第16話 二人目の友達、実は平民出身だそう。え、普通にすごくね?
今作のエピソードタイトルは全て、実はアディ目線で遊んでいます。
「やっぱ、あった。眼鏡」
教室に戻ったアディは、自席の置きっぱなしだった眼鏡を左手に取った。
眼鏡を掛ければ、見えすぎていた視界が落ち着いて、ほっとアディは嘆息する。力んでいた首筋から肩が、緩むのを感じた。
同じく枕にしていて出しっぱなしのタオルを手に取ると、頭からかぶって、流れる汗を拭き取った。
「いやいやアディ、それ思いっきり机の上じゃん」
「ええ? アディ。そこにそれ置いて、気付かないのかよ」
「うるせー。ケレル、ユニタス。お前らも予鈴まで寝てみろ、気持ちが分かるぞ」
二人して笑ってきたため、アディは悪態をついた。
「誰も、そんなに爆睡しねぇよ」
「あー、俺も寝ないかも。というかアディ、本当に今日寝てないの? さっきより顔色悪くない?」
「……帰ったら寝る。俺、今日から寮だから」
分が悪い、話題を変えようと、アディは半目になって椅子に座った。
「えー。寮いいなぁ! 邸からだと、どうしても通学時間がかかるし」
「ケレルも寮に住めば?」
「うーん。許可下りるかなぁ」
ケレルは悩ましそうにしながら、体操着をガバリと脱いだ。
――ちっ、いい身体してる。
背格好はアディと似てるのに、領地で日頃からモンスター狩りをしていたからだろう、引き締まった身体をしていた。
――正直に言おう、その割れた腹筋羨ましい。
「負けた」
「いや、アディ勝っただろ。嫌味かよ」
「俺の腹に腹筋はねぇよ!くそ!」
アディは机に突っ伏して、左手で軽く叩いた。鍛えても鍛えても手に入らなかっただけに、純粋に悔しい。
「え。お前あれだけ強いのに? 嘘つけ!」
「俺は身体強化ありきだよ! 悪いか!」
「あー。見た目詐偽だ。眼鏡ないとお前、どこぞのイケメンって思ったけどさ。普段の外見だけだったら陰険、インテリ、根暗だもんな、近寄りがたいやつ!」
「よし、ユニタス。第二回戦をしようか」
アディに対し言いたい放題のユニタス。よく見れば、彼もケレルほどではないが、その身体は引き締まっていた。どいつもこいつも、アディに見せつけてくれる。
――怪我がなければ、思いっきりお約束のこちょこちょするのになぁ。
「やだよ。次やったらケレルみたいにボコられるんだろ」
「ユニタス。それは聞き捨てならないな?」
「やべ、そろそろ先生が来るわ。俺も着替えてこよ!」
ケレルがネクタイを絞めながら、笑顔でユニタスに迫った。
ユニタスは逃げるように、自席へと帰っていく。彼の席は後ろだからだ。
「あれ、アディ。着替えないの?」
ふわっと上着を羽織り、ケレルはアディが着替えないことに気づいて声をかけた。
アディは机に頭と右腕を乗せて、だらしなく座ったままだ。
「帰るだけだから……いい。別に着替えろって、決まってはないだろ?」
「まぁ、もう座学は無いしね。あ、じゃあまたね」
かぶったタオルから上目遣いにケレルを見上げて、アディが真顔でいう。これ以上、その話題に触れてほしくないと意思表示した。
ケレルも深く突っ込むほどではなかったから、他の生徒に呼ばれたのを機に、アディに声をかけてその場を離れていった。
――汗、止まらねぇ。
「……」
ちらりと視線を感じてアディが見れば、前方の席着替え終わったフィデスが、こちらを見ていた。
アディは気づかない振りをして、そっと視線を外す。
――こういう時、色ガラスで助かるよな。
アディの眼鏡は、カラーレンズになっていて、その色はブラウンだった。
ダークルビーはブラウンと混ざれば黒さが増す。タオルで影を作り、オリーブカラーの前髪で隠せば、アディの視線を読むことは困難だろう。
――フィデスは正統派キャラ。確信が得られない限り、おそらく大事にはしない。関係性がない今、話しかけにも来れないはず。
アディはフィデスのその設定を逆さに取って、右腕の怪我を隠し通すつもりでいた。
着替え終わった女子生徒が戻ってきて、教師が加わり、終礼が始まる。
その間、アディは身体強化の応用で、負傷による不調の乱れを全て、制御下に置いていた。
――身体強化の使いすぎで、筋肉がつかないのもあるだろうなぁ。
教師の話を右から左に、アディはそんな埒もないことを考えていた。
寮への帰路、事前に説明などは受けていたため、そそくさとアディは自室に向かう。
終礼が終わったと同時に、誰かに捕まる前にアディは逃げてきたのだ。ここまで来て、へまをするわけにはいかなかった。
――実際、終礼で何度かフィデスとウェルム、ルナはこっちを見てたしな。
「……はぁ……っ」
部屋にある三階に辿り着き、人のいない廊下を歩きながら、鞄からネクタイを取り出した。
一方の端を口で噛み、くるくると右腕に巻きつけた。気休めにはなるだろう。
アディは扉を乱暴に開け、背で閉めた。
――だーっ。いってぇ!
ずるずると、座りこみそうになるのをぐっと堪えた。代わりに心の中で叫んで渇をいれる。
「先ずは、上着を脱いで、確認……しないと」
意識して声を抑えた。じゃないと、気を抜いてしまう。
椅子に鞄を置いて、テーブルに左手をついた。バタバタと大量の汗が滴り落ちた。
「……っ!」
部屋には一人、誰もいない。もう隠さなくていい。その事がひどく、アディに安心を与えてしまう。
一度緩んでしまった気持ちが、身体強化に綻びを生む。
抑えていた痛みが、動悸が、アディを苛んだ。
「手当て、しないと――っ」
目の前が暗転し、アディはバランスを崩した。支えにしていたテーブルごと倒れ、その衝撃が右腕にも伝わる。
アディは悲鳴を上そうになりぐっと口を引き結んだ。
けれどその耐え難い痛みに、アディはそのまま意識を失った。
小学生の頃、骨折してるのに床の雑巾がけをして骨がずれたことがあります。
成人後に骨折をしたまま、倒れた自転車を起こし、そのまま乗って運転したりもしてました。
どちらも、病院の待ち時間が一番しんどかったですw




