狩りと開発
2回目の商談も無事に終わり休暇も取ったので、ようやく本格的な狩りを始動した。
ノール、シスハ、マルティナはレムリ山でリザードマン狩り。
俺とフリージアはルゲン渓谷でラピス狩りの二手に分かれている。
地下都市の活躍分でルーナは今も休みで、エステルは出発前に皆へ支援魔法だけして自宅で商品開発。
それほど負担なく緩く長期的に狩りをするつもりだから、ノール達は基本マルティナのアンデッド半自動狩りで、俺達は魔導自動車で走り回りながらの狩りだ。
もう数日続けているけど夕方の定時で上がり、以前に比べれば不満は少ない……主にノールの。
そんなこんなで現在も俺が車を運転しつつ、助手席でフリージアがマジックタレットを操作している。
「あはは! それそれ! 狙い撃つんだよ!」
広大な岩山であるルゲン渓谷を車で駆け回り、目についたラピスをフリージアが次々と撃ち抜いていく。
ドリュリュと火を噴くマジックタレットが石を粉砕すると、光の粒子になって消えていきラピスだったのがわかる。
魔導自動車の機能でドロップアイテムも勝手に回収されるから、ただ走り回って銃で撃ち抜くだけの簡単な作業だ。
この一方的に相手を倒していくのはまさに狩りって言えるよな。
「本当によくラピスがどれか見分けられるな。俺からしたらその辺の石と大差がないぞ」
「何となくキュピーン! ってわかるんだぁ。後ろにも目をつける感じなんだよー。あっ、あそこにもいる!」
会話の途中で新たな標的を見つけたフリージアが、瞬時に照準を合わせてラピスを撃ち抜いている。
なるほど、何を言っているのか全くわからん。
完璧に石に擬態しているラピス達も、彼女の目にかかれば一目瞭然らしい。
ここ数日で既に500体は下らない数のラピスを倒し、おまけで10体のルペスレクスも倒している。
魔導自動車とフリージアによる組み合わせは本当に恐ろしいもんだな。
普通に狩りをしていた頃が馬鹿らしくなってくるぜ。
なんて思ったのも束の間で、今日の狩りを始めて数時間もしない内にフリージアが愚痴り出した。
「むぅー、ちょっと飽きてきちゃったんだよー」
「おいおい、まだ始まったばかりだぞ。これから毎日狩りをしようぜ」
「やだいやだい! ここちっとも面白くないんだもん! 景色変わらないし魔物動かないし!」
そんなこと俺に言われても……って言いたくなるけど、フリージアの不満もわからなくない。
見渡す限り岩山が広がり、いくら走っても景色が全く変わらない。
しかも魔物は動かないラピスばかりで、延々とボタンをポチポチして処理するだけだ。
まあ、俺からしたらこっちは車で高速移動してるんだから、止まった相手でも当てるの一苦労なんだけどな。
こいつは他所を見て欠伸をしながら撃ち抜いてるから恐ろしい。
そんなフリージアからしたら、それが数日も続けば刺激もなく飽きても仕方ないか。
うーん、いつかこうなると見越してはいたからあれを使うとしよう。
「それじゃあこれでも見ながらやってくれ」
「えっ! 何か出してくれるの!」
「ああ、映画とかを流せる機能も追加しておいたんだよ」
「映画? よくわからないけど面白そう! 見せて見せて!」
さっきまで欠伸をしていたフリージアは、映画と聞いて目を輝かせて興味津々だ。
魔導自動車の追加機能で、モニターを使い映画やアニメを流す機能を追加しておいた。
魔石1個でランダム5作品ずつ追加される鬼畜仕様だったが致し方ない。
今後魔導自動車での移動は増えてくるだろうから、移動中暇にならないようにあっても損はない。
さっそくモニターに映画を流してやるとフリージアは夢中で見始めた。
ちなみに作品は古代の遺跡で秘宝を探す冒険物だ。
「わぁー、これが映画なんだね。スマホの偵察カメラみたいな感じかな?」
「あー、まあ映像の認識はそれでいいかな。その画面で見る漫画みたいなもんだ」
「そうなんだ! ワクワクしてきたんだよ!」
フリージアもよく図書館で漫画を読み始めたけど、映画もまた新鮮で面白がるはずだ。
この話をしたらマルティナも車に乗りたいって言い出しそうだな。
映画を見始めたフリージアが騒ぐかと思いきや、意外にも黙り込んで真剣に見ていた。
こいつはいつもはしゃいでばかりいる印象が強いが、集中し出すと途端に大人しくなるんだよなぁ。
だから黙らせるにはこうやって何かで興味を釣るのが有効的だ。
こんなに夢中になられるとマジックタレットの操作は大丈夫なのかと心配になったが、映画を見ながらもラピスを次々と倒していたから問題もない。
ははは……元々余所見しながら倒していたから不思議じゃないが、映画見ながら的確に撃ち抜くとかやっぱ恐ろしいわ。
それから数時間ラピス狩りをしていると、映画がエンディングに入った途端フリージアが声を上げた。
「あっ、終わっちゃった……。平八! 次見せて次!」
「待て待て、今日の狩りはそろそろ終わりだ」
「えー! まだ見たいんだよ! これ凄く面白かったもん!」
「明日も狩りに来れば見られるぞ。退屈しないんだからいいだろ?」
「むむむ……わかった。明日も狩りやるんだよ!」
よしよし、どうやら映画を流して興味を惹くのは大成功のようだな。
映画を見たければ狩りをするしかないとフリージアに刷り込みできたぞ。
実はハウス・エクステンションの施設追加にシアタールームもあるんだけど、これならしばらく追加しない方がよさそうだ。
夕方になり狩りを終えて、ノール達にも連絡を入れて帰宅した。
俺とフリージアが先に帰ってから、スマホで遠隔操作してノール達も帰宅させる。
マルティナが帰宅した途端にフリージアは喜々として今日のことを話し出した。
「マルティナちゃん! 平八に面白い物見せてもらったんだよ!」
「えっ、フリージアさん達も狩りをしてたんだよね?」
「うん! 車で映画ってやつ流してもらったんだ! それが凄く面白かったんだよ!」
「映画!? それって撮影して映像として作った物語だよね! 詳しく!」
おいおい、さっそくマルティナに映画のことを話しやがったぞ。
こりゃ後で俺も質問攻めにされそうだから逃げておこう。
そそくさと居間を離れて俺はエステルのいる部屋に移動した。
「あら、お帰りなさいお兄さん。もう帰ってくる時間だったのね」
「ただいま、時間を忘れるぐらい没頭していたのか?」
「ええ、魔法に関して何かやっていると楽しくて。ミニサレナも手伝ってくれるから色々と捗ったわ」
『ヤァー!』
「はは、もうすっかりエステルの助手だな」
エステルの周りを飛びながらミニサレナが声を上げている。
商品開発をするのに活躍できるだろうと、ミニサレナがエステルをサポートすることになった。
この部屋も開発用にハウス・エクステンションで追加した物で、色々な素材が置かれている。
「それで今日は何を作っていたんだ?」
「何の商品開発をするか決まったから、量産しやすい方法を考えていたの。もうある程度形にはなったわね」
「えっ、もう量産化する目処が付いたのか。もしかしてその魔法陣の刻まれた魔元石か?」
「そうよ。試しに今作ってみましょうか」
机の上にでっかい石板が置かれていて、表面には複雑そうな魔法陣がいくつも描かれていた。
これはルペスレクスのドロップアイテムである魔元石だけど、一体何を作ったのだろうか。
エステルは完成済みの宝石魔導具を1個中央に刻まれた魔法陣に置くと、まだ何も加工していないラピスの宝石を周囲の魔法陣の上に置いた。
そして中央の魔法陣に手をかざすと、魔元石全体の魔法陣が一瞬光った。
「はい、これで支援魔法が込められた宝石魔導具の完成よ」
「は? これだけでもうできたのか!? しかも一気に10個もできてるぞ!」
「ね、簡単でしょ? 試作機だから少な目に作ったけれど、効率化していけば1度に50個以上作るのも難しくないわ。どう効率化しようかミニサレナと考えていたのよ」
『ヤァヤァ』
ミニサレナは両手を腰に当てて自慢げに頷いている。
1個1個手作りしてたのが、一瞬で10個も作れるようになってるとか生産力飛躍し過ぎてませんかねぇ。
もうこれ産業革命起きちゃってるぞ。
エステルとミニサレナの組み合わせがこれほど恐ろしいとは、この平八の目をもってしても見破れなかった。
と、とりあえずどうなっているのか聞いておこう。
「難しいことはわからないけど一体どういう仕組みなんだ?」
「んー、そうね。簡単に説明すると元になる魔導具をコピーしているのよ。ほら、この大き目の魔法陣が元になる魔導具を解析する部分なの。解析された魔法を繋がった魔法陣に置かれた空の宝石に刻む仕組みね」
「なるほど、つまり元になる魔導具を変えればどの魔導具でも量産できるって訳か」
「ええ、最初は支援専用、通話専用って1個ずつ作ろうと思ったのだけれど、それって凄く手間じゃない? だから色々な物にすぐ対応できるようにコピー方式にしたの。これなら新商品を作ってもすぐに量産できるわ」
エステルはウィンクしながら可愛らしい仕草で言い放った。
うん、凄く簡単そうにコピーとか言ってるけど、とんでもないことしてるのだけはよくわかる。
これを応用したら宝石の魔導具以外も量産し放題になるんじゃ……。
これが世に出回ったら、この世界の魔導具のバランスが崩壊する予感がするんですが。
「ちなみにこれってエステル以外でも扱えるのか?」
「当然誰でも扱えるわよ。魔力さえ流せば誰でも同じことができるわ。外部の魔力も使えるようにしておいたから、月の雫を使えば魔力切れの心配もしないでいいからね」
「ははは……こんな物をよくすぐに作れたな……」
「褒めてくれてもいいのよ? あっ、でもまだまだ改善できる余地はあるわよねぇ。宝石を並べるのも手間だから、自動で配置する仕組みも考えておこうかしら」
『ヤァ! ヤァヤァ!』
「そうね。その考えも面白そうだわ。明日じっくり試してみましょうか」
エステルとミニサレナが悪い笑みを浮かべて何やら楽しそうにしている。
この2人を放っておいたらその内とんでもない物作り出しそうだな。
そう内心冷や汗をかいていると、机に置いていたスマホが振動し始めた。
「あら、お兄さんスマホが振動しているけれど……もしかしてガチャかしら?」
「あー、ガチャかぁ」
「お兄さんにしては反応が薄いわね。どうしちゃったの?」
「今は魔石を貯めている最中で目標も決めてあるからな。ランダム発生のガチャイベントは大して期待できないだろ。エステル達の誰かがピックアップされてたら話は別だけどさ」
「お兄さんも変わってしまったのね……。前ならどんなガチャでも喜々として回していたのに。今回も結局は回すんじゃないかしら」
「おいおい、俺は1度決めたことは断固として曲げない信念を持つ男だぞ。お前達の強化を優先すると決めたからには魔石を浪費する訳にはいかない。……ただまあ、どんなガチャが来たのか一応見るだけみておこう。本当に見るだけだからな?」
「ふふ、見るだけで済めばいいけれど」
『ヤァ?』
エステルは頬に手を当て微笑み、ミニサレナは首を傾げてよくわからなそうな反応だ。
宣言した通りノール達の強化を優先するつもりだから、生半可なガチャがきても回すつもりはない。
たとえユニットのピックアップだったとしても、対象次第じゃ普通にスルーまである。
この不動の精神を持つ平八の決意はそう簡単には揺るがないのだよ。
どれどれ、今回は一体どんなガチャイベントを用意してきたんだい?
【アイテムガチャ開催! 11連10回分までランダムでおまけ付き!】
やだぁ……このガチャ運営いやらし過ぎませんかねぇ。




