19話:奇襲と目撃
俺はふと、思い出した。あのときの少女。確か、あの子もしなのと名乗っていた。髪色も同じ。俺の勘が正しいなら、彼女が漣しなのだろう。
漣、いや、しなのに直接聞くのが一番か。
「しなの」
俺が声をかけると、しなのは、女子達との会話を中断して俺のほうを振り返った。
「なに?ショウキくん」
にっこりと屈託の無い笑みを俺に向ける。
「少しいいか?」
「うん、いいよ」
数秒の間もなく、即答するしなの。それに対して、しなのと話していた女子達がこそこそと話をする。そして、クラスの女子、確か、栗原さん、が、聞いてくる。
「あ、あの……篠宮君と、しなのちゃんって仲いいの?」
その疑問に俺が答えようとするが、しなのが先に答える。
「どうなんだろうね。でも、まあ、今は、私が告白して、答え待ちかな?」
その答えに、女子達は、キャーと歓声を上げる。はあ、厄介な。
「ショウキくん、それで、話なら、お昼食べながらにしない?」
「お、おう」
なんだかんだで、お昼を食べながら喋ることになるらしい。
「はい、あ~ん♪」
そして、どうしてこうなった。
「あ、あの、なあ」
「あ~ん、してくれないと、お話できないよ?」
何なんだ、これは。拷問か。ユキネの視線が刺さる。佐薙もギロリとこちらを見ている。
「あ、あ~ん」
ぱくりと食べる俺。
「はい、それで、話って?」
「いや、どうでもいいことなんだけどさ」
俺は、聞いてみる。
「はじめてあった時に貸した服、返してもらってないよな」
洗濯するから、と持って帰った服を返してもらっていない。彼女が覚えているなら、
「あっ!忘れてたわ。今度返しにいくわ。場所も一応覚えてるから」
やはり、俺のことは忘れていないらしい。と言うか、そこまで覚えていたのか。まあ、返しに来るというのなら、それはそれでいいか。
拷問のような昼休みも終わり、俺は、ユキネと佐薙を連れ、帰ることにした。
道中、特に気になることは無く、家まで帰れることに一安心して、軽い足取りで、ユキネ、佐薙(家の方向が同じらしい)と共に雑談しながら歩いていた。
「っ!敵っ!」
そんな、楽しい雑談を打ち切ったのは、佐薙の一言だった。俺も、聞くなり、気配を探る。後ろに、二人、魔力はそれなりに高い。おそらく襲撃しに来た魔法使いだろう。
「よし、逃げるか」
ガシッと俺の襟首を掴む佐薙。
「ぐえ、何すんだよ」
「いや、戦いなさいよ」
佐薙の言葉に、俺は、眉を寄せ、「無理無理」と言いたげな表情で、言う。
「無理」
「なんでよ」
「俺、魔法使えない。ユキネ、変装しか出来ない。以上の理由から」
俺は、よほどの緊急時じゃないと【夜】の力を使わない。
「あたしとの戦いで使ってたじゃない」
「あの時は、特別だ。通常じゃ、【夜】の魔法は使えないんだよ」
「あんたら、使えないわね」
俺の含みのある言い方に気づかなかったのか、普通に受け流した佐薙は、敵に向かって赤紫の炎を投げた。直後、背後で爆散する炎。
「って、お前なぁ。もうちょっと被害の割合を考えろよ」
住宅に燃え移らない程度の炎だったが、危機が無いとは限らない。
「良いじゃない。さて、帰ろ」
Sceneしなの
えっ、何あれ?
私が目撃したのは、佐薙ハルカが投げた何かが、爆炎を放ったというものだ。
非常識。常識外。意味不明。理解不能。私のまったく知らない未知の領域。
そして、それを何事もなく見ていられたショウキくんもまた、その常識の外の領域に居る人間。
佐薙ハルカは、超能力者なのだろうか。パイロキネシスト?魔法?異能力?




