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その4話 :テラフォーマーたちの挽歌

 航法はワープ航法。1光年の距離を地球公転周期である1年で飛ぶ亜光速ワープである。ワープ中はクルーもスタッフもコールドスリープで過ごす。哲平も可南子も、ワープを繰り返す度に、二度と家族には会えないんだ、という思いに苛まれていった。


「なに、そのうちに超高速ワープとか開発されて、地球と行き来できるようになるさ。」

そう思うほかなかった。危険なのはワープアウトした時で、なるべく安全な座標を選んだつもりでも、そこに障害物があれば命にかかわる事故になりかねなかった。


 ワープアウトを知らせるアラートが鳴るとコールドスリープも解除されるので、真っ先に起こされる船長の哲平はまず、クルーみんなの無事を確認する。今回が最後のワープアウトのはずだ。先回のワープインの際にK-35がかなり明るく見えてきたからだ。今回は運行要員クルーだけではなく植民要員スタッフも起こさなければならない。むろん、無事にワープアウトできてからの話だ。


「いよいよね、哲平さん。」

可南子も起きてきたようだ。航宇宙士は座標と現在地を確認し、ワープが順調であることを告げる。

「ワープアウト、スタンバイ。カウントします。10,9,8…」

ついに新たな地へたどり着く。哲平もクルーたちも興奮を隠せなかった。


「みんな落ち着け。あれが来るぞ。」

哲平が船内放送を流すと、一斉に「お前がな」のレスがモニターに表示された。「あれ」というのは「粒子変換」のことだ。ワープは物質の性質を粒子から波形に変換して空間の「壁」を通り抜ける。

たとえでいうと、高い壁をボール(粒子)は超えられないが音(波長)は通り抜けられる。ということだ。


それで、波形から粒子に戻るとき、体内にものすごい違和感を感じ、中には嘔吐するものもいる。それでワープアウトの日は12時間前から固形分の食料を摂取することは禁じられているのだ。

「カウント0。ワープアウト」

「ワープアウト。」


 哲平は復唱し。レバーをワープアウトにする。あの強烈な違和感を体が駆け巡る。アストロノーツのトレーニング中、三半規管をいじめる様な訓練がいくつかあり、ただのいじめだろうと思っていたが、こんなところで役にたつとは。哲平はアメリカ海兵隊上がりのトレーナーの見事なスキンヘッドを思い出していた。


「ありがたや、ありがたや。」

よくご来光を拝む仕草をしては彼を怒らせていたが、今は普通に手を合わせてでも感謝したい気分でいっぱいだった。


「わああああ。」

 船内に歓声があがる。目の前に惑星が現れたのだ。青い、ここからみると植生はほとんどないが、これだけ水があれば十分だろう。人類は賭けに勝ったのだ。


「船長、ご来光です。」

副船長が告げる。惑星の陰から明るく輝く恒星K-35が現れたのだ。

「あれ?月かな。」

さらに惑星の陰からもう一つ惑星が現れたのだ。


「双子…?」

一つの惑星だと思っていたが、なんと連星だったのである。その星にも大量の水が確認された。

「これは驚いた。」


 過酷な船旅のご褒美だろうか。この船旅でゴールまでたどり着いたのは36隻。14隻の船が、消息を絶ったり、大破したりしてしまった。とりわけ技術力が劣るアジア、アフリカ地域の生存率が悪く、アジアでは大和の2隻のほかは、インド船3隻のうちの1隻と台湾船だけ、アフリカでは南アフリカ船以外は全滅であった。


 船長会議が行われ、一つの星を重点的にするか、二ついっぺんに行うか話し合った。結果として二惑星同時入植が決定し、18隻づつわかれることになった。イザナギとイザナミもそれぞれ別れることになった。


思ったより会議の時間が延びたため、可南子はその理由を尋ねた。

「名称でもめたんだよ。どっちが地球テラでどっちがルナかってね。」

「くだらないわね。」

哲平の答えに可南子も苦笑を隠さなかった。


「だろう?結局、こっちがスフィアであちらがガイアになった。それで、太陽の方もK-35っての呼ぶも変だし、サンと呼ぶのもややこしいからから名前がついた。アポロンだ。」

哲平も少し自嘲気味な口調で続ける。

「それは一択だったの?」


「仕方ない。アジア勢は大和と台湾だけだからな。俺はアマテラスでもいいと思うんだがね。まあ、しばらくは(コールドスリープでは)寝られないよ。テラフォーミングの仕込みがあるからね。今から会議するから、みんなを呼んできてもらってもいいかな?」


 テラフォーミングが始まった。スフィアにわたった移民宇宙船は18基。9基ずつ南北回帰線上に展開する。機首を下に下げ、静止軌道上からさらに降下する。成層圏ぎりぎりの距離に到達するとまず機体のうち機首と居住区画をスライドさせた。


 次いで、次のユニットからカーボンナノチューブで編まれたケーブルを地表に向かって降下させる。これは将来軌道エレベーターとなる布石である。そして、どのケーブルをつたってナノマシンプラントユニットがおろされた。こいつが、おびただしいナノマシンを生産して大気中へとまき散らすのだ。これらは惑星の両極に滞積する氷の層に取り付き、水分を酸素と水素に分解する。人類の生存に適した大気組成を作り上げるためだ。


 さらに機体からはエネルギープラントユニットが展開し、土星のリングのような受容体を作り出す。これは太陽光とヘリウム3の核融合方式のハイブリット発電だ。これで太陽光が当たらなくなる「蝕」の時間帯でも安定して発電できるすぐれものである。受容体の周りには小惑星が盾としてはりめぐらされ、機体を飛翔物との衝突から守る。


 最後にケーブルにそってリフトが昇降し、ロボット掘削機や金属生成ユニットなどを地表におろしはじめる。地表のマシンたちは鉱物を集めるとそれを工場で精製してリフトで宇宙船に戻して宇宙船を基地コロニーとするための増築を始める。ここまでの段取りを終えるのに3年を費やし、哲平たちは再びコールドスリープに就いた。



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