最終話 一年夏、距離感近い友人に囲まれて……いや、近いだろ、お前たち
一章完結になります(*^^*)
ここまで、アディたちを見守っていただき、ありがとうございました。
二章も引き続き更新していくので、良ければブクマや評価などいただけると、とても励みになります。
(二章は書けているので、主に三章執筆への意欲が上がります)
夏の始め、青々とした空が窓の外に広がっていた。
アディは制服を身にまとい、壁に立て掛けられた剣を静かに見つめる。
制服に袖を通した時点でもう、後戻りは出来ない。
「や、それなら明日から行きますって言った昨日か」
アディは笑って、一人呟いた。
セレーヌスとの食事をして、もう学園に行っても良いかと自然と思えたのだから。
部屋へと戻る途中で、ラウンジで寛いでいた皆へと声をかけたのだ。
実技考査で、眼鏡を自ら踏み割ったアディ。彼は新しい眼鏡を、かけていなかった。前髪で隠さずあらわになった、ダークルビーの瞳が剣を映している。
その顔は、スッキリと吹っ切ったように明るいものだった。
今日からまた、新たな一日が始まる。
アディの体調はすっかり良くなり、実技にも問題なく参加出来るだろう。
病み上がりなのに、とマーレは少し不満そうだったが……。
これからも、昼休みには体調をチェックしてもらうことになっている。
彼女もなんだかんだ、アディを弟分として可愛がってくれていた。
アディはもう躊躇うことなく、その剣を手に取った。
本来、これを持つ設定などアディウートル・クストスにはなかった。
ゲームはまだ始まっていない。これから先も、どうなるか全く分からない。
なぜなら、アディはほとんどゲームを覚えていないのだから。
――ヒロインが来たら、正直怖い。
けど、今はまだここでいいと、思うことにした。その時になったら考えようと。
チュートリアルとか、消費キャラとかそんなのは置いといて。
――だって生きてくしか、ないし。
クストス家の三男、アディウートル・クストスとして、ここにいる。
平和にのんびり、ゆるく学生生活を謳歌するのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
部屋から出ればすぐそこに、最上階専用のラウンジがある。
事前に学園に通うと伝えていたせいか、今日は全員集まっていた。その光景に、アディはちょっと苦笑する。
――どうせ皆、教室で会えるのに。
侯爵家の身分でこの階を使うのは、とアディは一度怪我が治った時点で、辞退しようとした。
部屋の改修が終わったら、元の部屋へ戻ろうとしたのだ。
『アディ、戻るの!? ヤダ。もう一度部屋、壊してきていい?』
『せっかく友達になったじゃんか! 仲直りしたじゃんかー。アディー、一緒に居ようぜー?』
けれど、ルナに泣かれ、フィデスに抱きつかれ、気づけばなし崩しになっていた。
ちなみにカリスには、帯剣していれば家格など問題ないとそつなく返された。
ペア決めの時のように、アディの外堀が埋められているような気がした。
「あ、おはよう! アディ」
「皆様、おはようございます。今日からまた、よろしくお願いします」
「堅苦しいぞ。アディは、やっぱり真面目だなぁ!」
ルナがアディに手を振って、アディは腰を折って挨拶をした。
フィデスがそれに眉を下げて笑い、苦言を呈した。
ウェルムとカリスが、それを満足げに微笑んで見ている。
ここ数日で、アディが見慣れつつある攻略対象キャラたちとの光景だった。
「ふふ、ではさっそく。アディ君には考査の筆記試験のやり直しから、受けてもらいましょう。ああ、筆記内容は特別製ですよ。
教師と私で見守らせていただきますので、ご安心くださいね」
ウェルムがとても活き活きと、黒い顔で笑っている。
声も何だが弾んでいて、嬉しそうに感じるのはなぜだろう。
――それのどこに、安心要素があるんだよ。
アディはちょっと顔をひきつらせながら、やんわりと拒否を示す。
「規則的に点数が悪くとも、何も問題は無かったかと思います。
ウェル様と先生のお手を煩わせるのは、大変、心苦しいのですが……」
点数が悪いどころか、全教科白紙で出した。前世なら確かに、赤点留年リーチでもおかしくはない。
でも今世にそんなシステムはなかったと、アディは主張する。
「大丈夫ですよ。二度と白紙で出す気にならないように、お互いのための、ですので」
――それ全然、大丈夫じゃねぇやつ。
本格的にうすら寒いものを感じ後ずさりながら、アディは笑った。もう笑うしかない。
攻略対象キャラでもある彼ら四人と、アディは肩を並べて談笑していた。
乙女ゲームのチュートリアルの消化キャラで男のアディウートル・クストス。
入学式のあの時、ネットで流行った転生ものあるあるの悲運とは無関係で、人生を嘆く必要が全くないと高を括っていた。
それがまさか一学期も終えていない今、アディが攻略キャラたちに囲まれるとは、全く予想していなかった。
そのアディの腰に、カリスから下賜された剣が揺れていた。
「それが答えかい?」
ソファに座るカリスが、静かに上目遣いで聞いてきた。
「はい、今しばらくは。これからお世話になります。カリス様」
アディはそれに、しっかりと目を見て返した。
「今しばらく……か。私は、手放すつもりはないのだけどね?」
アディを見透かすように見つめ、カリスが呟いた。
アディはそれに、微笑をして答えなかった。
けれどカリスも、それ以上言わなかった。ただ満足そうに目を細めて、アディを見ていた。
――中途半端な気持ちでも、見逃してくれるらしい。
その剣はアディの動作に合わせて揺れていて、ちょっと慣れない。
でも彼らの想いが重みとなって、そこにあるのは悪くないと思っている。
ヒロインが来るまでの、仮の関係でも良い。
そうアディが思えるくらいには、この場所を、彼らとの関係を居心地よく感じるようになっていた。
――そう。確かに俺は、ここにいることを選んだんだ。
泣いて笑って、ただの少年のように過ごせるその場所を。
この後、SSを更新後、3月から二章開始となります。
SSは28日7時と20時で予定しています。
作品執筆にあたり、十四歳をBLガッツリはちょっとと思いとどまりました。
距離感の近い友情路線、学園ファンタジーへとシフトチェンジです(笑)
二章も学園ファンタジー路線で行きます
予定では53話くらいです(*´ー`*)




