ディウスとのパーティ
いつもお読みくださりありがとうございます。
本日書籍3巻発売いたしました。
それとコミカライズも決定いたしました。
3巻の特典情報などを活動報告に掲載いたしましたので、よろしければ目を通してくださると嬉しいです。
これからどこに行くのか、協会にある席に座りディウス達と話し合うことになった。
「そういえば、今日はシスハさんは一緒じゃないんだね」
「あー、ちょっと頼みごとがあって別行動しているんだ。連れて来れなくてすまないな」
「いや、別に大丈夫だよ。この辺の狩場なら、君達3人と一緒なだけでも十分過ぎるぐらいさ」
「そう高く評価してもらえるの嬉しいな。……まあ、俺はそうでもないけど」
本当のところはシスハも連れて行きたいところだが、フリージアを家に1人にさせるのは不安で仕方がない。
ルーナは寝ていて当てにはできないから、面倒見のいいシスハに任せておくのが無難だ。
それにこの周辺なら迷宮にでも行かなければ、俺とノールとエステルで十分狩りはできる。
シスハには後で帰りが遅くなると連絡を入れておこう。
だけどこれだと、フリージアを外に出せないのは今後依頼を受けた時に困りそうだな。
ディウスとの狩りが終わったら、優先して対策を考えなければいけないぞ。
「とりあえず、どこいくのか決めようか。ディウスは行く当てはあったのか?」
「いや、それを選ぶ為に協会に来たところだったから、特に決まってはいないよ。大倉の方がどうなんだい?」
「俺達も特に決めてなかったぞ。いい狩場がないかウィッジさんに聞いて、シュトガル鉱山にでも行こうか考えていたところだ」
「シュトガル鉱山だって!? それなら是非僕達も連れて行ってくれ!」
ディウスが目を見開いて驚いた声を上げ、興奮した様子で詰め寄ってきた。
ここまで驚くなんて、シュトガル鉱山で欲しいものがあるのかな。
ウィッジちゃんに聞いた話だと、シュトガル鉱山には基本的にガーゴイルが徘徊していて、稀に巨大な石像のような魔物、コロッサスが湧くとかいう話だった。
そいつから希少なコロチウムって鉱石が手に入るんだとか。
高く売れるみたいだから取りに行こうと思っていたのだが……。
「もしかしてコロチウムが欲しいのか?」
「ああ、そうだよ。大倉もそれが目当てだったんじゃ?」
「高く売れるって聞いたから、どんなもんなのか採りに行こうか考えてただけだ。どのぐらい珍しい素材なんだ?」
「スティンガーの甲殻よりも出回らない希少な物で、冒険者以外でも欲しがる人が沢山いるぐらいさ。コロチウム製の鍋なんて、100万G以上はすると思うよ」
「むむっ! そんな鍋があるのでありますか! ちょっと気になるでありますね!」
鍋で100万G以上だと!? なんて馬鹿げた値段なんだ!
そこまでコロチウムって希少なのか……。そんなもの鍋にするなと言いたいところだが、それほど色々な用途があるってことなのかな。
そんな訳で俺とディウスの目的地が一致して、今回はシュトガル鉱山に向かうことになった。
しかし、目的地を聞いてミグルちゃんが残念そうに落ち込んだ。
「シュトガル鉱山に行ってもらえるなんて、ディウスはいいなぁ。私もサラト森林のタイラントスパイダーから手に入る糸が欲しかったのに……」
「ごめんなさいね。私がスパイダーは苦手だったから、サラト森林は候補から外していたの」
「えっ、そうなの。それなら仕方ないよ、うん。スパイダーが苦手だなんて、エステルちゃんは可愛いなぁ」
「それで可愛いと言われるのはどうかと思うのだけど……」
スパイダーと聞いて眉をひそめているエステルを、ミグルちゃんが抱き締めて頭を撫でている。
表情を見るに、既にサラト森林に行けなかった残念な気持ちは消えているみたいだ。
エステルが蜘蛛を苦手だと言っただけで、ここまで素早く気変わりするとは……俺としても行きたくなかったから助かる。
タイラントスパイダーとか、名前を聞いただけでゾッとするような魔物なのが目に浮かぶぞ。
「ミグルは虫とか苦手じゃないのかしら?」
「昔は苦手だったけど、今は全然平気。ゴキブンだって素手で触れるよ」
「おぉ、私と同じでありますね! やっぱり大倉殿達が大袈裟なのでありますよ!」
前にゴキブンを素手で掴むと言って、ドン引きされたのを覚えていたのか、仲間を見つけたようにノールが嬉しそうにしている。
マジか……ミグルちゃんも元気そうな娘だけど、まさかゴキブンを素手で掴めるとは……。
「ミグルさんも逞しいんだな……。ディウスも虫とか平気で触れるのか?」
「冒険者をしていたら、虫程度で躊躇なんてしていられないからね。不快感はあるけど、嫌でも慣れるよ。ミグルも虫を怖がっていた頃は、女の子らしかったんだけどねぇ……」
「あ? その言い方、今は女の子らしくないとでも言いたいの?」
「あっ、口がすべっ……そ、そんなことないよ!」
「今更言い直しても遅い! あんただって昔は気取った感じじゃなかったくせに!」
ディウスの言葉を聞いたミグルちゃんは激怒した。
そして俺達がいるのを忘れたかのようにディウスを追い掛け回している。
うーむ、こういうのが喧嘩するほど仲が良いというものなのだろうか。
●
シスハに連絡をしてから、俺達はシュティングを発ちシュトガル鉱山へ向かった。
ディウス達と狩りに行くとシスハに言ったら……。
『大倉さん達だけで狩りに行くなんてズルいですよ! そんな楽しそうな所私も行きたいです!』
なんて言い出しやがった。
硬い魔物相手だったら、マジックブレードが良く効くだろうし試したかったんだろうなぁ。
後日連れて行く約束をして、なんとか我慢してもらった。
シュトガル鉱山は馬で片道2日ほど移動し、付近の村から歩いて半日ぐらいの場所にあるそうだ。
なので馬を借りて向かうことになったのだが……俺は今回もノールの後ろに乗ることになった。
練習を始めたとはいえ、まだ長距離を走ったりなんて出来ないから仕方がない。
エステルはミグルちゃんの後ろに乗ることになり、3頭の馬でシュトガル鉱山の最寄にある村を目指す。
そして夕暮れになるまでディウスに先導してもらいながら進み、今日は夜営をすることになった。
「大倉が馬に乗れないなんて予想外だったよ」
「いやぁ、面目ない……。練習はしているんだけど、まだ乗れなくてさ」
「全くなのであります。早く乗れるように、これからはもっと練習を増やすのでありますよ!」
「うへぇ……頑張るよ」
こういう時になると、改めて馬に乗れるようになっていればと思ってしまう。
かといってすぐに乗れるようになるはずもないし……ノールが妙に張り切っているのが怖い。
「うぇへへ……私としては、エステルちゃんと馬に乗れたから役得だったかな」
「感謝はしているけれど、そういう変な笑い方しないでちょうだい」
ミグルちゃんはエステルを後ろに乗せて2人乗りできたことに、とても満足したように笑っている。
ちょっと変態の香りがしているような気が……。
とりあえずテントを張り準備を終え、いつも通りエステルに魔法で薪に火を点けてもらった。
「やっぱり魔法が使えるって便利だね」
「ディウス達は火を起こす魔導具とか持っていないのか?」
「持ってはいるよ。ただ魔力切れになったら補充してもらわないといけないから、そういう点だけは不便かな」
「それでも十分便利だよね。冒険者になりたての頃、火打ち石を使ってたのが懐かしいよ」
ディウスとミグルちゃんが、しみじみとした表情を浮かべて火を見ている。
毎回夜営の時に火打ち石とかで火を起こすのは大変そうだ。
そういう苦労を味わっていない辺り、俺は冒険者として経験不足なのかもなぁ。
虫が苦手、馬に乗れない、なんていうことも、冒険者なら言ってられないことかもしれない。
「それじゃあ、そろそろご飯を作るでありますか!」
「鍋とか持ってきてたのか」
「食材まであるわね。随分と気合が入っているじゃない」
「むふふ、いつでも作れるよう準備していたのでありますよ!」
ノールがいつの間にか、そこそこの大きさの鍋と、ニンジンみたいな野菜などの材料を取り出して準備していた。
今回は適当な保存食で済ませようとしていたのだが、彼女はガッツリと飯を作るつもりのようだ。
馬で移動するって聞いてから、妙に大きな袋を担いでいたのはこれだったのか。
一応ディウス達の前でウェストポーチから出して不審に思われないよう、事前に出して怪しまれないようにしたみたいだ。
食べ物のことになると、普段より頭の回転が早いんだな……。
ディウス達の方を見ると、手に干し肉のような物を持ちながら、料理を始めようとしているノールを見て目をパチクリとさせていた。
「ディウス達もよかったら食べるか?」
「いいのかい? 大倉達の分しか材料もないんじゃ?」
「多めに持ってきているから、2人分増える程度なら問題ないでありますよ。食事は皆で食べた方が美味しいでありますから、遠慮なく食べるのであります!」
「それならお言葉に甘えて……。正直干し肉とかだと味気なかったんで、ちゃんとした料理が食べられるのは嬉しいですよー」
「喜んでもらえると、私としても嬉しいのでありますよ! すぐに作っちゃうでありますから、座って待っていてほしいのであります!」
ミグルちゃんの返事に気を良くしたのか、ノールはテキパキと動いて料理を始めた。
エステルに出してもらった水でニンジンのような野菜を洗うと、包丁で一瞬の内に皮を剥いて薄切りにする。前に果物を剥いていた時と同じ速さだ。
それからも1人でやっているとは思えない速さで、次々と野菜を切り刻んでいる。
手伝おうかと思ったけど、この様子だと下手に手を出したら邪魔になりそうだな……。
ノールの曲芸のような料理を見ながら、俺はディウスに声を掛けた。
「ディウス、頼みごとを聞くって約束して希少種狩りを頼んでたのに、長い間会えなくてごめんな」
「うん? 僕達からしたら得しかない話だったんだから、謝られることでもないよ。それに冒険者をしていたら、この程度の期間会わないなんて普通のことさ。僕達だって依頼で長い間王都にいないこともあっただろう?」
「確かにそうだな……そんなものなのか」
希少種狩りを頼む時、ディウスがどのぐらいで戻ってくるのかウィッジちゃんに聞いたりもしたな。
冒険者は依頼で遠くに行くこともあれば、魔物を狩る為に遠出することもあるんだから、このぐらいの期間会えないのが普通でも不思議じゃない。
俺達のようにビーコンで瞬間移動している訳じゃないし、それも当然といえば当然か。
「それで聞きたかったんだけどさ、希少種狩りの方はどんな調子だ? 渡した魔導具は役立っているか?」
「うーん、そうだね。大倉達から指輪を貰ってから、希少種相手の狩りはだいぶ楽になったかな。この指輪をしていると、攻撃を受け止めた時の衝撃が緩和されるから助かるよ」
「私も攻撃を受けそうになった時、この指輪が光って何度か攻撃を弾いてくれました。これもエステルちゃんの加護ってやつですね!」
「役立っているようでよかったわ。私も同じ物を使っているけど、効果を体感したことはまだなかったわね」
幸福の指輪はエステルもしているけど、基本的に攻撃を受けることがないから発動しているのは見たことがなかった。
うーむ、防御面では十分役立っているみたいだな。やっぱりガチャ産の装備は良い性能をしている。
あとは今回のように、素材を手に入れる手伝いをして装備を強化してもらえれば、もっと魔石が手に入りやすくなるかもしれない……ぐふふ。
そんなことを考えながらも、ディウス達と雑談を続けていると、辺りに良い匂いが漂い始めた。
ノールの方を見てみると、むふふと笑いながら小さな器にスープを入れて飲んでいる。
「むふふ、出来上がったのでありますよ!」
飲み終わるとノールはそう叫んで、器にどんどんスープを注いで俺達へと配っていく。
スープは綺麗な琥珀色で、ベーコンのような細かい肉と色々な野菜が入っていたのだが……その中に存在感を放つ青や赤いキノコが混じっている。
アルデの森で手に入れたキノコ使ったのか……。せっかくの澄んだ色をしたスープなのに、ちょっと食欲が失せてくるぞ。
だけど良い匂いをしていて美味しそうなのが悔しい!
そんなことを思っている俺とは違い、ミグルちゃんやディウスは躊躇いもなくスープを口にしていた。
「んー! 美味しい! ノールさん、このキノコってもしかして、クェレスの方にいるマタンゴから取れるやつですか?」
「そうなのであります。まだ余っているでありますから、もし食べたかったら焼きキノコにしてもいいのでありますよ」
「えっ! 本当ですか! 是非お願いします!」
ミグルちゃんの反応からして、ここでもマタンゴのキノコは人気があるらしい。
確かに見た目はヤバイけど、味や食感は良いからなぁ。
それにしても今回のスープ、飲んでみるとコンソメで味を整えた野菜スープだ。
美味いけどノールにしてはあっさりした物を作ったな。
「ノールってお肉を好んでばかりだから、こういう野菜のスープを作るのはちょっと意外ね」
「私としてはお肉でもよかったのでありますよ。だけど夜営中にがっつりした食べ物は、エステルは辛そうでありましたから」
「そうね。こっちの方が私はいいかも。ありがとね」
エステルも疑問に思ったみたいだが、どうやら配慮した結果このスープにしてくれたようだ。
確かに小柄のエステルには、夜営中にがっつりした肉はあまり好ましくなさそうだな。
そういう考えを出来るあたりは、流石俺達の食卓を担当しているだけはある。
「ノールさんは強いだけじゃなくて、料理も上手いんだね。一緒にいる大倉達が羨ましいよ」
「まあ、助かってはいるかな。料理も本当に上手いし」
「むふふ、大倉殿が素直に褒めるなんて珍しいでありますね。おかわりするでありますか?」
「ああ、頼む」
ディウスの返事ついでにノールを褒めると、彼女は嬉しそうにおかわりのスープを注いでくれた。
それから食事を楽しみ雑談をして過ごした後、俺とディウスで交代しながら夜の番をして明日へと備える。
うーむ、たまにはこうやって別のパーティと過ごすのもいいな。
いつもお読みくださりありがとうございます。
本日書籍3巻発売いたしました。
それとコミカライズも決定いたしました。
3巻の特典情報などを活動報告に掲載いたしましたので、よろしければ目を通してくださると嬉しいです。
大事なことなので2回(ry