第6話 頑張って眼鏡掛けたのに一限目の実技から即外すとかなんなの!
『へへ、祭なんてただの稼ぎ場だな』
――ああ、失敗したな。せっかく攻略対象キャラのセレーヌス・クストスとのお出掛けだったのに。
慣れない人混みに、気づけば拐われていた。
粗雑な造りの屋内、藁の上に無造作に投げられた。手足は縛られていて、受け身が取れない。
ぼすっと、藁がクッションになったことが幸いか。
『けほっ』
口に巻いた布が外れ、閉めきった埃っぽい空気に咳き込んだ。
その瞳に映った、紅葉のような小さな手は、なんて小さく無力なことだろう。
――けど、手足が小さくても、口さえあれば。
こんな小汚なくて薄暗いところに、子どもを拐うお前たちは悪いやつ、悪党――敵だ。
『身なりも良いガキだ、売れるだろ』
『親に身代金でも、揺すってみるか?』
『《げいる》』
ゲームでは、敵は逃がしたらいけない。なぜなら子悪党は、何回でも出てくるからだ。
『ぎゃぁぁ、あ――』
藁の上に寝たまま小さく呟く。中級風魔法で、目の前の一人を切り刻んだ。
『なんだ、このガキ!?』
『おい! 口だ。口を抑えろ!』
――こんなところで、死ぬわけないでしょ。アディウートル・クストスはヒロインのチュートリアルのサポートキャラなんだから。
手を伸ばした男が来るよりも速く、ただ前だけを見て口を開いた。
『《げいる》』
二度と悪さが出来ないように、消しておかなければいけないだろう。
――だって、拐われる子どもたちが可哀想じゃないか。
『やめてく――、がぁ、あ!』
ずりと這う音が響いて、目を向けると、入口の方へと足を引きずる男がいた。
『けほ、けほっ』
咳き込んで、血を吐いた。そうして、男と目が合った。
――せっかく体調が良くて外に出たのに、台無し。またしばらく、邸から出してもらえない。
『わ、悪かった。悪かった! もうしない、だから許してくれ!』
目の前の男が足を押さえ、何かわめいている。室内に響く音が、酷く耳障りだ。
――どうして、許さなくてはいけないの。
『《げいる》』
ぴちょん。ぴちょん。
辺りは一面、赤い雫が滴っている。錆びた臭いが充満していた。
◇◆◇◆◇◆◇
――ソフトクリーム、見てぇ。
夏のもこもことした雲が空を泳いでいる。青と白のコントラストが綺麗な、よく晴れた日だった。
これから始まるのは、ペアに分かれての実技授業。一限目からの運動場で、アディはあくびをしていた。
「あー。だるい」
「アディ、まだ始まってもいないよ?」
「いやだって覚えてないけど。なんかさぁ、嫌な夢見た気がするんだよなぁ。目覚め悪いやつ」
本日の授業内容は座学の実践なので、言ってしまえば自由である。
アディのぼやきを拾ったルナが、後ろから声をかけてきた。
今日掛けてる眼鏡は、実技で動くからと思ってスクエアフレームの物。
――ウェリントン。スクエアよりちょっとだけ、重いんだよなぁ。
そしてインテリは似合わないと思いつつ、機能性を重視してアディが気負ったスクエアの初デビュー。
授業開始時に、即外すこととなった。
「……カリス様。なんで目隠し?」
「アディはまだ、過激な魔法行使はダメだろう? だから趣向を変えようかとね」
ぐっと押し黙り、困惑するアディを他所に、カリスはフィデスに目隠しをしていた。
実技考査の後、魔力枯渇のダメージが抜けきらず羽目を外しすぎないようにと、アディは注意を受けている。
地面に広く取った丸いサークルを描いたその真ん中、フィデスとアディは、向かい合わせで立っていた。
「アディ、キツくない?」
「大丈夫。ありがとうな」
アディの目隠しは、ルナが担当だった。
魔法有りがルナ、魔法無しがフィデスと実技ペアがそれぞれ違うアディ。
では、アディと組まない彼らと組むことになる残り一人は誰――と思えば、カリスだった。
なので、実技は自然と四人合同が通例になった。
最初の授業でそれを知り、とても驚いたアディである。
ちなみに残る攻略キャラの二人、ウェルムとケレル。彼らはそのまま、二人でペアとなっていた。
残り四人の生徒は、男女ペアに綺麗に分かれたようだ。
「ルールは簡単。フィデスは身体強化なし、アディは身体強化ありで、双方ともに視覚を制限しての組手だ」
「……カリス様」
カリスのルール説明に、アディはなんとも言えない声を出してしまう。
アディは目隠しされたところで、無機物でなければ見えている。それはカリスたちも、ある程度知っているはずだ。
目の前の学生たちの動きなど、魔力が見えるアディにとって全く支障が無かった。制限にはならない。
身体強化の有無は、貧弱なアディと攻略キャラで騎士のフィデスなら、釣り合いが取れるだろうけれど。
――俺、虚しい。
気落ちしてアディが肩を落としていたら、ふと何かがひっかかり辺りを見渡した。
――言い表せないのが、余計にムズムズする。
違和感のようなものを、幾つかの気配としてアディは感じる。特に強いのは、ユニタスからの魔力反応だ。
「アディ、気にするなー。俺もそこそこ気配が探れるから」
「アディ。鍛練でフィデスは慣れてるから、思いっきりしていい。遠慮、要らない」
ユニタスの方へと目を向け――気がそれていたアディへと、フィデスから加減は要らないと言われる。
背後のルナからは、とても怪しい感じのアドバイスがかかった。




