説得の行方
数日の期間を経て、またレビィーリアさんから図書館へ呼び出された。
いつも通り制限区域へ行くと、彼女が椅子に座って机に顔を伏せ疲れ切ったご様子。
俺達が来たことに気が付いたのか、力なく片手を上げている。
「やぁ……」
「ず、随分とお疲れのようですね」
「お疲れというかやつれているわよね。何かあったのかしら」
「あはは……あの子を説得するのに苦労してね……」
顔を上げたレビィーリアさんは、若干頬がこけて見るからに疲労困憊だ。
たった数日しか経っていないのにこのやつれよう。
一体説得とやらで何があったのだろうか。
俺達も席について話を聞くことにした。
「私達を呼んだってことは、どんな結果だとしても話がまとまったってことよね?」
「うん、だけど全てが穏便に済んだ訳じゃなくてさ。君達に報告するのと併せて、ちょっとお願いをしたいんだ」
「ふーん、依頼じゃなくてお願いだなんて控えめな言い方ね。それだとお姉さんが不利になるわよ」
「私の言葉だけじゃ説得し切れなくて、君達にお願いする形でしか抑えられなくてさ。これで断られでもしたらと思うと……」
「自分達も結構無理を頼んだと思うので申し訳ないです」
「いや、取引の約束を守り切れなかった私に非があるからね」
普段はおちゃらけた雰囲気のあるレビィーリアさんが、今回は終始困ったような素振りをしている。
彼女が説得し切れなかったっていうのも驚きだけど、俺達に断られるのを恐れているって一体どんな頼みなのだろうか。
「それであの子達が内々で終わらせる条件として、ハジノ迷宮探索に君達と同行させろって言ってきたんだ」
「えっ、一緒に迷宮攻略しようってことですか!?」
「うん、魔人じゃないならそれぐらいできるだろって言われてさ。3人の内2人なら上手く言いくるめられたんだけど、1人だけは断固として譲らなくてね。どうしても君達ともう1度会いたいみたい」
おいおい、騎士団と一緒に迷宮探索をしろだと!
あの3人の中でそんなこと言いそうなのは……アルブスしかいないよなぁ。
迷宮で見たやりとりと同じように、大声で怒鳴り散らして大騒ぎしてそうだ。
それでレビィーリアさんは説得を諦めて、俺達にお願いしてきたって訳か。
「そっちもある意味弱みを握られているのに強気ね。お互い見なかったことにするのが無難な落としどころじゃない」
「そう私も何度か言ったんだけどねぇ。私は別に困らないし! って言うこと聞いてくれなくて……最終的には引き下がってくれそうだけど、中途半端にすると後が怖くてさ」
「後が怖い、ですか?」
「1度気になったことは何としても知ろうとする子でね。その場で誤魔化しても独自に動いて調べ出すはずだ。もう君達は冒険者ってわかっているし、Bランクってことも知られている。そこまでわかれば……ね?」
「騎士団としての権力や情報網を使えば、私達にはすぐ辿り着きそうだわ」
エステルが代わりに最後まで言ったけど、アルブスはもう十分過ぎる程情報は知っているってことだ。
それなら変に隠すよりも要求を受け入れた方がマシかもしれない。
だからレビィーリアさんも下手に諦めさせるんじゃなくて、俺達に同行をお願いしてきたのか。
俺が1人で納得していると、エステルが疑問を投げかけていた。
「さっきからあの子って言ってるけれど白髪の子よね? 感情的に動きそうな子だったけれど、そういう伝手も使うのかしら」
「まあわかっちゃうよね。正直私もあの子のことは全部わかってないんだ。直情的かと思えば意外としたたかだったりさ。どこまでが本心なのかよくわからないんだよねぇ。あのわがままな感じも本気じゃないような……っと、これは関係ない話か」
やはりアルブスのことだったけど、レビィーリアさんも引っかかる点があるようだ。
俺の知ってるGCだとアルブスはあんな大騒ぎする性格じゃなかったからなぁ。
うっかり話しちゃった感じがするが、今の話は頭の隅に置いておこう。
「という訳で君達の話を秘密にする代わりに、一緒に迷宮攻略をしてもらいたいんだけどどうかな? あの3人だけじゃなくて、今回は私も同行させてほしい」
「レビィーリアさんもですか!?」
「橋渡し役をしておいて自分は無関係って訳にもいかないからね。このまま押し付けたら残りの2人や君達にも恨まれそうだからさ……」
レビィーリアさんまで一緒に来るとは、よっぽどアルブスが何をするのか心配なのだろうか。
でも何かあった時に間に挟まってくれそうだし、話もスムーズに進むだろうから助かるな。
だけど同行ってことは、俺達の戦い方やガチャの道具も見られる。
果たしてこの場で返事していいか……ここはあの手しかない!
俺がチラッとエステルを見ると察してくれたのか、頬に片手を添えて少し考え込んだ。
「そうねぇ……私は話に乗ってもいいと思うわよ。お兄さんはどう?」
「ああ、エステルが言うなら問題ないだろう。ノールやシスハ達だって納得するはずだ」
「そう言われると照れちゃうわ。ただし、絶対にこれ以上他の人に私達との関わりを漏らさないのが条件だけどね」
「それは当然守るよ。あの3人も1度した約束は絶対に守るから安心してほしい。君達に譲歩して貰ったのに約束まで反故にしたら、それこそ騎士の恥さ」
エステルの賛成意見が出たので、レビィーリアさんの提案を受け入れることに。
話もまとまり迷宮探索の日程はまた後日となり今日は解散となった。
それから帰宅し、居間で待っていたノールとシスハにレビィーリアさんとの話を伝える。
「ええ!? あの人達と迷宮探索することになったのでありますか!?」
「エステルさんがお決めになったのなら問題はないと思いますが、これはまた突然な話ですね」
「即断だったけどエステルとしては悪い話じゃなかったってことだよな?」
「そうね。お姉さんの話からして、拒否したら大事にしてきそうだったもの。それにアルブスって子の正体も気になっていたから、ある意味近づくチャンスじゃない?」
まだエステルの詳しい考えを聞いてはなかったけど、そんなことを考えていたのか。
レビィーリアさんの話を聞く感じ、拒否っていたら更に面倒ごとになる予感がした。
それにアルブスと近づくチャンスって言うのも納得できる。
「確かにアルブスの正体は知っておきたいし、相手から提案してくれたから話に乗りやすかったな。既に怪しまれてもいるんだから、むしろこれを機に魔人って疑いだけでも解いた方が無難か」
「いくら信用する人の言葉とは言え、自分の目で見るまでは疑う方もいますからね。それに騎士団の方と一緒に探索できるなら、あちらの実力も把握できて良いことづくめですよ」
「なるほど、そう聞くと提案を受けた私達の方が有利なのでありますか。エステルはよくその場でそこまで頭が回ったでありますね」
「メリットよりも断った時のデメリットを先に考えたんだけどね。でもこれでお姉さんにも恩を売れたし、悪い選択ではないはずよ。問題は私達の力やガチャのアイテムを知られるところだけど……そこは調整しましょう。あっちも力の全ては見せてこないと思うわ」
アルブスのステータスを見れはしたけど、他の騎士団の実力は知らないからな。
どのぐらい強いのか知れるのは良い機会だ。
だが、逆にレビィーリアさん達にも俺達がどんな探索をしているかバレるから、見せてもいい範囲は考えないといけない。
この迷宮探索、いつもとは違った緊張感を味わいそうだな……。




