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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
48/99

48 華咲き1

風が強いな、とぼんやり思う。

そろそろ夏がくる。

先触れのような大風は、この時期の風物詩だった。


スウガはカサネと連れ立って、王都の図書館に来ていた。



王城の書庫が開放され、喜び勇んで数日通ったが、王が話していた以上の資料は見つからなかった。

というより、その資料すら満足に読み解けなかったのだ。


カサネもオウタ同様、文字が読めることには気づいていたが、街でみかけるごく簡単なものしか読んだことがなかった。

だが、書庫にあった資料は、個人の日記など貴重かつ古いものが多く、意味をとろうとすると、何故か文語調で脳裏をよぎり、古文の読解のような感覚に陥る。

結局、書庫の役人に、件の箇所を示してもらい、そこだけ目を通したものの、大した情報は得られなかった。


もっとも近い稀人の記録は、およそ100年前。

これでは王も半信半疑というのは納得だ。


時代をさかのぼるほど、古文書のような資料をもてあまし、この世界について勉強しようと、他の書物も手にとってみたものの、どれも難解で、一冊に目を通すのにも時間がかかった。


そんな折、護衛にカサネについていたスウガが言った。


「街の図書館ならもっと簡単な書物があるんじゃないか」 


カサネとしては脱力する思いだった。

識字率が低いというから、書物は限られた知識層のものと思い込んでいた。

図書館があるならもっと早くそう言ってくれればいいのに、と恨みごとを言うのももっともで、最初に王城にあがった日から、すでに二十日が過ぎていた。


「悪いな。俺もしばらく行ってないからすっかり存在を忘れていた」


肩をすくめ、そう言われてしまうと、それ以上何か言う気にもなれず、代わりに王都の図書館への案内をお願いした。




「悪いけど今日はそばにいてもらえる?」


カサネの何気ない言葉にスウガの鼓動が一つ大きく跳ねる。

どうにも子供っぽいその反応を、そのまま表に出すのは気恥ずかしくて、平静を装った。


「何か用か?」


「わからないことが出てきたらその都度聞いておきたいから。そんなに時間はとらせないからお願い」


そういうことか、と拍子抜けした。

その気持ちが顔にでていたのだろう。カサネが怪訝な顔をしていたので慌てて頷いた。


「ああ、王城の書庫じゃ歯が立たないが、ここの本ならなんとかなるだろう。

俺は適当に本読んでるからなんかあったら言えよ」


「ありがとう」


と、控えめに微笑んでカサネは早速読書にとりかかった。

ちら、と数冊積み上げられた本の表題をみると、子供向けの歴史物語・神話物語、軽い随筆集、旅行記など実に幅広いものだった。しかしこの世界についてとりあえず知りたいとすればその選択は的確だといえる。さらにその読書のスピードは驚くほど速い。

スウガはあらためて、この少女は顔だけでなく頭も良いのだと感心した。


いくつかの問いに答えて(例えばここに出てくる○○とは誰のことか、だとか、今でもこの地図は正しいか、だとか些細なことだった)、スウガ自身も読書にふけっていた。

しかしさすがに三時間あまりが過ぎると手持ち無沙汰になってしまった。実を言えば、彼は元々読書などあまりしない性質で、集中力はだいぶ前に途切れていた。

カサネの前にある本はあと一冊。大分減ったとはいえまだ時間はかかりそうだ。


そっと席をたって伸びをする。

座りっぱなしの体から、みしっという情けない音がした。

思わずカサネの方を見たが、そうとう集中しているようでこちらの様子には気付かず、姿勢よく座って読書を続けている。


ぼんやりとその後姿をみていると、白いうなじが目についた。

濃い海老茶の衣装と、藍色の紗布の髪飾りに挟まれてその白さは際立ってみえた。スウガは知らないことだったが、男装を始めるまで長い髪に覆われていたそこは、日にあたっておらず、本当に白かった。

一度その白さ、美しさに気付いてしまったら、もう目がそらせなかった。


あまりに注視していては気付かれてしまう。

わずかに上がった体温をもてあまし、スウガは大きく息を吐いた。


(本格的にまずいな…。少年兵時代じゃあるまいし)


ため息を聞きつけたのか、カサネが顔をあげた。


「あ、ごめんね?そろそろ出ようか」


飽きて退屈している、と思われたのだろう。

あながち誤解とも言い切れないし、いい時間になっていたので、そのまま帰宅を促した。

昼過ぎに図書館に入り、そろそろ夕刻だ。

カサネは手早く荷物をまとめ、借りるつもりで分けていた本を持って手続きに向かった。




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