協会での遭遇
フリージアの実力確認をした日から、数日続けて俺達はルゲル渓谷でラピス狩りをしていた。
彼女の擬態を見抜く能力により飛躍的に狩りの効率は上昇し、あっという間に原石が50個近くも手に入った。
おかげでノールも目ぼしい原石をいくつか見繕ったみたいだが、もう少しだけ厳選をしたいという。
そして、今日も朝早くから狩りをしようと居間に集まっていた。
「いやぁ、フリージアのおかげで狩りが随分と楽になったな」
「そうでありますね。特にラピス狩りは捗るのでありますよ! さすがフリージアであります!」
「ふふーん、もっと頼りにしてくれてもいいかもなんだよ!」
俺とノールの言葉を聞いたフリージアは、両手を腰に当て鼻息を鳴らし、得意げな表情をしている。凄いドヤってる。
なんだかノールを見ているように思えてくるな……。
ちょっと頬を引き伸ばしたくなってくる表情だぞ。
「お金稼ぎは順調みたいだけど、このままルゲン渓谷で狩りを続けるのかしら?」
「だいぶ原石も貯まったきたからなぁ。小分けにして売ってもしばらくはなくならないと思うし、そろそろ別の魔物を探してみるのもありかな」
「まだまだ資金調達には時間も掛かりそうだから、他の狩場を探してみるのはよさそうね」
原石は買い取り額が高いから、1度にそこまで多く買い取ってもらえない。だから貯め込んでおいて定期的に売っていくつもりだ。
なのでストックがある今の内に、他の狩場を探しておいた方がいいだろう。
狩場を探すとなると……冒険者協会で聞くのが無難か。
「今日は王都の冒険者協会に顔を出すついでに、他の狩場も聞いてみようか。魔人についても新しい情報があるかもしれないしな」
「ガチャの為に色々やっていて、協会に行ってなかったでありますもんね」
最近は魔石集めに集中していたせいで、冒険者協会に行っていなかった。
協会長から話を聞いてだいぶ経っているから、魔人についても何か進展があってもおかしくない。
そう考えていると、俺達のやり取りを聞いていたフリージアが会話に混ざってきた。
「えへへ、王都に行けるなんて楽しみ! ノールちゃん、王都って言うぐらいなんだから、凄い街なんだよね?」
「えっ……あー、そうでありますね。建物も立派なのが多くて、人も沢山住んでいるのでありますよ」
「やっぱり! 今から行くのが楽しみなんだよー」
ノールはフリージアの言葉に困惑しつつも質問に答えた。
それを聞いた彼女は、眩しいぐらいの笑顔を俺達に向けている。
あれれ……おかしいな。散々人前には出せないって言ったはずなのに、一緒に来る気まんまんなんですけど……。
「楽しみにしているところすまないんだが……フリージアは留守番だからな」
「えっ!? どうしてなんだよ!」
「いや、街中には出せないってずっと言ってただろう? だから俺達が街に出かける時は、現状だとルーナと同じように自宅警備だ」
「ノールちゃん……平八が意地悪するんだよぉ」
「うっ、私に言われても今回ばかりは……申し訳ないのであります」
あれだけ念を押して言ったのに忘れるとは……本当に大丈夫なのか?
助けを求めるように潤んだ瞳を向けられたノールは、気まずそうに頬をかいて顔を逸らしている。
その反応にフリージアは四つん這いになって落ち込んだ……と思いきや、シュバッと勢いよく立ち上がった。
「そうだ! それなら平八達がいない間は、ルーナちゃんと遊ぶんだよ! 今すぐ起こしてくる!」
「あっ、ちょ……行っちまった」
「フリージアは元気があっていいでありますね。私も負けていられないのでありますよ」
「これ以上騒がしくなるのはどうかと思うのだけど……」
止める間もなくフリージアはルーナの部屋へ行ってしまった。
テンションの落差が本当に凄いな……ポジティブなのはいいのかもしれないけど、ちょっとついていけないぞ。
ノールが負けじと対抗しようとしているけど、これ以上騒がしくなられても迷惑だから止めていただきたい。
「それよりも、ルーナを起こしに行かせて大丈夫なのかしら?」
「えぇ!? も、もしかして、フリージアさんがルーナさんを起こしにいったのですか!?」
エステルが頬に片手を添えて不安そうに呟いた瞬間、シスハの大声が居間に響いた。
声がした方を見ると、ちょうど自分の部屋から出てきたところだったようだ。
目を見開いて凄く驚いている顔をしている。フリージアがルーナを起こしに行っただけなのに、どうしてそんなに驚いているんだ?
「あ、ああ。そんなに慌ててどうしたんだ?」
「ゆっくり話している場合じゃありませんよ! 急いで止めに――」
そう言ってシスハが焦った様子でルーナの部屋へ向かおうとした瞬間。
『うぎゃぁぁぁ!』
「……あぁ、手遅れでしたか」
フリージアの絶叫が聞こえた。
それを聞いたシスハは、片目に手を当ててあちゃー、と言いそうな仕草をしている。
えっ、えっ? 一体何があったんだよ……まさかルーナに襲われたのか?
ルーナの部屋に向かってみると……そこには床に倒れたフリージアの姿が。
そして彼女に覆いかぶさるように、眠ったままのルーナが首を噛んだまま抱き付いていた。
なんとかルーナを引き剥がして白目を剥いているフリージアを回収し、居間へと運んでシスハに治療をしてもらう。
引き剥がしたルーナはというと、そのまま起きることもなく、ベッドの上に戻すともぞもぞと布団の中へ潜り込んで姿を消した。
もう無意識レベルでベッドの中が住処になっているようだな……。
「うぅ、酷い目に遭ったんだよ……」
「大丈夫でありますか? よしよしであります」
「ルーナに誰かが噛まれたのを見るのは久しぶりだわ。シスハと仲良くなって癖が直ったと思っていたのに」
治療を終えたフリージアは、ノールに頭を撫でられながら慰められている。
そういえば前にルーナを起こそうとしたシスハが、噛み付かれてダウンしたり、ベアハッグされて腰を締め上げられていたな。
俺は直接起こしたことはないけど、寝ているルーナに不用意に近づくとこうなるのか……。
「ルーナさんを無理に起こそうとしてはいけませんよ。起こし方を間違えると、反射的に襲われてしまいますので。大倉さん達も起こす時は注意なさってくださいね」
「経験者が語ると説得力があるな」
「うふふ、それほどでもありませんよ」
結局フリージアも渋々街に行くのを諦めて、家で大人しく留守番をすることになった。
最初はまともそうに思えたけど、だんだん頭が痛くなってきたぞ……。
●
シスハにも留守番を頼み、俺とノールとエステルの3人で王都の冒険者協会へとやってきた。
そしてウィッジちゃんに声を掛けて、何か変化があったか聞いてみたのだが……。
「大倉さん達がこちらに戻られてから、特に変わった報告はございませんね」
「そうでしたか。それなら良かったです。長い間来てなかったので、ちょっと心配だったんですよ」
「クェレスから帰ってきてお疲れでしたでしょうし、それも仕方ありませんよ。協会長が他の冒険者にも声を掛けていますから、そう気負わないでくださいね」
どうやらあれから進展はないらしい。
今回はガチャの為に魔石集めやレベル上げに熱中し過ぎたからな……。
そのおかげでフリージアが来てくれたからよかったとはいえ、次からは冒険者協会にも少しは顔を出すようにしておこう。
さて、今日の用事の本命である狩場について聞くとするか。
「あと、他に良い狩場がないか教えてもらいたいんですけどいいですか? レムリ山以外の狩場も知りたくて」
「はい、構いませんよ。大倉さん達のおかげで、ケプールの素材もそこそこ出回り始めているようで助かりますよ。えっと、そうですねぇ……次はサラト森林なんてどうでしょうか? あそこのスパイダーの糸は丈夫で使われることが多くて、なかなか需要があるんですよ」
「ス、スパイダーですか……ほ、他の狩場も教えてもらってもいいですか?」
「はい、それ以外だと……」
それからウィッジちゃんに鉱物などを落とす魔物がいる鉱山や、他にも虫系の魔物が出て来る複数の森林を教えてもらった。
そして一通り狩場を聞いた後受付から離れると、眉をひそめたエステルが口を開いた。
「お兄さん、サラト森林に行くつもりなの? 私、スパイダーなんて相手にするの嫌よ。そんな魔物を見たら、つい力が入って森ごと吹き飛ばしちゃうかもしれないわ」
「俺としてもちょっとなぁ。今までのパターンからして、俺達と同じかそれ以上の大きさの蜘蛛だろう? 想像しただけでも鳥肌が立つぞ」
「キャタピラーやゴキブンの時もそうでありましたが、大倉殿達はああいうのが苦手なのでありますね」
「ああいうのに苦手意識を持たない人の方が少ないと思うけどな……」
スパイダーって聞いて、俺もサラト森林には行く気がなくなったぞ。
イモムシですら人間サイズだったのに、あの大きさの蜘蛛を相手にするとか血の気が引いてくる……。
ノールは平気そうにしているけど、エステルのように嫌がる人の方が多いと思うんだ。
うーむ、今回聞いた中だと、鉱物が取れるというシュトガル鉱山が良さそうだな。
鉄のように硬い体をした魔物がいるみたいだけど、どうやら魔法による攻撃に弱いらしい。
魔法に弱い狩場と聞くと、北の洞窟のスティンガーみたいでちょっと期待してしまう。
さっそく協会を出て向かおうとしたのだが……ディウスが協会へ入ってくるのが見えた。
彼も俺達がいることに気が付いたのか、こっちへ近づいてくる。
ミグルちゃんも一緒にいるけど、スミカちゃんとガウスさんの姿はない。
「やあ、大倉」
「おお、ディウス。久しぶりだな」
「エステルちゃん久しぶりー! 相変わらず可愛いね!」
「きゃ!? ……むぅ、いきなり抱き上げるのは止めてほしいわね」
「えへへ、ごめんねー」
俺とディウスが挨拶をしている間に、ミグルちゃんがエステルを抱き上げて頬ずりをしている。
エステルがちょっと苦しそうにすると、謝りながらすぐに降ろしてくれた。
「今日はお2人なのでありますね」
「そうなんですよー。スミカが用事で出掛けていて、ガウスさんもそれに付き添っちゃって、しばらくの間いないんですよ」
「あら、パーティなのに長い期間別行動なんてするのね」
「パーティを組んでいても、ずっと皆で一緒にいられる訳じゃないからね。まあ、私は大体ディウスと一緒に行動しているけどね」
やっぱりパーティを組んでるといっても、私用で長い間別れることもあるんだなぁ。
俺達はそういうことはまずないから、ある意味それが強みでもあるのか。
それにしてもこの2人、大体一緒に行動しているって言っているけど、どういう関係なのかちょっと気になるな。
ただのパーティ仲間とは思えないような発言だが……あまりそういうのは聞かない方がいいだろう。
「冒険者協会に来ているってことは、これから2人で依頼を受けるつもりなのか?」
「うん、そのつもりだったんだ。ここ数日、ミグルと2人でやれそうな依頼を受けているんだ」
「ディウスと2人で狩りをしていると、ちょっと危なっかしいことがありますけどね。やっぱり人数が多いと楽なんだって、実感しますよ」
Bランクだから個人的な強さもそれぞれあるだろうけど、4人から急に2人になるのはきついんだろうなぁ。
俺もノールと2人で狩りをしていた時期に比べると、今は凄く狩りが楽だ。戦いは数だよ。
このタイミングで会ったのも何かの縁だし、今日は一緒に狩りでもしないかと誘ってみるか。
魔石集めのことや、魔導具が役に立っているか聞いてみたいからな。
「なら俺達と軽く狩りにでも行かないか? この前渡した魔導具のことも聞きたいからさ」
「えっ、本当ですか! 行きます行きます! エステルちゃんとまた一緒に狩りができるなんて最高ですよ!」
「僕としても一緒に来てもらえるならありがたいけど……本当にいいのかい?」
「ああ、俺達もちょうど狩場で悩んでいたところだからな」
「それなら是非ともお願いするよ。大倉達とまた狩りができるなんて、思ってもいなかったからさ」
ディウスの快諾も得て、俺達が一緒に狩りをすることになった。
魔石集めに協力もしてくれたし、ここで少しお礼をしておきたいなぁ。




