第9話 踏み潰したことあるの、この人は知ってるのかな?
「使い方さえ間違えなければ、君の力は魅力的だ。全てはそう、見方の問題。兵器と捉えるか、守る力と捉えるか。
例えば固有魔法の一つ、未来視。先読みなのか、死に戻ったのかでも意見が分かれる。実に興味深いだろう?」
例えに出された未来視は、アディには無いもの。先を知るのはここがただプレイしたゲームの世界だからだ。
子どものように笑って、ユーストゥスは魔法について語る。
「まあ、魔法講義はこれからいつでも出来るとして。君の特異性を僕の前で隠す必要は、一つもないということを開示したかったわけだけど」
ユーストゥスは頭を撫でていた手を止め、アディの目元に触れた。そして、じっとその瞳を覗き込む。その気まずさから、アディは思わず目が泳いでしまった。
彼はアディの頬を両手で包むと、ぎゅうっと挟んで真正面に見つめ合った。
「――っ」
「昔は、臆せずまっすぐに見ていた君。ここに来てから、ずっと目を反らしてるわけだけど。いったい今、何が見えてるのかなぁ?」
アディは驚いて言葉を発することが出来なかった。なぜ、そんな的確に言い当てるのか。
「……ああ、自分の目だから見えてないよね?
君、目の色が変わってるから気づく人は気づくよ。クストス家は皆、緑系統でしょ。君のその色は、もともと魔眼のせいだからさ。
似てると言えば、アルドール公爵家が赤系統だけど。前のも、この色も、まずあの家には存在し無いからねぇ」
ユーストゥスは魔法で鏡のようなものを出すと、アディに手渡した。恐る恐るアディはそれを覗き込む。
――ずっと家族と違うとは思っていた。でも、誰も何も言わなかったから。
ずっと髪と眼鏡で隠して、目の色は極力考えないようにしてた。ゲームのキャラクターデザインではアディは眼鏡で、瞳の描写が無かったからなおさらだ。
――暗がりで見ればダークルビーぽいけど、多光彩で光ってる?
改めて見たアディの瞳は確かに、前のダークルビーから何かが変わっている。
パッと見は、ルビーのように明るい色。けれどじっと見れば、ラメが散らばったようにキラキラと光っているから赤なのだと分かる。
「……魔眼?」
鑑定で見たアディの情報にも、そう書いていた。内面だけでなく外見までどんどん人から離れて、おかしくなっていくのかと自嘲気味に笑みが溢れる。
「そうそう、魔眼持ちは過去にも存在する。君だけが異質なわけじゃないよ。
だから君が負担に感じてるなら、それを取り除く手助けを僕は出来る」
サイドテーブルに置いてあった、ウェリントンのフレーム眼鏡。ユーストゥスはそれを手に取ると、アディに掛ける。
反射的に身を竦ませ目を閉じたアディは、そっと覗くように瞼を開けた。
「あ……」
ずっと見えていた文字が、綺麗に視界から消える。
アディは思わず、キョロキョロと辺りを見渡した。うるさかった視界が、とても静かになっている。
正確には視界に文字はあるのだが、字の色が半透明になって景色と同化していた。
「見え、ない……?」
ただそれだけなのに、なぜか鼻の奥がつんとした。じわりと胸が熱くなり、息が詰まった。
「この眼鏡はね、過去の魔眼の文献とクストス家の意見を取り入れて作ったもの。
でも、君がどう見えてるか言ってくれれば改良が出来て、これは君専用になるわけだ」
誇らしげに説明するユーストゥス。その紫の瞳が優しく細められたのを、アディは確かに見た。
――こんな人だったっけ?
ユーストゥスが老けたと感じるのは、三歳の記憶のせいか。それともゲーム終盤の成長したルナの面影を、重ねてるからだろうか。
それに魔眼も、魔眼に種類があるような口ぶりも、アディは自分のことでも、ゲームには無いことだから知らなかった。
――この世界には、俺の知らないことがまだある?
兄たちから贈られる魔道具の眼鏡。いつも気休めだと気にしていなかったその眼鏡が、まさか師団長の特注だとは思っても見なかった。
「安易に封じたり、服従させたりは万が一、外れた時の暴走リスクが高いんだよねぇ。固有魔法は、ただでさえ癖が強いからさぁ。
だから、強者はまず心身を鍛えるべきだと僕は思う。活用しないなんて、もったいないしねぇ」
暴走、と言われてアディは後ろめたさを感じる。
前世があるといっても、精神年齢に引きずられてるのか。今のアディ自身、子どもっぽい自覚が多々あった。
「でもまぁ、一番の理由は、僕は君の敵になりたくないってことかな。
それとアディウートル・クストス君。今の君、瞳以外の変化で他者の魔力を受け入れなくなってるけど、それは気づいてる?」
「……魔、力?」
アディはダンジョン含め、自分自身に耐性系統の魔法などこれまで掛けていなかった。
使用できる魔力量が少ないのが一番の理由で、その次に前世チートでその場の対処が可能だからだ。
だからこそ言われている意味が分からず、キョトンとアディは首を傾げた。
「そ。状態確認のスキャンも、治癒や回復、支援と言った害の無い魔法を始め、内部に魔力自体を全く受け付けない。
僕の見立てでは、耐性云々の次元じゃないんだよね、これ。
あ、攻撃魔法はたぶん、物によって効くと思うけど、まだ試してないよ。
だから、君の今の状態は話してくれないと、僕でも分からないんだぁ」
――まだ試してないって、なに。
ユースティスの性格なのだろうが、ちょっと不穏な一語を混ぜながら、会話するのを止めてほしい。
「俺にも……分かり、ません」
魔法が効かないというのは、心当たりがあるとすればダンジョンコアのせいだろう。
鑑定結果からも見ても、何らかの影響を及ぼしているはずだ。でも、それを口に出すのは憚られた。
――だって、言えないだろ。
ユーストゥスはアディの事実だけを受け止めて、話をしてくれている。知ってなお側に居てくれる人が、目の前に都合良く現れた。
これ以上そこに、ダンジョンコアなんて不穏な要素を増やしたくない。
魔法の造形が深い彼から、アディが危険視されたら、どうしたら良いのだろうか。
――化け物だと討伐対象にされたら……?




