第20話 休み明けって幾つになっても行きづらい。
「右肘の骨折は重症ですね。よくショック症状を起こさなかったなと思います。
本人の忍耐力と、セレーヌス様の処置のお陰でしょう。
まぁ、その忍耐力のせいで無茶したんでしょうけどね」
問われたマーレは、自らの所見を交え経過報告をした。
セレーヌスから聞いた話では、アディは派手に転けたらしい。
けれどアディは身体強化が上手いから、骨折以外の負傷は擦り傷一つなかった。
ただ上手すぎるゆえに、無駄を省いて局所的な魔法の使い方をすることがアディにはある。
今回の骨折も、アディ本人には予想外だったに違いない。
「砕けた骨片はある程度集めて治癒させたのと、出血も止めました。
一度に治癒魔法でくっつけるのは危険なので、様子を見ながら段階的に治療をしていくことになると思います」
先ほど骨折の原理を説明したから、もう同じようになることはないだろうとマーレは考えていた。
「あとは目ですが、酷使によって切れた血管、損傷した眼球は治療済みなので、後遺症は残らないと思います」
「それは良かった。
久しぶりに目を酷使したからだろうけど、意識がない中、血の涙を流した時は、さすがに私も肝が冷えたよ。
アディも大きくなったし、もう周りにも隠せないだろう。少しずつ慣らさせるべきかな」
模擬戦の翌日の朝一番に、セレーヌスがクストス侯爵邸にアディを連れ帰った。
アディはその間、熱を出して寝込んでいた。
マーレはまず発熱の原因を探りつつ、骨折の本格的な治療を後回しに、目を先に治療することにしたのだ。
そうしてアディの意識が完全に覚醒したのは、模擬戦から五日経った今朝だった。
ちょうど腕の腫れも一段落してきたので、人手を借りて固定をしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇
「あー、やらかした」
やっと一人になった部屋で、ベッドに大の字になりアディは愚痴る。
模擬戦をやりきり、ホームルームを終え、寮まで帰った。ここまでは良かった。
気が抜けたからか、腕の痛みが強くなった。だと言うのに、とてつもない睡魔にも襲われた。
せめて寝る前に、ネクタイで患部を固定し着替えがてら、怪我の具合も把握しようと思ったのだ。
――そこから先が、まったく覚えてない。
ちなみにセレーヌスにもマーレにも聞かれなかったので、アディは何も申し開きをしていない。
正直に言ったら、とても怒られそうだ。
――それは睡魔じゃなくて気絶っていうんです!とかマーレが言いそう。
でも、寝てなかったのだから睡魔でも良いだろうと、アディは思う。
「学園、どうしよう」
五日経ったと教えられた。ぐっすり寝たからとても頭はスッキリしている。だからそれは良い。
問題は、学園を五日休んでいることだ。
それはすなわち、アディの失態がバレてることを指しているのではないか。
「俺の奮闘、無意味だったんじゃねぇ?」
何て格好のつかない結末だ。穴があったら入りたい。
――いや、自室に一人籠ってるから同じか。
右手を見れば、手のひらから先は、二の腕までぐるぐるに固定されている。
「目立つよなぁ」
折れたのが肘だけなら、もう少しコンパクトにならないのか、そうマーレに言ったらまた怒られた。
『肘だけじゃなくて繋がってるんですよ。手首も動かしたらダメなんです!』
あんまり言うと、完治まで邸での軟禁が目に見えてるのでアディは諦めた。
――行きたくないのと行けないのは、ニュアンスが違うし。
「けどなぁ。学園なぁ……」
――行きたいような、行きたくないような。
自己管理と自己責任が主体の実技ルールだった。
だからせめて、アディだけのペナルティにして欲しい。
「ああ、うん。ちゃんと行こう」
長期で休んだら、それこそ責任の話に発展しそうだ。アディが違うとまた主張してみせればいい。
――だって、マーレが言ったんだ。
「受け身の身体強化は全身」
アディは声に出して、再確認する。
普通、受け身を取る時は全身の身体強化しか出来ない。
身体強化の部位を、戦闘中に適時選択するのは世間一般的な枠組みからは外れ、かなり高度な技術に分類される。
けれど、部屋に一人きりのアディがそれに気づくことはなかった。




