第8話 凡人を極めようと思っただけなんですよ。そこに他意はない
スタート地点に立って、アディは改めて的を見る。的は全部で二十個、大中小の三種類。
女生徒より下の実力は、男としてプライドがどうだろうかと、チラリとアディは考える。
Aクラスの男女比率に男が多いのも、実技があって、体格や体力、魔力などの身体的な差に他ならないからだ。
攻略によっては、編入にもかかわらずSクラスに選ばれるヒロインは、まさに規格外を背負って歩いてる。
容姿だけでなく能力が目立つからこそ、攻略キャラに選ばれるだけはあった。
そのヒロインの初期サポートであるアディは得意魔法と呼べる突出するものはないが、全属性の適正は少しあった。
――そこそこを狙って、賭けのデザートを譲れば、目立たず面目も立つか。
最初は好きにやって、最後にスタミナ切れを装って、的を外せばよさそうだ。
――まずは様子見。
だいたいの基準は見ていて把握したが、実際は違うということは、よくあることだ。
アディは、右手のひらを前に突き出した。
「《エアショット》」
狙うのは中距離、中サイズの的。アディが放った風魔法は見事に真ん中へと命中し、判定は赤。
――実際にやると、射的みたいだな。
領地で岩や木、鳥や小動物を狙ったことはある。けれど、放った魔法の威力判定なんて初めてだ。
二発目、同じく中距離。的は少し小ぶりなもの。赤。
三発目、少し後ろの大きめの的。赤。
四発目、手前に戻して右側の的へ。外したように見せかけて、的の端へ当てる。判定はオレンジ。
――判定は、けっこう正確だな。
五発目、後方の的、中の大きさへと少し過剰威力で放つ。判定はオレンジ。
六発目、真ん中の距離、過小威力で的に当てる。判定はオレンジ。
――やべぇ。楽しい。
狙った場所に、狙った通りの結果が出る。
アディは目をキラキラとさせて表情が緩む、左手でその口許を隠した。
好奇心が沸き立つのを、アディ自身も感じる。
アディは広げた右手を、無意識にピストルの形へと変えて七発目を構えた。
――あの的は、本当に壊れたりしないのか?
好奇心が抑えられず、アディは人差し指の先に風を集め圧縮し、威力を高めていく。
さらに空気抵抗を無くすため、周りに別の風を重ね掛けし、まとわせる。
――細く、鋭く、弾丸のように。
「……《エアショット》」
キン、と空気を裂く音がする。
軌道はまっすぐ、一番奥の一番小さい的へと伸びた。
――あ、やりすぎた。
空気抵抗の外側の風は、的に当たる前に途切れた。的も光ることはなく、パッと見は不発。
けれど、微かな音を耳で拾い、手応えをアディは確信する。
――減点の方が大きいのか、壊すのは判定にならないのか。どっちかな。
まぁ目的は果たしたしと、アディはそれを表情に出さず、ピストルにしていた右手を開いて構えなおす。
八、九、十回目と中距離の的を狙って、風魔法を当てた。
「デザートよろしくね。アディ」
「ああ、楽しみにしておけよ」
ケレルの勝利宣言に、アディはホッと胸を撫で下ろした。
周囲の反応も、可もなく不可もなくだ。もう、次の生徒が開始している。
――良かった、バレてないよな。
◇◆◇◆◇◆◇
魔法実技の授業が終わり、各々昼食に向けて解散していく。その流れに逆らった小柄な影が一つ。
「ルナ、どこ行くんだ?」
フィデスが、横を通りすぎたルナに声をかけた。
ルナは無言で、的の方へと早足に歩いていく。
立ち止まったのは、一番奥の一番小さい的の前。
「……」
ルナが、七発目で《アイスアロー》を当てた的。
アディが七発目で狙い、不発した的。
他に、この的を狙った者はいない。
その的の中央。爪ほどの大きさの穴が、確かに空いていた。
――魔法耐性をあげた的だぞ。それに穴を空けるなんて……。
当てたと気づいていたにも関わらず、へらっとしていた男を思い出す。
苛立ちを隠すように、ルナはきゅっと口を引き結んだ。小さく握った拳が白く震えている。
踵を返すと、早足にフィデスの元へと合流した。




