驚異の試作品?
半自動狩りも無事成立し順調に魔石集めをする日々だったのだが、今日は狩りに行かず訓練場に俺達は集まっていた。
その理由は次なる野望の実現、魔石収集グループ形成に向けて商売を始めることだ。
てな訳でさっそくルーナ以外のメンバーで集まり、大きな机を囲んで話し合いをしている。
「半自動狩りも成功したし、この勢いで今度は魔石狩り軍団形成の準備をしよう」
「商売をするって話だったわよね。ガチャ産のアイテムはいいとして、私達で作れる物を考えるってことかしら?」
「それでこのメンバーが集められたんですね。売り物作りなんてあまりしてこなかったので新鮮な気分ですね」
「わーい! 何か作るの楽しみなんだよ!」
「う、売り物を作るってちょっと緊張してくるよ……。僕が作った物なんて売れるのかな……」
「自信を持つのでありますよ! 私は何もできそうにないので応援しているのであります!」
俺とノールもこの会議に参加しているものの、物作りの主力はエステル、シスハ、マルティナだ。
フリージアは遊び気分で何か作りたいとはしゃいでいるから微妙なところだが、有益な物を作ってくれるのに期待しよう。
「まず作るにあたって何を作るかも大事だが、どんな素材がいいか決めようか」
「魔物から採れる素材が扱いやすそうよね。魔力の付加や加工もしやすいし数も揃えられるもの」
「自前で素材から調達できるのでコストも殆どかかりませんからね。後は量産さえできれば完璧ですよ」
やっぱり俺達で何か作るとなれば、素材として適しているのは魔物から落ちるドロップアイテムだよな。
この世界でも様々な物に使われているし、素材としてでも買い取る店も多く重宝されているぐらいだ。
俺達なら普通の冒険者じゃなかなか倒せない魔物も簡単に倒せるし、この点だけでもかなり有利なはず。
「物を作る前に一応俺の方で市場調査もしてきたぞ。まず魔導具に関しては魔光石を使った物が多かったな。見本としていくつか買っておいたぞ。この辺りが冒険者には売れ筋らしい」
既に売られている商品をリサーチするのは商売を始めるにあたって重要だからな。
いわゆるマーケティングの一環ってやつだ。
見本として買ってきた手の平サイズの魔導具を3つ取り出して机の上に乗せる。
俺が説明する前にエステルはどんな魔導具なのかすぐわかったみたいで、的確にその効果を言い当てていく。
「こっちは火と水を出す魔導具でこっちは光る魔導具ね。野営とかをするなら最低限欲しい魔導具ってところかしら?」
「ああ、他にも色々魔導具はあったけど、貴族や富裕層向けのが多かったからなぁ。俺達の目的と一致してなかったから、その手の物は除外しておいた」
「あくまで私達は冒険者向けの商売を目指していますもんね。方向性としてはできるだけ安値で使い捨てなのがいいですかねぇ」
「再利用を考えないでいいなら負担もグッと減りそうだわ。この冒険者向けの魔導具は再利用できるけれど、そのせいでかなりコストがかかっていそうね。いくらぐらいしたのかしら?」
「携帯サイズのこれで各30万Gってところだな。使うのに内蔵の魔力が必要で、尽きたら3万Gでチャージするサービス付きらしい」
「それってお高いの? 私お金のことよくわかんないんだよー」
「金貨3枚って考えたらどうでありますか?」
「えっ、金貨3枚も必要なの!? お高いんだよ!」
火を出す魔導具は湿気とかも関係なく水中でも使えるみたいで、燃やす物さえあればなんでも着火できる火力があるそうだ。
水の魔導具もどんな場所でも魔力が続く限り水に変換するようだから、水そのものを持ち歩く手間とか考えたら重要だろうな。
光る魔導具は光球を形成して付近を常に照らし続けるから、ランプなんかよりもかなり広範囲で明るく照らせて探索には必須だとか。
俺からしたら高過ぎないか? と思っちゃうけど、他に代わりになりそうな物がないから冒険者達には需要があるようだ。
特に水の魔導具はかなり人気なようで、大体の冒険者は最初にこれを買うらしい。
次は教会に売られていた聖水入りの瓶と文字の書かれた木の板を取り出した。
「神官の方はあまり有用そうな物はなかったな。聖水や魔除けの木札、ご神体みたいなのは売ってたけど効果がよくわからん。神官の場合は物を売るよりも直接回復とかする方が多いみたいだ。こっちも聖水と魔除けのお札を買ってきたけど、低位の聖水と木札でも各70万Gもしたぞ」
「な、70万!? じゃあそれで金貨7枚もしたの!?」
「ほほう、なかなかお高い値段ですね。確かに神官の場合は物で何かするよりも、直接やった方が効果も高くて楽ですからね。聖水などは応急手当的な用途が多いですよ。一時的に呪いを封じ込めたり、負の力を弱らせたりですね」
「へー、僕もよく聖水投げかけられていたけど、この世界にもあるんだね。聖水とかじっくり見たことないから気になって……あっ」
そう言いながらマルティナが聖水の瓶を持ち上げた途端、中に入っていた水が一瞬で蒸発するように消えてしまった。
「おい! 何してやがるんだ!」
「ご、ごめんなさい! で、でもただ触れただけでまだ何もしてないよ!」
「大丈夫なのでありますか?」
「と、特に体に違和感はないかなぁ」
「うーん、低位にしてはあまりに効果が弱いというか……マルティナさんの負の力が強すぎるんですかね? 持っただけで聖水が消滅してしまいましたよ」
「マルティナはアンデッドの親玉みたいなものだもの。上位の聖水とかでも効果なさそうだわ」
「マルティナちゃん凄いんだよ!」
おいおい、ある意味効果は実証できたけど一瞬で70万Gの聖水が駄目になっちまったぞ。
呪われた人やアンデッドに効果があるとか言われたけど、これだとあまり期待できなさそうだな。
と、そんな感じで参考になりそうな品物を見せつつ、色々な魔物の素材を机の上に広げて使えそうな物を選んでもらった。
エステル達は手に取って確認をしながら、どれが良さそうか真剣に吟味している。
「どうだ? この中に素材として使えそうなのありそうか?」
「んー、そうね。使い捨ての魔導具として扱うのなら、私はラピスから採れる原石がよさそうだわ。大小色んなサイズがあるから、用途によって魔力の量も調整しやすそうだもの」
「私はトレントの丸太が相性よさそうです。これを加工して板や紙にすれば結界の役割を付加できそうです。聖水に関してはエステルさんに純水を作ってもらいたいですね」
「あら、それぐらいならお安い御用だけど、普通の水じゃダメなのかしら?」
「できるだけ穢れのない水の方が効果が高くなるんですよ。私が聖水を作ったらマルティナさんで検証してみましょう」
「ひぃ――ぼ、僕で実験しないでください!」
「うふふ、冗談ですよ冗談」
シスハの聖水と聞いてマルティナが青ざめて震えている。
低位の聖水は平気だったけど、シスハが作った聖水となればどんだけ効果が強いかわかったもんじゃないからなぁ。
それにしても聖水の材料がエステルの作った純水だけになるなら、実質ただみたいな費用で量産できる訳で……とんでもないことになりそうだぞ。
ただ俺の買ってきた聖水は教会でしか売られていなかったから、販路とか規制されてて下手に売れない可能性がある。
商売をするにあたって利権やらめんどうなことがありそうだし、その辺りを考慮して商品作りもしないとなぁ。
シスハ達が騒いでいる中、フリージアが真剣な眼差しでトレントから採れた木の丸太を触っていた。
丸太と言っても抱きかかえられる程度の大きさで、見た目に反して片手で持てる程度に軽い。
「フリージアもトレントの丸太を選んだのか。まあ木彫りをするならちょうどいいか」
「うん! これで沢山置物掘るんだよ!」
「ははは、どんなのができるか期待してるぞ。マルティナはどうだ?」
「うーん、負の力を封じるっていう感覚が掴みづらくて……。エステルさん達のを見学して考えてもいいかな?」
「まだ試作の段階だから構わないぞ。合いそうな素材がなければ素材探しに新しい狩場に行ってもいいしな」
「負の力の合いそうな素材だとアンデッド系がよさそうでありますが、なかなか難しそうでありますね」
言われてみると負の力が合いそうな素材ってパッと思いつかないな。
魔物の素材を加工して藁人形や五寸釘やら呪いのアイテム系でも作れば合いそうか?
単純にアンデッドから採れた骨とか使ってもいいけど、そのまんまだとあれだから何かしら加工は必要そうだな。
フリージアがカリカリとトレントの丸太を彫る姿を温かい目で見守っていると、その間にエステルの魔導具が完成した。
「できた、とりあえずこんなものはどうかしら?」
「おっ、もうできたのか! それでどんな魔導具を作ったんだ?」
「火や水を出す魔導具はもうあるからそこまで需要がないと思って、支援魔法を封じた物を作ったわ」
「し、支援魔法を使えるようになるのでありますか!」
「ええ、これを持って念じれば自分に支援魔法を付加できるわ。魔素を利用して発動できるから、魔力がない人でも使えるようにしてみたの。その代わり使ったら原石が砕け散るけれど」
「わー! 凄い凄い! 使ってみたいんだよ!」
「ええ、ちゃんと使えるか試してみて」
フリージアは置物を彫るのを中断してエステルから魔導具化した原石を受け取ると、むむっと眉間にしわを寄せて念じ始めた。
するとパリンと音を立てて原石が割れ、フリージアの体がほのかな光に包まれる。
「おー! 力が湧いてきたんだよ! ……けど、いつもよりちょっと弱い気がするかな?」
「支援魔法の効果も調整してみたけど成功ね。原石のサイズ次第でグリモワールを使った3倍支援魔法まで付加できるはずよ」
「エステルさんの支援魔法を誰でも使えるようになったら凄まじいですね……。こういう魔導具は存在したんですか?」
「防具とかにはありそうだったけど、使い捨ての物としてはなかったぞ。それですらエステルの支援魔法ほど効果を得られるとは思えないけどな……」
「並の魔導師じゃあんなに強い効果の支援魔法はできないでありますね。もし私が他所の冒険者だとしたら、喉から手が出るぐらい欲しいのでありますよ」
「なるほど……僕もそんな感じで相手にデバフを付加できる物を作ればいいのかな」
どんな魔導具を作るのかと思ったら、まさか支援魔法を付加される物を作るとは……。
使い捨てとはいえ、エステルの支援魔法を誰でも自由に使えるとなったら凄まじい需要がありそうだ。
初っ端からこんな物を作り出すなんて、さすがエステルさんだな。




