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乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
三章 学園混沌編 ヒロイン登場ってマジなの!?

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第16話 周りが色々物騒だったって話

「――うわ、マジで寝やがったぞ」


 それから他愛の無い会話が続き途中で、ケレルがぎょっとして声を上げた。

 かくんとケレルの肩に持たれて、アディが寝息を立てている。


「あ、眼鏡が危ない」


 ルナがすかさず、アディから眼鏡を回収する。さらりと流れた髪の隙間から、キラリと何かが光る。


「あれ? アディ、ピアスなんて着けてたっけ?」


 ルナがまじまじとアディの右耳を見る。碧の石がはめ込まれた、金の台座のピアスが一つ。金のリングピアスが一つ着いていた。


「ああ、カリスとルナの父親がなんかやってたやつだ」


「なんで、フィデスがそれ知ってるんだよ」


 ベンチの後ろに立つフィデスが、思い出したように言った。

 それに目くじらを立てたのは、アディの右隣に座るルナだ。


「え、居合わせたからに決まってるじゃん。カリスについてたから」


「それって、ヴェネラティオ公爵が学園に来てた、あの時か」


 アディの左、肩を貸したままのケレルがそれに同意する。


「なんで、僕だけ知らないの。父上ってことは、これ絶対にヤバい魔道具じゃないか!」


「いやほら、昼食後の休憩時間。カリスがルナに、レース嬢の面倒を任せたことがあったじゃん。俺、ヴェネラティオ公爵とすれ違ったんだよな」


 むくれるルナに、ケレルがややたじろぎながら教えた。フィデスを見もしない辺り、望む答えが得られないと期待していないようだ。


「魔法基礎の復習の時? えー。珍しいと思ったら、僕もそっちが良かったぁ」


 アディの髪を弄りながら、ルナは不満を口にする。


「別に見てても面白くないだろ、術式込めるだけだからさ」


「それ、フィデスがバカだからだろ。どれだけ貴重か全然分かってない。

 父上とカリスが込める術式なんて、見る機会そうそうないのに。脳筋め」


「あ、確かに魔法師団長と王子の付与魔法か。そう考えたら、ヤバそうだな」


 フィデスの言い草に、ルナとケレルの二人が貴重さを説いた。

 それに対してフィデスは気にした風もなく、興味無さそうに返す。


「難しいのはわかんねぇ。俺には向いてないからなー」


「え、フィデスの魔道具なんて、考えただけで使いたくないよ。一生作らないで」


「あれ? フィデスの剣って魔道具じゃないのか、ほら前にダンジョンに持ってきてた紅いやつ」


 ルナは不満を隠さずに、フィデスを見た。

 ケレルは、付与魔法に無関心のフィデスへ疑問を投げた。普段持ち歩く剣とは別という装備のこだわりに対して、全く興味がないのかと思ったからだ。


「ん? あれはアルドールの家にあった剣だな。一般人には使うなってことで、父上も普段家に置いてる。

 ダンジョンに少数で行くから許可もらって持って行ったんだよ。火が出るし、切れ味良いんだぜ、あれ」


「……雑、アルドールの古い家宝でしょ。ダンジョン産の剣だろうって言われてる魔剣。付与魔法で模倣不可だし、絶対魔道具じゃないね」


「わぁ、それ俺が聞いて良かったのかなぁ。とりあえずアディが起きそうにないし、風邪引かせるわけにもだから、部屋にでも運んどこうぜ」


「あ、僕。部屋知ってるよ」


 ケレルが遠い目をしてそう提案し、眼鏡を抱えたルナが先導する。フィデスがアディを軽々と背負って、その後ろを追いかけた。




 ◇◆◇◆◇◆◇




 演習場が見える窓、そこからユーストゥスがアディたち学生を眺めている。


「三歳に暗示を施して、七歳で眼鏡だっけ。十四歳で入学をして、初夏と夏に自制が飛んで……。あー、若いなぁ。

 暗示はもう出来ないし、刺激が無いことを祈るばかりだよ。ねえ、賭けでもしちゃう?」


「弟で遊ばないで下さい。師団長のご趣味には、お付き合い出来ないですね」


 机に向かって書き物をしながら、ロブルが手短に答えた。


「だって、なんかこう、気を紛らわせたくならない?」


「それは師団長が、末弟の腑分けの機会を失くしたからですか?」


 ヒュッと部屋の温度が下がる。ペンを走らせていた手を止め、ロブルは鋭い目つきでユーストゥスを見た。


「怒んないでよ、ロブル君。語弊を生むような言い方も良くないよぉ。魔眼の探究からくる興味であって、実際は一度もしてないでしょー?」


 アディに暗示を賭けて以降、直接会うことで刺激しないように、これまでユーストゥスは裏方に徹していた。


「未遂ですよね? 実技考査の時、セレーヌスから聞いてますよ。治療にかこつけて狙ってたと」


 ユーストゥスが嬉々とした顔で観戦していたのも、医務室に覗きに行っていたのも、ロブルはセレーヌスから聞いていた。

 本人の意識がない状態なら、と機会を探っていてもおかしくはない。

 師団長を務めるだけあって、この男は魔法への熱意が強いのだ。


「疑り深すぎる、偏見だ! アレはちょうどいい機会だったから可愛い教え子、マーレの技術確認のためだもん!」


 ユーストゥスは口を尖らせて言い訳を並べ、そっぽを向いている。これではまるで拗ねた子どもだった。


「……はぁ、過去はもう良いです。眼球を取り出して、治癒魔法で問題なく再生させる――なんて。

 アディが他者の魔力を弾く現状で、さすがにそれを、今は、やらないでしょう?」


 今は、と強調し凄みを込めた。ロブルはユーストゥスをよく知っていたからこそ、肩をすくめた彼を見て、釘をさせたならとそこで話を止める。


「やらないよぉ。ブラックボックス過ぎて、扱いに困っちゃうからさ。というかね、誰にも開けないで欲しいって思ってるくらいなのに。

 ああいうのは、下手に刺激しないで、使えるところを上手く利用するのがいいんだよ」


「はぁ……子どもたち同士、ですからね。さすがに今のアディも成長したと思いたいですけど。あと、使うとか利用って言わないでもらえます? せめて社会貢献と言って下さい」


 実技考査では、セレーヌスが止めに入ることが出来たようだ。ダンジョンボスでは、ロブルでも止めることが出来なかった。

 その差はアディが誰に向けた攻撃で、誰の為に戦ったのか、そう踏みとどまるべき最後の理性だったと、窓の外を眺めがらロブルは信じたいところだった。

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