最終話 執着じゃなくて、もはや過保護の限界突破
四章の最終話です( *´艸`)
「カリス、見て。もうおちてこない」
「ああ、良かったね」
着替えの終わったクロが機嫌良く、カリスの所へ服を見せに来る。ロブルが持ち込んだ鞄には、着替えが入っていたのだ。
白いシャツに黒のスラックス。まだ少し大きいものの、これでもうクロが服を引きずることはなくなった。
「着替えが必要とは言ってなかったけれど、良く分かったね?」
「……私も街で一度、アディに会ったのですが服が礼服のままだったので……。幼児化は過去にもありましたし、念のためにと小さいサイズも持ってきていて良かったです。本当に」
「助かったよ。無いよりはマシかと店で服を買ったんだが、着てくれなくてね」
「あの服も、王都の家にあった兄上の昔の服ですが? アディは元々、何事も好き嫌いはありませんよ? 変ですね?」
クロの脱いだ礼服を、丁寧に畳みながらセレーヌスは答えた。目元が赤くなっているが、スッキリした顔をしている。
「いえ、あれは……。泣く、暴れると大変でしたよ。生徒会長」
「そうだね。好き嫌いがハッキリしている。元々……本来は、こうだったのかも知れないね?」
「……昔から多くのものを見聞きして、幼いながらに我慢をしていたのかもしれませんね」
ユニタスはクロの駄々を思い出して、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
寂しげに言うセレーヌスは、再会時に取り乱しはあったものの、着替えのサイズを揃えるなど冷静さはあったらしい。
幼児化に一番戸惑っているのは、この中ではユニタスかもしれない。
「聞く限りでの話になるが、以前の逆行とも別で、今も単純な記憶喪失と言うわけでもないんだろう?
アディの中にも、何か心に残ってるものがあるということだ。それで良いじゃないか」
すっかり本調子に戻り、着替えを手伝っていたロブルが、クロに向かって両手を広げる。
それに気づいたクロは、カリスの元を離れ、ロブルに抱きついた。
「兄上は、おおざっぱ過ぎです」
「本質を間違えなければいい。アディは小さくなったとしても、黒髪に変わろうとも、記憶が失くなろうとも、俺たちの弟だ」
「ああ、アディはアディだ。それは間違いない」
カリスが視線を追いかけた先、ロブルに肩車されたクロが、ロブルの髪を不思議そうに見ている。
「私やセレスといった単語は覚えてたのだから、いっそ領地へ帰るか? 小さくとも元気な姿を見せれば、父上と母上も喜ぶだろう。夏休みを帰っていないから、心配しているしな」
「カリスもいっしょ?」
「領地は学園から遠いからなぁ、少し離れ――」
「ヤダ!」
「――っ。アディ? 殿下が良いのか?」
ロブルの髪をこれでもかと引っ張り、クロは抗議するとひらりと飛び降りた。一直線にカリスの元へ向かって、勢いよく抱きつく。
あからさまに傷ついた顔をしてショックを受けたロブルに、セレーヌスもクロの様子に驚いて呆気にとられている。
「夜は、カリスとねるの」
「兄上でも、良いんじゃないか?」
「ヤダ!」
クロのキンキンとした大きな声に、ユニタスが気まずそうに片手で顔を押さえる。テーブルに向き直ると、カリスが用意していた紅茶にミルクを手早く混ぜ始めた。
「ヤダ! 夜はカリスとしかねないの!!」
「クロ。ミルクティー淹れたから、ちょっと落ち着け、な?」
「……甘くない?」
「甘くない、甘くない。俺、ミルク混ぜただけ」
ユニタスがクロの横に屈んで、カップを渡すとそれを口にしたクロは静かになる。
ユニタスがカリスへ目配せをし、カリスも嘆息してロブルたちへ説明をした。
「なぜか私としか寝ない。一度、ユニタスと組ませようとしたら、先ほどよりもひどく癇癪を起こしてね。おそらく失踪中も、一人では寝ていなかったんだろう」
実技考査の後、無理矢理寝かしつけていたのがカリスだ。その後、神童がアディの振りをして数日暮らし、お茶会の日に失踪。
街での襲撃後から、あのモンスターがアディの傍にずっといたのならと、カリスは理由について考えていた。
『一人は寂しいって、願ったからずっと傍にいるよ。眠るのが怖いって、願ったから、ぎゅっと抱きついてあげるの』
どこまでが真実か分からないが、モンスターの口にした言葉を、カリスは反芻する。
ここ数日のクロは警戒心が強いのに、一人には決してならないように過ごしていた。部屋で留守番を嫌がるのだ。
「……例の子ども、ですか?」
セレーヌスが、言葉を選びながら発言する。別の街で会ったと言ったのだから、姿も見ていても不思議じゃなかった。
「正確には幼体の竜らしい。あの山頂に現れた奴だ。人化出来るモンスターなど、私の記憶にもないけど……。この国にはそもそも竜はいないしね。が、私は目にしたから実在するという前提で話をさせてもらうよ」
「厄介な……。モンスターなら、アディとテイム関係にあるのか?」
ロブルは山頂を思い出すように、忌々しげに吐き捨てる。カリスも激しく同意するが、現状はもっとややこしいと言えるだろう。
「いや、共依存でかなり質が悪い。私が見つけた時は、無抵抗に喰われかけていてね。肝が冷えた。いくら主人に従順と言っても、普通のテイムでそれは有り得ないことだろう」
「……殿下。ソレ、近くに居ます? 狩れるかちょっと試してきても?」
「見ての通り、今は傍にいない。それに、アディが何かを察すれば最悪、逆効果になるかもしれない。刺激しない方がお互いのためだろう。恐らくは、次に会う時は喰おうなどとしないはず――させないがね」
剣に手を伸ばしたロブルが、軽く散歩に行くかのように進言してくる。それにカリスは首を横に振って否定した。
――調教すると言っていた彼女の言葉を信じるなら、だが。
どちらにしても、今はクロに会わせず、また思い出させないようにした方が良いのは明白だろう。
小さくなったクロが目覚めてからは、あの竜についての言及がないのだ。
「ここは王道ながらも、安心できる環境を整えることが最優先だろう。今は、やや幼いようだからね」
カリスがチラリと見た隣では、クロがミルクティーを両手に持ち、ふうふうと息を吹きかけ一生懸命に飲んでいた。
「なるほど、殿下から添い寝の権利を奪えるほど、兄としての地位を築けば良いわけですね」
「兄上、それは何か違う気もしますが……」
至極当然のように言いきったロブルへ、セレーヌスが遠慮がちに突っ込む。
「クロ。お前の上の兄上、生徒会長よりヤベェな。……いや、この兄にして弟ありなのか?」
「なぁに、ユニタス?」
「愛されてるぞ、良かったなぁってこと。これ以上重くなり過ぎる前に――さ、クロ。早く大きくなれよ?」
「うん。大きくなりたい」
キョトンと不思議そうに見つめてきたクロの頭を、隣のユニタスは雑に撫で回した。
クロはそれにくすぐったそうに頭に手をやり、屈託なく笑った。
「……でも、みんながわらってて、いいねぇ」
部屋を見渡し、ミルクティーを飲みながらクロは目を細めていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
四章最終話です。 最後まで見届けていただけたこと、心より感謝いたします(*^^*)
五章の連載開始は、来週を予定しています。
もし、この作品を少しでも楽しんでいただけたなら、 ぽちっとがまだの方、応援していただけると今後の活力になります!
ありがとうございました!(*^^*)




