ss 29話~30話の間の時系列です。ある日の昼食。ファーストフードが無性に食べたくなる現象について
その日はアディ、ケレル、ユニタスと食堂で昼食となった。
ちなみにルナは、カリスに呼ばれて王族、高位貴族用のラウンジで昼食だ。
「アディってさ。抜けてるのに、テーブルマナーだけは貴族様だよな」
「確かに、ずっと領地に住んでたわりに綺麗に食べるよね。俺なんて、形だけなんだけど」
ユニタスとケレルが、アディの所作について食事の手を止め、じっと見つめてきた。
アディはナイフとフォークを使い、音もなく綺麗に切り分けて、日替わりのハンバーグを口に運ぶ。
「え、いや俺も最初は苦労したよ? ただ、手本が立派だったからなー」
二人に見つめられドキッとしたアディは、即座に否定した。
『分からなくなった時は、カトラリーは外側から使うんだよ。その後は、個々のカトラリーの特徴を覚えていけば、間違いはないから』
前世、一般家庭の日本人だったのだ。箸より使い慣れたものは無い。
混乱するアディに、優しく教えてくれたのは父と次兄のセレーヌスだった。
「あー、生徒会長。隙がないよな。周りにキラキラって空気が輝いて見えるし。
……なるほど、あれがアディの最終形態か」
「いや。俺は、セレ兄さんにはなれないって」
「アディとは性格が似てないもんね。生徒会長のセレーヌス令息、女性にも紳士的だし」
ケレルがクスクスと笑いながら、ハンバーガーをがぶりと、かぶりついて食べている。
ケレルとユニタスの昼食は、Bランチのハンバーガーとポテト、サラダに野菜のポタージュスープの組み合わせだ。
「……ケレルはやはりというか、庶民的な食べ物に忌避がないよな」
アディが居心地悪く話題をそらした。
日替わりメニューは、今のところ被り無しでどれも美味しい。けれどどちらかと言うと貴族向けで、カトラリー必須のものばかり。
逆に、Bランチは下位貴族、庶民向けの物が多く、気安いメニューが中心だ。テイクアウトが可能なくらいに。
ケレルのその食べっぷりに、アディは羨ましげに言及する。
人目を気にせず食べる度胸は、今のアディにはなかったからだ。
――俺のせいで、セレ兄さんの評判に傷がついたらなぁ……。
手掴み食べなんかしたら、一気に前世に引きずられ、マナーがどこかへ旅立ってしまうところだろう。
器用ではない性分、醜態はさらせそうになかった。
「ああ、ダンジョンに潜ったり、森で狩りをしたりしてたからね。
家では、テーブルマナーが必要な食事の方が少なかったよ。それこそ学園のために、覚えたくらいだし」
「あー。デビュタント以後が厳しくなるんだっけ。貴族の教養が座学に入ってくるんだよな?」
アディが思い出して、顔に面倒そうとあからさまに出した。
それを見たユニタスが吹き出して笑う。
「アディ、貴族は顔に出したらアウトだろ。授業以前に、それはヤバイな。まぁ頑張れ」
「ダンスのレッスンとかねー。来年くらいから始まるんじゃないかな」
ケレルも遠い目をしていた。部外者然としているのは平民のユニタスだけだ。
「そういうユニタスは、俺らが貴族様の授業してる間、なにするんだよ」
「俺? 俺は、薬草学と医術学、あとはまぁカリキュラム次第だな。生活に役立てそうなのを片っ端から受けるよ、Aクラスの特権だし」
アディが恨めしそうにユニタスを見れば、ポテトを指で摘まんで、ひょいと口へと運んでいた。
「コイツ、何気に天才発言してるわー」
アディは半目になって、食事に戻った。ハンバーグは温かい方が旨い。
乙女ゲームの異世界転生、アディが嫌気をささないのは食事情の充実だろう。
洋食ばかりではなく、前世に馴染みのある食事に、触れる機会に恵まれているからだ。
――時々、がっつり和食を箸で食べたくなるけどなぁ。
この世界に箸はない。刺身や納豆などもない。味噌汁もそうだ。
米はあるけど、リゾットで、雑炊やお粥もなかった。
アディがカトラリーを使うのは、自分を貴族として位置づけることで、前世を考えないようにしてるからもあった。
「……俺も、ハンバーガー食べてぇな」
「食べればいいじゃん。アディ」
「お前、変なところ真面目だって」
アディの心の声、小さく漏れたその本音が友人二人に拾われた。
「――っ! お前らスルーしろよ!?」
「口に出したお前が悪い」
顔が赤くなって、バッと顔を隠したアディに、ニヤニヤとしたユニタスが絡んだ。
「あ、今度さ。皆でBランチテイクアウトして中庭で食べようよ」
ケレルはそこに、名案と言わんばかりに意見を述べていた。




