25話:翠の少女―治癒
俺は、しなのをおぶったまま、家にたどり着いた。家には、灯りが点っておらず、ユキネが熟睡している事がよく分かる。少し辛そうにしてはいるものの、大丈夫そうなしなのを、連れて玄関のドアを開け、入る。リビングまで連れて行くと、折れているであろう右腕を治療しようとしたが、通常の治療では、生活に支障が出ると見て、魔法で治療する事に切り替えた。
「治癒」
治癒は、俺のもう一つの魔法の属性に近いため、完全ではないが、師匠に教えてもらい使えるようになっている。じわりじわりと治療しているのが手に取るように分かる。
「っ!」
しなのが声にならない悲鳴を上げたように見えたので、いったん治療を中止する。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫なんだけど、少し、御腹の方がね」
腹、そういえば蹴られてたもんな。少し、詳しく見るために、服を捲る。大き目の物体が二つ見えるが、意識を怪我に集中して、そらす。
状況は、かなり酷い。痣が出来ていて、壮絶な蹴りを受けた事が伺える。俺は、最大限に治癒魔法を展開して、治癒にあたった。
そもそも、師匠に教わった魔法による治療は、俺の力では、完全には出来ない。しかし、もう一つの魔法には、二つの能力が備わっている。二つの能力と言うのは、さほど珍しい事ではない。系統からの分岐で、似た系統の力が重なれば、起こりうる現象だ。それ故、似た系統と言うより、ほぼ同じ系統の二つになるのだが。そして、そのもう一つの力は、それを完全にする可能性がある。
「天より舞し思いよ、我が信念を元に、この者の傷を癒したまえ」
淡く紫の光がしなのの傷を包み、一気に傷を戻す。何事もなかったかのように、右腕の骨折もすでに治癒し終わっており、一瞬ですべてが直ったといえるだろう。
「もう、大丈夫だろ」
俺は、しなのの頭を撫でながら、耳元で囁いた。
「うん……ありがと……」
「コレはな、奇跡の力なんだ……」
そう、きり出し、魔法についての説明を始めた。
小一時間に渡る説明には、しなのは、耳をきちんと傾けてくれた。しなのは、何故か、この話を、素直に受け止めてくれたようだ。
「じゃあ、さ。佐薙悠も魔法使い、あっ、いや、魔女って言うべきなのかな?魔女なの?」
「別に魔法使いだろうが、魔女だろうが、関係ないよ。あいつは、元は敵、なのかな?まあ、どっちでも良いか。闘って和解して、友達になった」
「へ~。じゃ、わたしは?わたしのことは、どうなる?」
どう?意味が分からないんだが……。
「まあ、お前は、巻き込まれたのを助けたって感じだしなあ。う~ん、表現するなら、悪党に襲われていた姫とそれを助けた騎士って感じ?」
「そ、そう……」
顔を赤らめるしなの。何か変なことでも言ってしまっただろうか。




