30話:雷の乱心
整頓された部屋に、俺は少々戸惑う。
「はい、お紅茶です」
「あ、ありがとう」
湯気を出す紅茶が俺の前に置かれる。
「まずは、そうですね。わたくしの昔話にでもお付き合いいただけませんか」
「おっ、おう。いいぞ」
とりあえず、脈絡も無いが、彼女の昔話に付き合うことにした。
「そうですね。かつて、お母様がまだ、【帝華】と呼ばれる前、【第五鬼人種】や【吸血鬼】と呼ばれていたころまで話が遡ります。
お父様が【雷帝】と名乗る前。二人は、出会いました。そして、対立をし、離れ離れになります。
それから、数十年後、わたくしが生まれ、二人は婚約を果たしました。
その後、わたくしが七つのころまでに、お父様は、わたくしに呪印と魔法に関する全てを教え、亡くなりました。
その後は、わたくしは、一人で暮らし続けました。
そんな或る日、お母様が帰宅なされました。
そのとき、言われたのです。『いつか許婚がやってくるから、そいつと結婚しろ』と。衝撃でした。そして、そのときわたくしは、これが、お母様から貰う、最後のプレゼントなのかもしれない、と思ったのです
許婚。わたくしは、それがどんな方なのか、ずっと悩んでおりました。
でも、やっと出会えましたわ。篠宮翔希様。貴方が、わたくしの許婚で間違いありませんわよね?」
許婚、か。そういえば、言っていたような気がする。「そうね。じゃあ、あの子と貴方は、許婚と言うことにしましょう」とか、何とか。
「ああ、間違いないとは思うけど」
「どうかなされましたか?」
「いや、あんな口約束も同然の話だし、断りたかったら、断ってもいいんだぜ」
実際、俺は、ただ、勝手に宣言されただけだし。
「いえ!断りません。わたくし、翔希様とご結婚いたしますわ」
何か、すっごい盛りあがってる。
「い、いや、俺は、別に結婚する気は……」
「無いのですか?」
上目遣いで俺を覗き込むウィンディアは、とても可憐だった。
「い、いや、どちらとも言えないっていうか……」
「好きな方が居られるのですか?」
す、好きな奴?
「い、いないけど、たぶん」
「たぶんでございますか?」
な、涙目になってる。何故に、どうして、一体何故?
「翔希様。少し出かけてきてもよろしいでしょうか」
こ、この流れで、きゅ、急に?
「ど、どこに行くんだ?」
「少し、翔希様と関係の深い女性を皆殺……親睦を深めようかと」
今物騒な単語が!
「お、おい、ちょっと、そんなことするなよ」
「むぅ~、ですが!ですけど!わ、わたくしは、許せません!翔希様をわたくしから奪おうとする女がおられることを!」
変なスイッチが入ってしまっているらしい。
どうすりゃいいんだよ……。




