第42話 久しぶりの人目のある食事、それでもちゃんと味がした
きりよく二章を3月スタートしようと思うので、今日、明日と続けて二回の変則更新します
トン、トン、トン。
食堂へと向かって降りる階段、アディはちょっとだけ気恥ずかしい。
たった数日のことだったけど、自分で階段を降りるのが久しぶりに感じたせいもある。
――どんな顔すれば良いのかな。
これからの予定を思うと、アディはどうしても顔が緩んでしまっていた。
「アディ、なんだか良い顔になったね」
「へへ、そうかな? セレ兄さん」
アディか最上階から階を降りると、セレーヌスが待っていた。
手を差し出してくれたので、アディは甘えてセレーヌスの手を取った。
――俺の兄さん、かっこよすぎか!
昔はよく、手を繋いで領地で遊んでいた。
今はなんだか、エスコートされるお嬢様気分だ。
「寮の食堂で食べるの、久しぶりだな」
「私も、アディと食べるのを楽しみにしていたよ」
カリスたちに部屋を壊され最上階へと居を移し、アディは療養していた。やっと一人で普通に歩けるようになったのが、昨日。
そして、見舞いに来てくれていたセレーヌスをアディから訪ねるのはこれが初めてだ。
さらに夕食を一緒に取るのは、怪我をする前が最後で久しぶりだった。
食堂に向かう道すがら、手を繋いで歩くアディたちクストス兄弟を見る視線にさらされた。
セレーヌスには印象よく、アディには多様な視線が向けられた。
部屋に籠って、アディが逃げていた視線だ。
――器用なもんだよ、全く。
たくさん泣いて、たくさん言葉にしたからだろうか、以前よりも怖くないとアディは思う。
俯くほどではないけれど、それでもアディの視線はまだ、伏せがちになってしまう。
「アディ、鳥のさえずりは好きに鳴かせておけばいいよ。恥じることも逃げることもない。
住み分けが出来ない害鳥は、私と殿下に任せなさい」
「害鳥って……大袈裟だよ。害もないのに」
そういえば、セレーヌスはいつだって、アディに優しく甘いのだと、今更ながらに気づいた。
「そんなことはないよ。鳥のくちばしは鋭いからね。手酷くやられる前に、気をつけなければいけないから」
前を歩くセレーヌスが振り返って、そう人差し指を口許に当てながら微笑する。
アディもつられて、笑ってしまった。涙が滲むほどに。
「……大丈夫。セレ兄さんと一緒なら平気だから」
――だって、弱い鳥なら人の近くには寄ってこない。
セレーヌスはアディにとって、強くて頼もしい兄なのだ。
「おや、嬉しいことを言ってくれるね」
セレーヌスがアディを見つめてくる深緑の瞳は、とても穏やかな愛おしさが滲んでいる癒しの色だった。
「セレ兄さん、実技考査、たくさん誘ってくださってありがとうございました。
俺、見に行けなかったけど、また誘ってくれますか?」
「まだ一年だろう? これから幾らでも見学する機会はある。当然じゃないか」
アディと手を繋いだ方と逆の手、セレーヌスはその大きくてしっかりとした手のひらで、アディの頭を優しく撫でてくれた。
アディはもう、人の目が気にならなかった。
その後の食堂でも、セレーヌスだけを視界にいれ、美味しい食事に舌鼓を打った。
セレーヌスとは、部屋の階が変わってしまった。
代わりに、なるべくセレーヌスと夕食の時間を共にすることを、アディはこれからの二人の約束にしたのだった。
今日はこの後22時更新です




