第8話 実はずっと、ってなぜ誰も指摘してくれなかったんだよ
「あの模造剣に嫌な感じ、とは?」
淡々とカリスに聞かれ、アディは口をへの字に曲げた。
態度が不敬と言われても、知ったことではない。
――俺の目が、サーモグラフィみたいに、魔力の流れが見えるなんて言えるか!
魔力の流れや癖が見えるとは、ずいぶんと前から公言している。
けれど、改まって聞かれてもそれは困る。
抽象的かつ感覚的なことを言語化するのは、誰だって嫌だろう。
ましてサーモグラフィもない世界で説明するのは、骨が折れる。
「聞かれても応えられません。直感的なことなので」
じっと見つめてくるカリスに、アディは渋々といった体で答えた。
模造剣の構造に言及などアディには出来ない。物質への魔法付与に明るくないからだ。
ゲームでは、ボタンのタップや操作一つで終わってしまう過程であり、そこに造形などない。
ミニゲームですらない、単調作業のひとつ、記憶に残っているわけがなかった。
――そもそも魔道具とか魔法付与とか、まだ習ってねぇし。
アディが掛けている眼鏡に関しても、そうだ。
こういう効果があるに対し、そりゃ、そういうのあるだろうなぁという感想が、アディにあるだけだった。
「……アディ。その気づいたタイミングは、さっきだけですか?」
ウェルムも近づきカリスの横へと立った。
ペアだったケレルは、不安がる他の生徒たちを取りまとめているようだ。
――そりゃ、耐久性に優れた模造剣が、爆弾みたいに落ちて、爆発したらビビるよなぁ。
周囲を見る余裕が、ようやくアディにも出てきた。
周りが優秀すぎて、有り難すぎる。そして、後手に回っている教師の、なんと不甲斐ないことか。
「嫌なのは、さっきのユニタスの使ってた模造剣だけです」
「というと、他にもなにか?」
アディの意図を正確に汲み取って、ウェルムは追求してくる。
なぜ揃いも揃って、アディに聞いてくるのだろう。
確かに初手で気づいたのはアディだが、事後処理その先は、大人の領分ではなかろうか。
タオル越しに頭を掻きむしってから、アディは改めて睨むように周り見渡した。
ウェルムに聞かれると、なぜだか追試を思い出して気が滅入る。
と言うより、アディに非があるように思えてくるのだから不思議なものだ。
あの時の居心地の悪さは、まだ健在だった。
――そもそもが、白紙で出したから、なんだけどさぁ。
仕方ないと、確認を終えたアディは授業が始まってから気になっていた違和感を、そのまま報告する。
「……気のせい、かもしれませんよ。こう、何か違うなーっていうのが、そことそこ……あと、ケレルが持ってるやつ」
騒ぎで誰かが落としただろう模造剣に、使われずに立て掛けたままのもの。それと、ケレルが握っている模造剣。
アディ自身、入学二日目に始まり授業で何度か使っている。じっと見れば、普段使ってるものと違うという区別は容易についた。
ユニタスが使っていた模造剣の、瞬間的に首にチリつく嫌な感じは、三本とも感じない。すぐにどうこうとは、ならないだろうというのもアディの直感だった。
カリスとウェルムが顔を見合わせて、カリスがアディへと先に口を開いた。
「アディ。疲れていなければ、備品庫へ行って他のものも見てくれないかい?
……どうやら君以外には、選別が出来なさそうだからね」
「へ」
いったい言葉も交わさずに今、二人の間で何が決まったのだろうか。
困惑するアディを他所に、ウェルムがさらに指示を出した。
「ルナ、数が多そうなので、アディが選別に集中出来るように、手伝ってあげてくれますか?」
「わかった!」
――あ、これ。今から行くやつだ。
王子様と公爵家の令息、教師の許可も取らずにテキパキと決めてしまうのは、さすが権力者であり攻略対象キャラたちだ。
「あ、アディ。目隠し取っていけよー」
黙って周囲を警戒していたフィデスが、備品庫へと歩きだしたアディに声をかけた。
フィデスに指摘されて、ピタリとアディは動きが止まる。
そして、リボンを外そうと後ろに手をやって、再び歩きだした。
――忘れてた。……って取れないな。
後ろの結び目を触るのだが、散々髪を弄ったせいで、色々とぐちゃぐちゃになっていたらしい。ほどくだけが、アディにはなかなか出来ない。
「アディ。歩かないで止まって、僕が取るから!」
「……悪い」
アディはちょっと恥ずかしくなり、その場にしゃがみこむ。
目隠しのリボンを落とさないようにという言い訳で、両手で顔を隠した。
ルナの手が、アディの髪を巻き込まないように丁寧に払って、リボンをほどいていく。
その手がくすぐったくて、アディはさらに羞恥で顔が火照るのだった。もう耳まで真っ赤である。
――なんの絵面だよ、これ……。
アディは気づかない、恍惚とした笑みを浮かべて、ルナがゆっくりとリボンをほどいていたことを。




