第7話 頼むから学園の先生、もうちょっとしっかりして?
「……じゃあ、よろしく」
アディは切り替えてため息をつき、右手を前に出した。
「ああ」
フィデスも右手を出し交差したのち、三回叩いた。組手開始の合図である。
――脇腹、右。
先に仕掛けたフィデスが左足を蹴りあげて、アディの脇腹を狙った。
アディはそれを右腕で防ぎ、フィデスの胸部へと左手を突き出す。
フィデスは上げた左足で、そのままアディの左手をいなし着地。右手で突きを繰り出す。
アディは後ろへ反って避けると、地面に手をついて回転をかけ、足技を二回仕掛ける。
――密着は無理! 速っ! こわっ!
フィデスに力量に合わせ、身体強化を段階でかけるアディ。互いにフェイントをかけた上で、完全に避け防いでいた。
距離をとりすぐに動けるように、アディは軽くジャンプし、ジリとフィデスと間合いの攻め合いをする。
――左、上段突き。胴。右頭部。正面っ!
避けては詰められ、避けては詰められをアディは繰り返す。
――そこそことかじゃない。フィデスの嘘つき!
悪態もつきたくなる、というものだった。
目で魔力を読んで反応して、アディはついていくのがやっとである。
「――っ!?」
チリと首後ろがひりついて、アディはよそ見をした。嫌な予感とでも言うのか。
アディから離れた位置で、模擬戦をしていたユニタスの剣に、歪な何かを感じて背筋がぞわりと警鐘を鳴らした。
――魔法じゃ怪我するよな!?
模造剣を持つユニタスの手首を、アディは正確に狙う。そこに躊躇は一切無かった。
左でフィデスの攻撃を受け止め、アディは咄嗟に右手で魔力の塊を放つ。
「《ショット》――ユニタス、モンテ、離れろ!」
ユニタスの手に魔力の塊が当たり、その衝撃で彼は模造剣を取り落とした。
アディは彼へと、続けざまに指示を叫ぶ。
けれどユニタスは手首の衝撃に戸惑い、アディの仕業と気づいていない――彼の前にいるペアの女生徒も同じだ。
――ダメだ!
模造剣に異様な魔力反応を、アディはハッキリと感知する。
けれどユニタスを含め、フィデスやルナにもアディの意図が伝わらず、その反応が遅れた。
ただ一人を除いて――。
「《イージス》」
アディの組手を見ていたカリスが、ユニタスとペアのモンテを包む防壁を、即座に展開する。
そこに、地面に落ちた模造剣が僅かに光ると爆発した。
爆発音と衝撃波で、Aクラス全員の動きが止まった。
「――っ!?」
砂埃が舞い上がり、焦げた臭いが鼻を突いた。
落ち着いているのは、アディを含めた攻略対象キャラたちくらいだろう。耳鳴りの中に、ざわめきが混じっている。
「アディ、すごい。かっこいいね」
シンと静まり返った運動場、そこへルナがアディに、タオルを持って駆け寄ってきた。
その動じてなさと明るい声が場違い過ぎて、アディはちょっと怖い。
隣にいたはずのフィデスは、カリスの護衛についたようでそばで周囲を警戒していた。
こちらも素早すぎて、アディはちょっと引く。
「……カリス様、ありがとうございます」
とりあえず、アディはカリスへと礼を述べた。助かったのは本当だからだ。
カリスはそれに、片手を上げて応えた。
ルナから受け取ったタオルで汗を拭き取りながら、アディはホッと息をつく。
模造剣が落ちた周囲は、地面がややえぐれている。小規模な爆弾がそこに落ちたような威力だった。
辺りに飛び散った細かく砕けたその残骸からは、嫌な魔力反応が消えていく。
「殿下、ありがとうございます。おい、ユニタス、モンテ嬢。一応聞くが、模造剣が爆発するような、何かをしていないだろうな?」
「してませんよ!」
「してないです」
教師が走って駆けつけ、ペアの二人に事実確認をしていた。
二人はそれに、違うと即答している。
アディもそう思う。あれは魔力の流れがおかしかったからだ。
「アディ。見えたことを聞いてもいいかい?」
二人と教師を視界に入れたまま、カリスは身を隠すこともなく、堂々とアディへと近寄ってきた。
――良いのか、それで。仮にも王族だろう。
フットワークの軽さは、ここでは美点にはならないのではないだろうか、アディはそんなことを考えていた。
前世なら有事の際、一番に守られ、安全確保して逃げるのが要人だからだ。
「普段の模造剣とちょっと違って、嫌な感じがしたとしか……」
言いたいことは言えるわけもなく、聞かれたことにだけアディは答えた。




