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危険な試作品

 エステル達が商品作りに励む中、俺とノールで夕飯の支度など自宅の家事をこなしていた。


「エステル達楽しそうに作っていたでありますね」


「結構ノリノリでやってるよな。ああやって物作りできるのを見てると羨ましいぞ。ノールもフリージアのケープ作ってたし、料理もできるんだから何かしら作れるんじゃないのか?」


「裁縫は得意でありますけど、魔導具のような特殊な物は作れないでありますよ。売り物にできるようなレベルでもないのであります。料理だって個人的に楽しむ範囲でありますからね」


「まあ今回は冒険者向けの商品作りだからなぁ。お前は屋台とかの方が性に合ってそうか」


 謙遜してるけどノールが作ったフリージアの被り物なんてかなり出来が良かったけどなぁ。

 ただ今回目的とした冒険者向けの売り物となると厳しい物がある。

 俺だってそういう縛りがなきゃ何かしら作れた可能性も……ないか。

 ルーナも一応誘ってはみたものの、無理って一言で断られてしまった。

 彼女なら特殊な物を作れそうだと思ったけど、吸血鬼関連になっちゃいそうだから仕方ないか。

 

 しばらく経ってから訓練場に戻ってみると、机の上にかなりの量の試作品が出来上がっていた。


「おっ、結構作ったみたいだな」


「ええ、1個作ってみたら結構楽しくて色々と作っちゃったわ」


「私は破壊する方が好きなので物作りをするのは新鮮ですね。この私が作ったんですから爆売れ間違いなしですよ!」


「い、一応作ってみたけど大丈夫かな……」


「私も置物できたんだよ!」


 そう言って元気よくフリージアは置物を差し出してきた。

 きっとフィギュアみたいに凄まじい造形の立体物に違いないと思ってたのだが……出てきたのは想像の斜め上をいったものだ。

 グネグネとした人の形をしているようで、翼や触手などを生やした名状しがたい何か。

 いや、翼とか触手のクオリティが凄まじいし、あの丸太からこれどうやって彫ったんだって技術の凄さは伝わる。

 だけどこれ何なんだよって戸惑いしかない。ノール達も唖然としていて満場一致でなんだこれ状態だ。


「フリージアの置物は何というか……何なんだこれ?」


「私の里に伝わる守護像なんだよ! これがあると悪い物を寄せ付けないんだって!」


「凄く特徴的というか……言葉で言い表せない形をしているでありますね」


「ですがある意味神秘的なような気もしますね。一部のマニアには受けそうですよこれ」


「魔法とか付加しなくても十分何か効果がありそうよね」


「むむむ、僕の芸術的嗜好から見てもかなりの物……欲しいかも」


「マルティナちゃん欲しいの? ならあげるんだよ!」


「えっ、いいんですか!?」


「うん! また彫ればいいからね!」


「あ、ありがとう!」


 フリージアから置物を差し出されて、マルティナは嬉しそうにそれを受け取った。

 ある意味マルティナが好きそうな造形をしているけど、こいつの芸術的嗜好とは一体……。

 シスハもマニアに受けそうとか言ってるがどうなんだろうか。

 確かに芸術作品って俺には理解できない物も多いから、フリージアはその領域に達しているのかもしれない。

 また何か彫ってもらったら収集家にでも見せてみよう。


「さて、エステルはあれからどんな物を作ったんだ?」


「とりあえず支援魔法の使える原石をいくつか調整したのと攻撃ができる物ね。後は持ってる人同士で位置がわかる物や、短距離だけど通話できる物を作ってみたわ」


「それってトランシーバー的な物か?」


「ええ、ガチャの物を参考に作ってみたの。こういうのなら冒険者も欲しがりそうよね」


 おお、さすがはエステルさんだ。

 支援魔法だけじゃなくて攻撃魔法が使える物や、さらに位置の特定や通話もできる物まで作るとは……冒険者じゃなくても欲しがりそうなものばかりだぞ。

 支援魔法の調整に関しては、あまり効果を強め過ぎると色々支障が出そうだから要調整中だとか。

 俺達も3倍の支援魔法をしてもらっているけど、効果が切れた後は体の感覚にだいぶ違和感を覚えたりするからなぁ。

 売るにしてもある程度実力を持った冒険者だけにして、仕様もちゃんと伝えておかないと危ないと思う。

 ディウス達ならこれも上手く使いこなせそうだから、あいつらに渡して試してもらうのもよさそうだ。


「ちなみに攻撃できるやつはどんな物なんだ?」


「張り切って色々と作っちゃった。低級のなら単純な爆破や風で切り刻む物、中級なら一定範囲を真空にしたり重力場でその場に固定する物、上級なら原石を投げた場所を消滅させる光を出すわ」


「どれもアイテムとして物騒過ぎるのでありますよ……」


「気軽に持ち運べる物ではないですよねぇ。何かあった時に切り札としてかなり優秀だと思いますが。暴発とかはしませんよね?」


「失礼ね、私がそんなミスする訳ないでしょ。ただ使う人が不注意で発動させちゃう可能性はあるから、売るなら忠告は必要だと思うわ」


 低級はまだしも中級以降はヤバ過ぎませんかねぇ……。

 上級の消滅させる光って、最近よく撃ちまくってるあの光線じゃないよな?

 暴発の心配はないにしても支援魔法の原石より遥かに危険過ぎるから、これは売り物にするかどうか保留だ。

 とりあえず支援魔法、位置特定、通話の魔導具だけでも十分目玉商品になるか。

 次はシスハが作った物を見てみよう。


「シスハはどんな物を作ったんだ」


「私は自然治癒力の増す石と結界を張る紙札ですね」


「おお、どちらもよさそうでありますね。どんな感じなのでありますか?」


「石は近くにあれば傷がじわじわと治癒していく物です。小さい物なら身に着ける物で、大きな物なら広範囲を癒せます。ついでに防御力が高まり調子もよくなる支援魔法付きですよ。紙札は攻撃をある程度防ぐ光の壁を形成できますね」


「結界ってそんな効果もあるのね。でも今まで使ったことないわよね?」


「大倉さん達はその前に攻撃した方が早いですし普通に防いだ方が硬いですからね。私の場合は避ければいいですし。護衛依頼などの時に使えば対象を守りやすくはなるんじゃないですかね」


 ほほぉ、シスハもなかなか魅力的な物を作ったな。

 ポーションと違って瞬時に回復しないとはいえ、持ってるだけで傷が治っていくのは重宝されそうだぞ。

 俺達も戦闘時はシスハの支援魔法を受けているけど、あれにもその自然治癒が含まれているからな。

 逃げ回っているだけでも回復していくから、ポーションを飲む暇がない時とか助かると思う。


 結界を張る紙札も実際に試させてもらったが、紙を持って念じると俺を囲うようにそこそこの大きさの四角い光る壁が形成された。

 コンコンと叩くと鉄のように硬くてかなりの防御力があるのがわかる。

 結界は時間が経つか耐久力以上の攻撃を受けると効果が消失するらしい。

 この紙札は軽めに作ったようで、結界は5分程度で消失して紙札も燃え尽きた。

 力の入れ具合で効果時間と耐久力はある程度調整できるそうだ。


「聖水は作らなかったんだな」


「既にこの世界の教会が作ってますからね。変に敵視されても困りますから魔除け系は止めておきましたよ」


「聖水とかは教会が本気で敵視してきそうだものね。他の物を作れるなら避けた方が無難かしら」


「むー、シスハちゃん達難しい話をしているんだよー」


 聖水や木札は教会の権威みたいな扱いされていたからなぁ。

 出所のよくわからない聖水なんて出てきたら、どんな騒ぎが起こるかわかったもんじゃないか。

 こうやって他に有用そうな物が作れるんだから、わざわざ同じものを作る理由もないよな。

 癒しの力を持つ石っていうのも結構ギリギリなラインな気がする。

 効果があるのか胡散臭く思われるかもしれないけど、そこは実際に試してもらって信頼を勝ち取るしかないな。

 さて、最後は今も不安そうにビクビクしているマルティナだ。


「マルティナはちゃんと作れたのか?」


「う、うん……アルヴィさんに言われた魔物を遠ざける物と相手を弱体化させる物を作ってみたよ。後は需要があるかわからないけど、アンデッドに敵対されなくなる物もある」


「へー、どれも使えるなら重宝されそうではあるな。弱体化のアイテムはどれなんだ?」


「この丸いやつだよ。スライムボールにアンデッドの一部を入れて作ってみたんだ。こういうの作ったことがないから調整が難しくて……エステルさんに土の殻で覆ってもらったんだ。これを投げて割れると相手に張り付いて発動するよ」


「平八で試してみようよ! えい!」


「あっ、おい!」


 そう言ってフリージアが土の球を投げてくると、俺の体に当たってバリンと砕けてベちょっとスライムボールが張り付いた。

 すぐに取ろうとしたが腕に張り付いていて、直後に紫色のオーラがスライムボールから漏れて全身に伝わっていく。

 段々全身の力が抜けたかと思えば足もガクガクしてきて膝を突いてしまい、最後にはバタリと倒れて動けなくなった。

 ちょ、どんだけ強いんだよこのデバフアイテム!

 起き上がれないぐらい全身の倦怠感が凄いんだが!


「おー、めちゃくちゃ効いているでありますね。これは使えるのでありますよ」


「平八動けなくなってるんだよー」


「なるほど、負の力の発生源が常に纏わり付いてるので効果絶大ですね。マルティナさん、やるじゃないですか」


「えへ、えへへへへ……そ、それほどでもありませんよ」


「お、お前ら……か、感心してないで、た、助けろ……」


「助けろって言われてもこれどうしたらいいのかしら。えいっ……駄目ね、張り付いてて魔法でもなかなか取れそうにないわ。手で触れたら私達も一緒にデバフがかかるわよね」


 結局シスハの浄化魔法で負の力を消し去ってから、エステルの魔法でスライムボールを取り除いて事なきを得た。

 ふぅ……酷い目に遭ったぞ。まさかあそこまで強烈なデバフアイテムになるとはな……。

 けど実際に味わってみてあのアイテムの凄さはよくわかったぞ。

 魔物に投げつければ確実に無力化できるから欲しがる冒険者もいるだろうな。

 店とかもペイントボール感覚で防犯用に欲しがったりもしそうだ。

 問題は負の力を使っているから神官とか国に目を付けられないかだけど……これも売り物にするか保留して慎重に調べてみるとするか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆、それぞれの個性を活かして凄い魔導具ばっか!! [気になる点] 魔導具ではないが、フリージアに矢を作ってもらったら、通常の矢より強ダメージな上に命中補正とかついてそう 試作品をミグルちゃ…
[良い点] 製作物に漂うカオス感 [気になる点] フリージアはクトゥルフを知ってる? シスハの自然治癒力を増す石は効果を感じずらそう。 エステルさん、それ安全装置の様なものはつけられませんかね? アン…
[気になる点] 誤字、もしくは脱字 >冒険者じゃなくても欲しがりそうな〈も〉ばかりだぞ。 [一言] 今回の試作品は委託販売するには 危険すぎるものばかりなので要調整ですね。 この中ではシスハが作ったも…
2022/08/01 20:28 アダンソン
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