第3話 原チャリ!
自習室から女子寮に帰ると、クラスメイトはそれぞれの部屋に戻りましたが、アメリアは本当に付いてきました。
「コト発明に関することになると、オリビアは全く信用出来ないからね、アリアちゃんシャーロットちゃんおやすみなさい。後は私に任せてね」
「お姉様に任せておけば安心です」
「おやすみなさい、アメリアお姉様」
そう言うと、2人の幼なじみは自分たちの部屋に戻っていきました。
部屋に入ると、早速図面を広げるオリビア
「マダ寝る時間には早いわ、もう少しやらせてもらうわよ」
「ええ、それはかまわないけど・・・あのね、オリビア、実はノアがおかしなこと言ってたでしょ」
それを聞くと、肩をすくめるオリビア
「ああ、兄さんの作った装置が何の役に立つのか分からないぃ~みたいなこと言ってたわよね」
それを聞くと少し困った顔をしてしまうアメリアですが、意を決して聞くことにしました。
「そうなの・・・ノアが、新しい装置の重要性がよく分からないって言ってたじゃない・・・実はね・・・私もよく分からないの。オリビアが言った移動手段に使うって言う意味は分かるのよ、馬車より速くて魔力が無くても扱える移動手段があれば凄く便利だと思うわ。冬に使っていたスノボ?・・・も、リアムがもの凄く便利だって言ってたし。タダ、その回転装置がどうやったら移動手段になるのかよく分からないの、物を動かすなら、トベラの木で作った物に車輪を付けるか、オリビアが考えたサーフボードやスノボに車輪を付ければ良いんじゃない?」
思っていたことを一気に聞きました。
「ヤッパリ姉さんもそう思うわよね」
「ノアと一緒みたいでチョット恥ずかしいんだけど」
そう言うと少し伏せ目がちになるアメリア
「私もあのときはノア兄に食ってかかったけど、そもそも魔法で物が動かせるんだから、態々回転する魔道具を作る必要が無いという考えはもっともだと思うの」
「やっぱりそうよね」
少し安心した表情になるアメリア
「でも、物を動かすって、意外と制約が多いのよね」
「例えば?」
「そうね、トベラの木だと簡単に動かすことが出来るわ、でも魔方陣との相性が悪いのよ」
「でも、速度を上げる魔方陣は設置出来るじゃない」
「ところが、魔力を増幅させることはできても、魔力の無い平民が動かそうとすると。もの凄く効率が悪くなるの」
「じゃあサーフボードやスノボは?」
「アレは魔方陣を設置出来るけど、どうしても平たい形状じゃ無いとほとんど動かないの。他にも水は水のママなら一番動かしやすい物だけど、何かの容器に入れてそれを動かそうとすると、他の物質と大差ないのよね」
そうなのです。
この世界で初めて、魔法という物に触れたオリビア。
魔法は魔素のエネルギー化であり、物理法則は無視出来ない物の
色々なエネルギーに熱効率100%で変換出来るれっきとした技術!
前世の考えでは、まさに夢のエネルギーです。
そしてそのコトが・・・物理法則が分かっているオリビアは、この世界の人間よりも、遥かに効率よく魔法を使うことができます。
それでは魔法は万能か?
最初はそう思ったオリビアですが、熱や光への変換はほとんど制約がありませんが、運動エネルギーへの変換にはかなり制約があることが分かりました。
そして、新たな技術、魔力の無い平民の思念から魔法を発動させたり、魔力を増幅させる手助けをする魔方陣
コレには思ったより多くの制約があるのでした。
「そう言えばそうよね。魔方陣は私もゼンゼン詳しくないけど、ワイアット兄さんから多少は聞いているわ。トベラの木のことは聞いていたけど、あのボードにそう言う性質があるって言うのは知らなかったわ。」
「新素材だから、ほとんど知られていないことなのよ。それで、ボードを使った高速回転する物ができれば、そこからいろんな物が動かせる。まずは車輪を回して馬車よりも速く動く乗り物が作りたいわ」
そう言うと、机の上に広げた図面をトントンと叩きます。
「なるほどねぇ~平民でも扱える馬車よりも速い乗り物か・・・できそうなの」
「考えてはあったんだけど駆動部・・・回転装置がうまく考えられなくて半分投げ出していたんだけど、あの装置があれば完成するわ!」
「そうなの?」
「ええ、駆動部と軸受けの問題を一気に解決したんだもの」
(私は前世の知識でインチキしている感じだけど、兄さんはチートなしで発明しているんだからホントの天才よね、でもレイエス家って不完全とはいえ私の他にもあと二人転生者が居るのよね、何らかの遺伝があっても不思議じゃないかも)
「それでどのくらいの早さを考えているの?」
「飛行具並みって言いたいところだけど、その半分くらい出せれば良いなぁ~って思って居るの」
飛行具のスピードは60~70km程度、ある程度の距離を飛び続ける場合は50kmで巡航します。
ノアが使っているカスタムメイドはその倍くらいのスピードを出すことができます。
人の歩く速さは時速5キロ程度、この世界の馬車も旧世界と同じくらい、人が歩く速さの1.5~2倍程度
馬に直接乗った場合、走り続けられる速度で20km程度
平民の移動手段としてはコレが最速です。
前世の自転車であれば、ママチャリで頑張れば20kmくらい、ロードバイクなら30kmで、ある程度の距離を走り続けることがができます。
オリビアが目指している乗り物は原チャリ並みの性能、
旧世界の法定速度30kmから40km巡航ができる乗り物です。
王都からレイエス家まではおよそ80キス、前世の250km位あります。
普通の飛行具であれば、朝出発すれば夕方になる前に到着しますが、馬車で移動すると大体5日はかかります。
もし原チャリ並みの性能の乗り物があれば、2日・・・日の長い季節ならば、無理をすれば1日で着くことができるようになるかもしれません。
ノアの改造飛行具で飛ばしたとき、80キスを鐘2つで飛んで来ました。
つまり120~30kmの速度で、2時間休み無く飛んで来たことになります。
旧世界のバイクで高速を走ることと比べても、それなりにきつい行程ですね。
「エンジンはどうにかなったし、ハンドルの軸受けは砲金、車輪の軸受けはニードルベアリングでイイとして、サスペンションかぁ~テレスコは絶対に無理だし」
ブツブツ独り言を言いながら、設計図と言うよりも、ポンチ絵に近い物に書き込みを入れていくオリビア
読書をしながら、その様子を見守るアメリアですが
(ああやって夢中になっている様子も、すごくかわいらしいけど、もう13歳なのよねぇ~マダ発明にしか興味が無いのかしら?)
どうしても、そう思ってしまうのでした。
「ナニ、姉さん」
視線を感じてアメリアに声をかけるオリビア
そのときちょうど就寝の鐘の音が聞こえました。
「さあ、今日は終わりにして、寝る準備をしなさい」
「わかってるわよ、姉さんは?まさかこのままこの部屋に居るってことは無いわよね?ベッドは一つしか無いわよ」
「そうねぇ~久しぶりにオリビアと一緒に寝るのも楽しそうだけど」
「もう!私いくつだと思ってるの!!」
「いくつになってもオリビアはかわいいわ!」
そう言って抱きつくアメリア
少しげんなりした顔で引き離すオリビアですが、本心からいやと思っているわけではありませんでした。
(コレがノア兄だったら、ソッコーひっぱたいてるけどね、まあその前に絶対に抱きつかせないけど!!)
そんなコトを考えながら、天使のような微笑みで、静かに姉を押し出すオリビアでした。
ワイアットの特別授業が始まって3日たちました。
今日も夕食はいつものメンバー、そこにワイアットが加わっています。
全員食事は終わり、それぞれ好みの飲み物を飲みながらくつろいでいます。
こちらの世界も飲み物の種類は前世とほぼ同じ、コーヒー紅茶ココア、特に紅茶はかなりの種類があります。
オリビアの好みは前世の好みと同じ、ブラックコーヒー
若い女性でブラックコーヒーを好んで飲む人は、オリビアの周りでほとんど居ません。
前世の記憶を思い出す前は、どうしてこんな苦いだけの物が好きなのか、自分でもわかりませんでした。
「それでオリビア、大体の構想は決まったの?」
魔道具の非常勤講師の仕事も終わり、気になって仕方が無かったことを尋ねるワイアット
「大体の所はね、でも本当に大雑把、大まかな大きさと使うパーツなんかを書き込んだだけ」
「この後みんな自習室に行くんだろ、またそのときに見せてもらうよ」
「兄さん明日は領地に帰るの?」
「アアその予定だよ」
「じゃあ構想見てもらって、持って帰ってもらって良い?マット達にも見てもらいたいの」
ジョンソン3兄弟、やはり一番親しみがあるのは同じ年のマットです。
自習室に移動したいつもの面々
自習そっちのけでオリビアの周りに集まっています
「ダイタイこんな感じ」
その中心でオリビアが構想を説明し出しました。
広げた図面、ある程度きちんとした縮尺で書かれているようですが
マダマダかなりラフな物です
それでも、見る人が見れば、最低限必要なことは書いてあるようでした。
「車輪は前後に2輪だけなんだ、これで真っ直ぐ走れるの?」
もちろんこの世界に2輪の乗り物は有りません。
有るのは手押し車、つまりはリアカーのように左右に2輪の物だけです。
「大丈夫、サーフィンもスノボもある程度スピードが出ると安定するでしょ、これも同じ」
オリビアの態度から、たぶん前世にはそう言う物が有ったんだなと、察するワイアット
他のメンバーはかなり納得がいかない顔をしています。
「そうねぇ~」
少し当たりを見回すと
魔法の訓練用の色々な素材から円盤状の物を取り出します。
机の上でそれを軽く転がすオリビア
「こんな風にある程度勢いが付くと、倒れない物なのよ」
そう言うと、机の端まで転がった円盤を魔法でくるっとUターンさせて自分の方に戻ってこさせます。
「オリビア、今簡単に動かしたけど、今の魔力制御って結構繊細よね」
「私もそう思った」
円盤が倒れずに転がることは当たり前、それを狭い机の上で綺麗にUターンさせたオリビアの魔力制御に感心する、アリアとシャーロットです。
周りに居た他の生徒達も、2人の発言でそのコトに気がつきました。
しかしそう言う繊細なことにはあまり興味なのない男もいます。
「ナンカ難しそうダナ!サーフボードやスノボみたいに、平たい板に車輪付ければ良いじゃ無いか!」
いかにもノアらしい大雑把な考えですが、何人かは少しばかり同じ考えだったようです。
「それは私も考えたわ、でも車輪の大きさがねぇ~それなりに大きくないと上手く動かないと思うの」
そう言えばその通りだ
当たり前のことを聞かなくて良かった
っと思いながら、全くノアは脳筋なんだからと言う目でノアを見てごまかす、ギャラリー達でした。
サーボード、スノボとくれば、次に考えるのはスケボーです。
しかしスケボー、あるいはキックスケーターなどはどうしても舗装路である必要があります。
この世界の道路、特に幹線道路は貴族の魔法でかなり綺麗に整備されています。
表面は堅く押し固められていて、馬車などの車輪の大きさであれば、快適に進むことが出来ます。
それでも、スケボーはとても無理、前世にあったようなオフロードスケボー・・・マウンテンボードと言う物ならなんとかなりそうですが、空気の入ったタイヤが必要になります。
その点オフロードバイクに近い物が出来れば、幹線道路でだけでは無く、ほとんどの道を走ることが出来るはずです。
空気の入ったタイヤはありませんが、ゴム巻きの車輪はすでにあります。
馬車の車輪、特に人が乗る馬車などは、ほとんどゴム巻き車輪が使われています。
「とりあえずコノ全体図から部品図起こしてって、ジョンソン商会に依頼しておいて。製作も同時に進めて良いわ」
「ああ、分かったよ発注は僕の方から掛けておくよ」
「ありがとうぉ~駆動部分は・・・平民が使える物も用意出来そう?」
「もう試したよ、回転する羽根の部分と軸受けに魔方陣を設置した試作品があるんだ、ジョンソンに試してもらった。回転数だけなら、これと遜色ないところまで回ったよ」
「そうすると、後はトルクだけね」
小声でつぶやくオリビアです。
魔道モーターから出力軸へのギア比は1/10、そこから後輪にはベルト駆動で1/2
車輪の大きさは、旧世界の27インチ程度
時速40kmを出すにはダイタイ300rpmの回転が必要です
魔道モーターの回転数は6000rpmとなります
オートバイのエンジンよりは低回転
車のエンジンくらいの回転数です。
一日は20時間、オリビアの感覚では一日の長さは旧世界とあまり変わりません
最近取り決めた時間の単位では、鐘ひとつが1時間、1時間は100分
ココの1分は前世の45秒くらいになります
6000rpm、この世界の単位だと、4500rpmとなります。
きちんと測ったわけではありませんが
旧世界のモーターやエンジンの感覚から
魔道モーターの回転数は、その位出て居たと思われます。
但し、無負荷の状態、高位貴族の1/10もパワーが出ない平民が扱って
どのくらいの馬力が出るかは
鐘の音が鳴りました
自習時間終了の合図です
「お~い、おまえら、もうおしまいだぞ。ット言っても誰も魔法の練習してないけどな」
今日の自習室の担当はミューラー先生でした。
「先生だって一緒になって見ていたじゃないですか」
「まあな、新しい技術の発明、これも立派な勉強だからな」
ミューラーも、見何が練習をしていなかったことに、特に文句を言う様子もありませんでした。
ワイアットとオリビアが資料をまとめ、皆で退出しようとしていると
急にワイアットが立ち止まりました。
「そうだ忘れてた、オリビアの考えたウォータージョット、かなり便利なんだけど、ノズルが頻繁に痛んでね」
「そうね、真鍮だとチョット弱いかも?」
「それで新しい合金、サスで作ってもらった」
「え~それは大変だったでしょう」
ココの技術でステンレスに長くて細い穴を開けるって、至難の業よね
ジョンソンかわいそう
因みにステンレスはサスとオリビアが命名しました
ステンレスでも良かったのですが
旧世界の人は大抵ステンレスを縮めてステンと呼んでいました
錆びない鉄、ステンレススチールなのに、ステン・・・錆びって呼ばれるのがなんだか釈然としない
そんな考えで、ワイアットに「この合金なんて名前にするの?」
そう聞かれた時
SUSと答えたのでした。
「そうしたら、驚いたことに水のスピードが倍から三倍近くになったんだ!」
「え!ホント?」
「ああ、どうもあの金属、魔方陣と水との相性が抜群に良いみたいだね」
「そうなんだ」
ナニカよからぬことを思いついたような意味深な笑いをするオリビアでした。
やっと更新出来ました
あと数日で2ヶ月
もう少し頻繁にアップするようにしたいんですが




