると、エステルも予想を口にし始めた。
「確証はないけれど、台座への魔法陣があった場所からある程度絞れるんじゃないかしら? 魔法陣をこれだけバラけさせているんだから、少なくともこの近くにはないと思うの」
「じゃあもうわかってる魔法陣がない場所を探せばいいんだね!」
「それでもまだまだ範囲は広いのでありますよ。魔法陣があった場所も端っこじゃないでありますし……」
「だからもう1つ予想を立ててみたの。魔法陣のあった場所を線で繋いで、その中心に向かってみるのはどう? 闇雲に探すよりは可能性が高そうでしょ」
「なるほど……アルブスさん達もそれで構いませんか?」
「特に言うことはないわ。戦闘だけじゃなく地図まであんた達に頼りっぱなしだし、その案も悪くなさそうだしね」
確かに各ワープ地点は結構離れているし、わざわざ地図アプリで表示させるのは何かしら意味があるはず。
隣り合った魔方陣地点を線で繋いで囲いを作ってみると、ちょっと歪な六角形になったから目指すならその中心だ。
アルブスの許可も貰えたので早速そこへ向かうことに。
しばらく移動して襲い掛かってくるボスモンスターを退けていたが、流石に疲れてきたので一旦休憩のためディメンションルームに避難した。
ついに45層の中ボスであるバジリスクまで徘徊していやがる。
倒せなくはないけど雑魚敵のように湧いていい魔物じゃないよなぁ。
このままだと戦うのも大変だし……今がちょうどいい機会か。
休憩をする中アルブス達に聞こえないように離れつつ、俺はノール達にある提案をしてみた。
「せっかく装備強化権を手に入れたし、今のうちに強化しておくか。これからボス戦もあるかもしれないしな」
「1つだけでありますから……強化するとしたらルーナでありましょうか?」
「そうね。私達の中で1番攻撃力が高いもの。次で星5にもなるし適任だわ」
「ルーナちゃんがまた強くなるんだよ! 頼りにしてるね!」
「僕もヴァラドさんなら賛成だね。精霊樹の迷宮での姿が目に焼き付いているよ」
「問答無用で大賛成です! 私が反対する訳ないじゃあありませんか!」
「むっ、そこまで言うなら引き受けよう。ボスの相手は任せろ」
満場一致の賛成となり、ルーナのブラドブルグを強化することになった。
武器が強くなればスキルのカズィクルの威力も更に上がるし、防御や耐性を無視して大ダメージを与えられるのは唯一無二の強みだ。
――――――
●ブラドブルグ☆5
攻撃力+8400
HP吸収(与えたダメージの10%)
自動回収
自動追尾
投擲誘導
行動速度+30%
攻撃時30%の確率でHP吸収(与えたダメージの20%)
カズィクル使用時、攻撃力60%上昇
――――――
ついに星5まで強化されたUR武器か……。
SRのエクスカリバールと比べると、攻撃力の上昇幅が比較にならないな。
しかも単純に限凸するだけで能力も増えていくし、やはり高レアリティの方が重ねたら強いか。
まあ、これは専用UR装備だからルーナしか使えないんだけどな。
俺は地道にエクスカリバールを強くしていこう。
休憩も終わり更に丸1日かけ、地図アプリ上で印を付けた目標地点に辿り着いた。
「さて、この辺りが中心だと思うんだが……」
「平八! あっちに大きな扉があるよ!」
「おっ、まさかの当たりかよ」
フリージアが指差す先を見ると、如何にもボス部屋ですと言わんばかりの巨大な扉があった。
大きな鍵穴もついていて、開けようと手で押してもビクともしない。
地図アプリで内部構造は見えるが広い部屋じゃないから、やはり転送用の魔法陣があるのだろうか。
「鍵が掛かっているみたいだな」
「この広い階層内で鍵まで探すとなると普通心が折れますよ。まあ、どうせいつものあれですよね?」
「よし、道は開いた。中に入るぞ」
「もう聞く前に使っているのでありますよ……」
「楽でいいじゃない。迷宮内の移動で何度も使ってたから、もうすぐに取り出せる場所に仕舞ってあるものね」
ノール達と話す間もなく、俺はディメンションホールを扉に突き刺していた。
こんなとんでもない広さのある階層内から鍵を探すなんて正気の沙汰じゃない。
無事に扉の中へ入ると、台座部屋の魔法陣より一回り以上大きな魔法陣が床に描かれた部屋だった。
「エステルの予想通りか。この先がボスのいるエリアってことか?」
「そうだと思うわ。またマルティナにゴーストを先行させてもらいましょうか」
「任せて! 頼んだ僕の友よ!」
転移する魔法陣となれば、マルティナにゴーストで偵察してもらうのが安心安全な手段だ。
さっそくゴーストを呼び出し魔法陣に乗ってもらうと、一瞬で姿が消えてどこかへ飛ばされていく。
そしてマルティナは目を閉じると、ムムッと眉間に指先を当てて無言で念じている。
「どうだ?」
「……おかしい。視界共有ができないよ! ――あっ、やられた!? そそそ、そんな馬鹿な!」
「ちょ、落ち着け! 何があったんだ!」
「ぼ、僕の友達がやられちゃった……」
ゴーストがやられたのはわかったが、一体向こう側で何があったのだろうか。
マルティナは慌てていたが、すぐに魔法陣から紫色の光が出てきて彼女の中に吸い込まれていく。
すると一安心といった様子で胸を撫で下ろしている。
さっきの紫の光はゴーストを形成していた魂だろうか。
ノールも気になったのかマルティナを心配していた。
「ゴーストは大丈夫だったのでありますか?」
「魂は回収できたからよかったぁ……。転送先は異空間だったけど戻って来られたよ」
「視界共有はできなかったのよね? 回収した魂から情報は得られた?」
「天井がない外のように広い場所みたい。あっちに行ってすぐに体が維持できなくなったらしいよ。魔物にやられた訳じゃなくて、僕の力が霧散しちゃったんだ。ボスは近くに見当たらなかったってさ」
「特殊な空間のようですね。前のようにゴーストだけ飛ばして確認するのは厳しそうですよ」
うーん、ボスエリアだけあって不正は許さないってところか?
転移先は視界共有もできないみたいだし、マルティナのゴーストによる偵察は諦めるしかなさそうだ。
「仕方ない。罠がなさそうなのはわかったし、今回は真っ当に戦いに行くとしよう」
「本当に渋々って感じがするでありますね……。大倉殿から真っ当って言葉を聞くのは新鮮なのであります」
「ふふ、お兄さんだもの。けれどそのお陰で安全に探索ができるんだからいいじゃない」
「大倉さんぐらい臆病――ごほん、慎重な方がいるのは助かりますよ。卑劣な手段もすぐ思いつきますからね」
不要な危険要素は排除するに限るからな。
戦う前に出来るだけ情報は得たいし、楽して勝てるなら手段は選ばない。
とりあえず普通に戦う決意を固め、アルブス達にも確認を取る。
「アルブスさん達も準備はいいですか?」
「準備万端よ。いつでも来なさいっての!」
「君達の様子からして、この先にいるボスは油断ならないみたいだね。気を引き締めるとしますかな」
騎士団の準備も完了し、俺達は魔法陣の上に乗る。
すると視界が一瞬で切り替わり、そこは真っ赤に染まった空が広がる異様な空間だった。
天井もなく壁も見当たらないが、所々黒い地面が隆起して凸凹している。
ボスはどこにいるのか辺りを見回していると、突如巨大な咆哮が上空から響く。
そして空を見上げてみると……大きな翼を持つ黒いドラゴンが飛んでいた。




