新たな台座
ハジノ迷宮50階層探索開始から3日目。
俺達は未だに当てもなく迷宮内を彷徨っていた。
広いとは聞いていたが、50階層の広さは俺の想像を遥かに超えていた。
既に探索済みの範囲だけでも、街1つは余裕で作れるぐらいには広大だ。
「マジで広過ぎだろ……」
「丸1日一方向に進んでみても端が見当たらないと思わなかったわ」
「魔物が少ないのだけは救いでありますよ」
「少ないと言っても基本ボス級なんで、気楽に移動はできませんけどね」
やはりこの階層は今までのボス級の魔物が普通に徘徊していて、既に何十体も遭遇している。
今もスマイターと戦闘中で、マルティナとフリージアが相手をして瞬殺していた。
前回と同じ方法でマルティナが弱点を見抜き、フリージアが矢を射るというお手軽討伐だ。
「わーい! またスマイターを倒したんだよ!」
「クックッ、これで10体目だね。あっ、またドロップアイテムだ!」
「ふむ、何が落ちるか興味深い」
あのスマイターがその辺にいる魔物のように湧いて、同じように簡単に狩られる姿は何とも言えない。
だが、一応希少種扱いで魔石も手に入るし、ドロップアイテムも希少だから狩り得。
武器や防具、謎の置物などが落ちているが、どれも特殊能力のある魔導具で良い稼ぎになりそうだ。
そんな俺達を見て、アルブス達はもう驚きを通り越して呆れ気味になっている。
「本当にあんた達と一緒だと感覚狂うわね……。狩られる魔物が哀れに思えてきたわ」
「的確に魔物の位置がわかっているからね。奇襲で反撃する暇さえないのは見てて恐ろしいよ」
「助かりますけど私達がやれることが殆どありませんね」
「これで何故Bランク冒険者なんだ……」
ボス級の魔物は危ないから、地図アプリで反応を確認次第積極的に狩ることにしていた。
今のところ確認したのは、35階層にいたスマイターまでのボス級の魔物。
時にはスマイターが2体、スケルトンパラディンが3体同時に居たりと油断できない時もあった。
なので個別におびき寄せて倒したり、ルーナのカズィクルをぶっ放してからディメンションホールで遠くの通路に逃げたりと色々な戦法を取っている。
呆れた空気をしている騎士団だったが、レビィーリアさんがある提案をしてきた。
「大倉君、もし良ければ無事に脱出できたらスケルトンパラディンのドロップアイテムを売ってもらえるかな? 普段じゃ手に入る機会が滅多にない物だからさ」
「それは構いませんけど……一緒に狩りをしているので取り分としてお譲りしますよ」
「いやいや、私達は全然活躍できてないし、あんな風にボスを瞬殺できないからね。スケルトンパラディンの装備は滅多に落ちないからこの機会に欲しいんだ」
「わかりました。ならパラディンを見かけたら積極的に狩っていきますね」
「普通ならこの状況に絶望するところだけど、逆に魔物を狩りまくろうって思うのあんた達ぐらいよ」
アルブスも既に最初のツンツンした雰囲気もほぼなく、やれやれと首を横に振りやるせない感じだ。
確かに迷宮のボス級魔物をこんな沢山狩れる機会は滅多にないし、有用なドロップアイテムなら欲しいか。
スケルトンパラディンは聖騎士系の装備を落とすっぽいから、騎士団が欲しがるのも頷ける。
……へへっ、買い取ってもらえるのなら神魔硬貨との交換を狙ってみるか。
そうやり取りをしつつも進んでいるが、一向に地図アプリ上で進展はない。
ひたすら部屋と通路が無数に続いていて、どっちへ進んでいいのやら。
「地図アプリである程度確認できたけど、まだボス部屋がどこかわからないな」
「今探索できた範囲で全体の何割かすらわからないもの。ひたすら進むしか方法はなさそうね」
「これでは騎士団が探索しきれなかったのも頷けますよ。下手に進むだけで帰れなくなりそうです」
「うーん、その話なんだけど、いつもは多少迷宮も配置が固定されていたんだよ。それで10階層のようなルーレットがあって、外すと入口に戻されるからそれを利用していたんだ」
10階層の鬼畜ルーレットまで配置されていて、それで帰るとは斬新な発想だな……。
けど、話を聞く感じ通常時とはずいぶんと差がありそうだぞ。
「これだけ移動してもルーレット部屋に当たってないですよね。まさか普段よりも広くて内部構造も違うってことですか?」
「その可能性が高いんじゃない。徘徊する魔物までボス級ばかりになるし、あんた達迷宮に恨まれることでもしたの?」
「そんな恨まれるようなことは…………い、一切していませんよ」
「何よ今の間は! 心当たりあるんでしょ!」
「ちょっと考えるだけでも心当たりあるでありますよね……」
「そうね……。ギミック無視して進むのって恨みに含まれるかしら?」
「私が制作者だったらぶん殴りに行くと思いますよ」
シスハがボキボキと拳を鳴らして物騒なことを言っている。
そんなまさか、迷宮に恨まれるなんてあるはずないじゃないか。
俺達はアイテムを活用して効率よく進んでいただけ。
それでこんなことされたら逆恨みもいいところだ。
その後も代わり映えのない探索を続けていると、地面に魔法陣の描かれた部屋を発見した。
「おっ、なんかそれっぽい魔法陣が出てきたな……どうする?」
「……転移系の魔法陣だわ。乗れば発動すると思うけど、どこに飛ばされるのか注意は必要ね」
「騎士団じゃ基本転移系の罠には入らないかな。リスクが高すぎるからね」
流石エステル、魔法陣を一瞬見ただけでどんな効果があるかわかるのか。
しかし転移系か……レビィーリアさんが言うように、飛ばされる先を考えたらリスクが高いな。
だけど代わり映えしなかったこの階層でようやく現れた物だ。
……よし、ここはマルティナを頼るとしよう。
「マルティナ、ゴーストで偵察できるか?」
「多分大丈夫かな。1つに絞れば数百キロ離れても平気なはずだよ。何かあってもすぐにゴースト化を解除すれば、完全な霊体になるから危険もほぼないからね」
「よし、それじゃあ頼んだ」
マルティナが1体のゴーストを出現させ指示を出し魔法陣の上に移動させた。
すると魔法陣が強く輝いて、ゴーストの姿が一瞬でいなくなる。
すぐにマルティナがゴーストの行き先を探ると、繋がりも切れずに視界共有も出来たようだ。
「転移先はどんな感じだ?」
「……敵はいないね。場所はちょっと離れているけどこの階層内だ。30階層で見たあの台座が置いてあるよ」
「えっ、それってスマホを置くやつか?」
「多分同じだと思う。君も確認してみてよ」
マルティナの手を握って視界共有してもらうと、ゴーストの見ている視点が俺にも見えた。
小さな部屋の中央に台座があるだけのシンプルな場所で、魔物もいないし特に罠もなさそうだ。
肝心の台座にはスマホをはめ込める穴が空いている。
「うーん、同じっぽいな。危険はなさそうだがどうするか……」
「私はパス。ここで待つから行くならあんた達だけで行きなさい。転移系は油断できないから行くなんてごめんだわ」
「怖いのか?」
「こ、怖くないし! 危険があるかもしれないから警戒して当然でしょ!」
「怖いんだな」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」
ルーナに煽られてアルブスが悔しそうにしている。
アルブスの言い分もわからなくないけど、完全ではないが危険がないのも確認できた。
俺としては是非行ってみたいのだが……。
どう説得しようか悩んでいると、レビィーリアさんが助け舟を出してくれた。
「まあまあ、マルティナちゃんが偵察してくれたんだから信じようよ。ここまでゴーストの偵察で安全に進めた実績もあるじゃんか」
「え、えへへ……友達のおかげですよ」
「本当に助かるよ。それに下手に分散しても危ないし、行くなら全員が無難でしょ」
「……はあ、わかったわ。でも、これで何かあったら覚悟しておきなさいよ」
よっしゃ、やっぱりレビィーリアさんの説得なら俺達がするより素直に頷いてくれるな。
さっそく全員で魔法陣に乗ると、先ほどと同じように輝いて一瞬で周りの風景が変わった。
ゴーストで視界共有した部屋と同じ場所で、1人も欠けずにちゃんと転送されている。
「とりあえず危険はなさそうでありますね」
「ええ、あの台座があるだけの部屋みたい。お兄さん、スマホを置いてみたら」
「そうだな」
さて、果たしてこの台座にはどんな機能があるのかな。
流石に迷宮攻略達成にはならないだろうけど、探索しやすくなる何かしらの効果は期待できるはずだ。
【ハジノ迷宮階層内ワープ登録をしました。50階層内でのみ移動可能です。地図アプリ上に他のワープ機の座標を表示。解除報酬:SSR装備強化権】
なん……だと!?




