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その6話:『天使』なんかじゃない、という話

「みんなで祈ろう。」

哲平の提案は科学者としてはどうかというものであったが人間としては自然なものであった。

クルーもスタッフも全員が輪になって座り、目をつむるとそれぞれが自分の信じるものに祈りを捧げた。


どれほどの時間がたったのだろう。輪の中心が光輝くように感じ、皆が目を開けると、そこには

見知らぬ青年が全身から光を放ちながら立っていた。やがてその光はきえる。身長はおそらく200cmは超えるだろう。すらっとしたスリムで筋肉質な体質。美形であり、ミケランジェロの彫刻にそのまま魂を入れたようだった。恐ろしさや、驚きのあまり皆がじっと動かずに青年を見つめる。というより観察していた。それは科学者の哀しい(さが)であった。青年はきまり悪そうに 微笑むと口を開いた。


「みなさん、こんにちは。どうやらお困りのようですね。」

天使か?天使が現れたのか?ということはあの世からお迎えが来た。いや、むしろもう俺たち死んでいるのか?様々な思考が迸る。


青年は興味深そうにみなを観察すると微笑みを浮かべながらこう言った。

「安心してください。私は皆を『助け』に来ました。」


「て…天使様。お救いくださるのですか?」

皆の顔が輝く。


「ちょっと待ってください。『助け(to aid)』に来たのです。『救け(to save)』に来たのではないですから。」

 意外とも思える『天使』の言葉に哲平は我に返る。そうだ、まず自分がなしうることをしなければならない。


「あなたは何者なのですか?どうやってここに来たのですか?」

哲平の問いに青年はうなずいた。


「私は『管理者』です。この惑星(ほし)はかつてわたしたちの住んでいた故郷でした。」

彼の話は興味深く、皆は今が深刻な危機であることをすっかり忘れて彼の話に夢中になっていた。科学者の悲しい性である。彼らは人間の三大欲に加えて「知識欲」を持つ罪深い生き物であった。


 彼は「霊体」であった。オカルト的な意味ではない。彼の体を構成するのは「電子」ではなく「重力子」なのである。重力子はこの物質宇宙に存在するといわれる暗黒物質ダークマターの一つと言われる。


「電子はこの宇宙の4割でしかありません。この宇宙で電子世界(マテリアル)と対をなすのが重力子世界(アストラル)なのです。電子とそれとついになる陽子の数によって原子が存在します。同様に重力子には重力子の数によって重力子原子が存在するのです。そして、重力子には質量が存在しません。そのかわりに重力量が存在するのです。」


人類最大級の謎があっさり解決ナウ。哲平は量子物理学は門外漢だったがこの話に大興奮だった。

「ではどうして、今のあなたには質量が存在するのですか?」


「少しは自分でも考えてください。皆さんもご存じの相対性理論ではE=MC2、すなわちエネルギーとは質量に光速の2乗をかけたものに等しくなります。逆に質量をもたせるにはM=E/C2、つまりエネルギーを光速の2乗で割ってやればよいのです。簡単にいうと、電子と重力子の媒介となるのがC、つまり光です。光は原則的に速度を変えることはできませんが代わりに振動数を変えることができます。電波や電磁波の正体が光と同じ光子であるのと同じです。私は振動数を変えて皆さんに私の姿が見えるようにしたのです。いわゆる『化肉』という現象です。それが先ほどの発光現象の正体です。」


「やはり、天使なのですか?」

「くどいですね。確かに創造主が天使を作った同じ材料で今の私の体もできています。ですが私の姿は創造主がそうしたものではなく、もともとは皆さんと同じ電子体でした。ところで皆さん、何か大切なことをお忘れではありませんか?」

青年は本題に入ろうと水を向ける。


「そうでした。私たちはあなたをなんと呼んだらいいでしょうか?」

可南子の少しずれた問いに青年はずっこけそうになる。

「お好きに呼んでください。私の名前をこの電子世界の音で表すことはできませんから。」

少しあきれ気味の青年に可南子は満面の笑みを浮かべ

「では大天使ガブリエルでどうでしょう。」


暴走ぎみの可南子に哲平も再び我に返った。

「長いからゲイブでいいでしょう。本題に入ります。どうすれば俺たちは助かりますか?」


ゲイブは皆を見回した。そして哲平を見据えて答えた。

「わたしはこの惑星ほしの管理者として、テラフォーミングの様子を含めて皆さんを観察してきました。失礼とは思いましたが、すべてのアーカイブも見せていただきました。あなたが、ここを大切に使ってくださると約束していただけるなら、この惑星への入植する権利を与えましょう。誓えますか?」


ゲイブの申し出は 上からであったが、この緊急事態に背に腹はかえようもなかった。

「誓います。」

手を挙げて哲平が誓いを立てる。

「よろしい。」

ゲイブは満足そうに微笑むと哲平と可南子を膝まづかせる。両手を二人の頭においた。そのままゲイブは話を続ける。


「 みなさん。ジャスティン君は暴君なのでしょうか?いいえ、彼はただの幼子です。彼が求めているのは母親の愛ある世話です。彼はいま、病気にかかっています。中に悪辣なウイルスが潜んでいるのです。それを取り除き、あの子を癒し、あの子が大人になれるよう慈しみ、育み、導く存在が必要です。それができるのは可南子さん、あなただけです。あなたは彼が求める母親なのです。あなたにしかできません。引き受けてくれますね。」


「はい。」

可南子は立ち上がり、自分のクルーシートに戻るとリンカーをつなげた。


 ジャスティンの世界は荒んでいた。人類の歴史(その多くは戦争と災害、飢饉や疫病といった負のものが多い)の映像が繰り返し流されていた。ジャスティンは無傷にすごす権力者ではなく、一方的に奪われ、殺され、苦しみにあえぐ庶民の目線からのものだった。


「酷い」

すべての移民船のモニターに可南子が目にしている同じ映像が流れている。どの船のクルーもスタッフもそれに見入っていた。


 可南子がまっすぐ歩いていくと、おしゃれな家が建っていた。

「まさか…」

徹平は絶句する、そのデザインは新天地へと移民したらこんな家を建てようね、と二人でとある休日に戯れでデザインしたものだったからだ。






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