合同迷宮探索
レビィーリアさんと約束した日になり、俺達はハジノ迷宮から少し離れた場所で待ち合わせをしていた。
目印である大きな岩の方へ行くと、既にレビィーリアさんがいて他にもフードを被った3人組もいる。
この前のように認識阻害の魔法を使用しているのか、どんな顔をしているのかぼやけてわからない。
存在はわかるのに顔が認識できないのは、何とも不思議な感じがするぞ。
「いやぁー、今日は来てくれてありがとう。無理に付き合ってもらっちゃって悪いね」
「お世話になっていますので。そちらの方々が?」
「この前君達が会った3人だね。お互いにまずは自己紹介をしようか」
レビィーリアさんがそう手で合図をすると、後ろにいた3人組はフードを外した。
認識阻害が解除されたのか、ぼやけた感じが消えてハッキリと顔を認識できる。
羽織っているローブに認識阻害をする効果が付与されていたのか?
「リンフィアと申します。この前は大変失礼いたしました」
「テペルだ。面倒ごとになって申し訳ない」
「アルブス、よろしく」
リンフィアさんはオレンジの髪を一本に結わいた大人な雰囲気の女性で、テペルさんは緑色の短髪をした青年だった。
そして問題であるアルブスは……白い髪を後ろで一本に束ねて、真っ赤な瞳をした少女だ。
ぶっきらぼうに片手を上げているが、俺達を睨んで敵意むき出しなご様子。
そんな彼女に対して、レビィーリアさんは呆れたように溜め息をついている。
「もうちょっと愛想よくしておこうよ。あなたの我がままに付き合ってくれてるんだからさぁ」
「うっさいわよ! あんたまで私が悪いとでも言いたいの! どう考えても怪しいでしょこいつら!」
「レビィーリア様本当に申し訳ありません……」
「いやいや、リンフィアが謝ることじゃないよ。今に始まったことでもないしね……」
「レビィーリア様は悪くないですよ。全部うちのアルブスのせいです」
「ちょっとあんた! 上官に向かってその態度は何! そこは私の味方をするべきでしょ!」
ギャーギャと叫ぶアルブスに対して、他の3人が責め立てている。
何となくだけど彼女の騎士団での扱いがどんなかわかる気がするな。
というか、話を聞く感じリンフィアさんとテペルさんはアルブスの部下なのか?
レビィーリア様って言ってるし、2人は隊長格ではなさそうだ。
あまり記憶に自信はないけど、俺の知るGCのアルブスと背丈や顔はかなり似ている気がする。
だけどGCだと性格は純粋無垢で髪型もただの長髪だった。
口調も丁寧でこんな語気も強くなかったはずだ。
今の段階じゃまだGCのアルブスなのか断定はできないな。
とりあえず俺達も自己紹介をしておこう。
「大倉平八です。このパーティーのリーダーをしています」
「ノールなのでありますよ! よろしくお願いするのであります!」
「エステルよ。よろしくね」
「シスハです。よろしくお願いいたします」
シスハまで挨拶を終えたところで、アルブスがじろりと俺を見てきた。
えっ、何もおかしなことはいっていないはずだが……。
「ふーん、あんたがリーダーねぇ」
「ど、どうかしましたか?」
「一番貧弱そうな人間だから気になっただけ。変な集まりね。それで残りの2人が――」
そう言って次にアルブスはフリージア達を見ると、それに気が付いた彼女は元気よく挨拶した。
「フリージアだよ! よろしくぅ!」
「……ルーナだ」
ルーナが腕を組んでアルブスを睨んでいると、お返しとばかりに彼女も食ってかかる。
「あんた達人間じゃないわよね。一体何なの?」
「質問するなら貴様が最初に言え。お前も人間じゃないだろ」
「何ですって! あんたが言えば私も言ってやる! 早く言いなさいよ!」
「い、や、だ。お前が先だ」
ルーナとアルブスはお互い真っ赤な瞳で睨み合い、バチバチと火花でも散りそうなぐらいの圧を感じる。
前回もそうだったけど、ルーナってめんどくさがりの癖に割と好戦的なのがな。
パッと見は美少女同士で微笑ましく見えるが、実態は怪物レベルの2人だから恐ろしいぞ。
一触即発な雰囲気なので流石に止めようとすると、その前にフリージアが割って入った。
「喧嘩は良くないよ! 私はエルフなんだよー。アルブスちゃんはどんな種族なの?」
「フリージアって言ったっけ? あなたは話がわかる良い子みたいね。仕方ない、この娘に免じて私が先に教えてあげる」
「ちっ、余計なことを」
「感謝するのね! 聞いて驚くな、私は龍人よ!」
アルブスが胸を張って、どうだ参ったかと言わんばかりの顔をしている。
だが、ルーナは特に驚く素振りもなく平然としていた。
まあ既にアルブスが龍人だって知っているから驚かないよな。
「そうか、私は吸血鬼だ」
「はあ!? 吸血鬼! ならあんたやっぱり魔人でしょ!」
「魔人というのはデーモンじゃないのか?」
「大体そうだけど前に戦った奴の中に血を吸う奴もいた! あんたもあいつと一緒ってことでしょ!」
またギャーギャーと2人が騒ぐのを他所に、アルブスが言ってることが気になったので俺はレビィーリアさんに質問してみた。
「私達も詳しく知らないんですけど、魔人って結局なんなんですか? 少なくともルーナは魔人と全く関係ありませんよ」
「正直定義は曖昧なんだけど、200年前の戦争で滅んだ魔人の国の関係者ってところかな。色々な種族が入り混じった国だけど、主体はデーモンだったって話だね」
「その中に吸血鬼も混じっていたって話ですか」
「現状騒動を引き起こす魔人の中じゃ未確認だけどね。アルブスは前の戦争にも参加していたから、魔人に対して人一倍敏感なんだ。本当に申し訳ないけど大目に見てもらえないかな?」
「あー、まあ……」
龍人だから長寿なのはわかるけど、アルブスは200年前には既にこの世界にいたのか。
そうなると色々な可能性が考えられるが……詳しくは後でエステル達と話し合うとしよう。
今はこうやって少しずつ教えてもらって情報を集めていくかな。
よし、これで全員の自己紹介も終わった……ん? 何か忘れているような。
「あのー、僕のことも忘れないでほしいかな……」
「うわっ!? 誰! いつの間にそこにいたの!?」
「最初からいたんですけど……。マルティナです、よろしくお願いします……」
「こ、この私が気配を察知できない人間がいるなんて……まさか魔人!?」
アルブスはその場から飛び退いて、急に現れたマルティナにビビり散らかしている。
やべ、存在感が薄過ぎて挨拶していないのを忘れるところだった。
そもそも相手が4人もいたから、ローブの効果を使ってたんじゃないだろうな?
マルティナまで魔人か疑うとは、それだけ突然出てきたのに驚いたのか。
「本当に大丈夫なんですか? 人間まで魔人か疑っていますけど……」
「うん、ごめん……アルブス、いい加減にしなよ」
「ちょ、離せ! 持ち上げるな!」
アルブスはレビィーリアさんに後ろから持ち上げられ、手足をジタバタと動かし暴れている。
だが、しばらくするとしゅんとなり頬を膨らませ大人しくなった。
おやおや、扱いに随分と手慣れているな。
今度こそお互いに挨拶し終えたので、さっそくハジノ迷宮について話すことにした。
まず聞きたいことは30層目までのワープ方法。
俺達はスマホからビーコンのように飛べるけど、それは隠してレビィーリアさん達に任せるつもりだ。
「それで30層目までのワープはどうやるんですか? 可能ならエステルにも教えてほしいです」
「知識があればって言ってたし、魔法陣に何かしら干渉して使うのよね?」
「いえ、申し訳ありませんが実はあの時は誤魔化すために嘘をつきました。本当は専用の魔導具が必要なんです」
リンフィアさんが懐から何かを取り出して俺達に見せてくれた。
それは手のひらサイズの四角い板で、表面に薄い透明な板が付いている。
彼女が表面に触れるとその板が発光し、文字が浮かび上がる。
これって……液晶画面じゃないか!
「そ、それは!?」
「階層転移機と私達は呼んでいます。これはハジノ迷宮でドロップしたもので、この迷宮でのみ使用可能です」
「へぇ、つまりそれを手に入れれば30層まで一気にワープできるのね」
「はい、騎士団でも一部の者のみ貸し出しが許可されている物です。30層以降でごく稀に魔物が落としますよ」
「ここ10年ぐらいで1個しか落ちてないから、基本的に手に入ると思わないでよね。私達のおかげですぐに30層に行けることを感謝しなさい!」
「こら、そんな恩着せがましい言い方しない。全く、そんなにルーナって子に対抗意識燃やしちゃって」
「そ、そんなんじゃないし! あいつむかつくんだもん! 私が龍人って知ってもこれっぽっちも動揺しないし……魔人でさえ正体を知ったら驚くのにさ」
自分は龍人だと言った後にルーナに食ってかかったのはそんな理由だったのか。
最低でも200歳以上のはずだが、子供っぽい部分もだいぶあるんだな。
それよりもリンフィアさんが見せてくれたあの小型端末……スマホとは別物だがあんな物が落ちるのは驚きだ。
国の組織なだけあって、認識阻害のローブやらワープ端末などガチャアイテムを彷彿させる魔導具を持っているのか。
これは思っていた以上に油断ならない相手になりそうだぞ。




