機竜との出会い
奥へと進むアルマはこの洞窟に次第に違和感を持つ。
光源が無いのに視界が確保出来ているのだ。
薄暗いが何も見えない訳ではない。
早朝、家の廊下を電気を点けずに歩くようなそんな暗さだ。
廊下、確かに廊下だった。
ゴツゴツした岩肌向き出しの洞窟がいつの間にか整えられた廊下のような様相を醸し出している。
例えるならSF映画に登場する宇宙戦艦の廊下のような、そんな印象をアルマは持った。
「おいおい、なんだこれ、この世界は剣と魔法のファンタジー世界のはずだろう。
こんな構造物、地球にも無かったぞ」
左腕の激しい痛みか、はたまた宇宙戦艦の廊下さながらの構造物に高揚しているのか、アルマは興奮気味に独り言を言いながら奥へ奥へと進んでいく。
そして最奥、壁へとぶち当たった。
いや、壁ではない。扉だ。
一見すれば、あるいはこの世界の人間が見れば模様付きの壁と判断しそうな大扉がアルマの眼前に広がっている。
「自動ドアとかか? 開かないか、行き止まり? くそ、これならまだ普通の洞窟だった方が良かったぞ」
辺りを見渡すアルマの目に、何やらボタンが並んだコンソールのような物が見える。
一か八かで恐る恐る触ってみると、光がコンソールに灯った。
「光った!? この建造物、電気が生きてるのか!?」
ここに至るまでにアルマはこの場所について妄想していた。
古代の科学文明の名残か、はたまた墜落した宇宙船の一部か、それともダンジョンの一部がそう見えてるだけか、と。
しかし、アルマはコンソールの横に刻まれていた文字からなんとなくこの建造物の正体を察する事になる。
「刃物で刻んだんじゃないな。
文字を刻印したプレートをビスで止めてるのか、というか、コレって日本語じゃないか。
……ここに辿り着いたラッキーな同郷の転生者にプレゼントだ、パスワードはクリスマスの日付け。
君の先行きに幸多からんこと祈る。では、良い異世界ライフを、先輩転生者より。
…………は? クリスマス? 1225か?」
と、半信半疑でコンソールに数字を打ち込むとギギギと嫌な音を鳴らしながら大扉がスライドして開いていく。
「おーい、パスワードざるくないか?
いや、そもそも転生者にしか読めないから良いのか。
この施設は俺の前にこの世界に転生した誰かが造ったってことだよな。
俺、大したスキルなんにも持ってないのにスゲえな先輩」
大扉が開くと同時に廊下にも光が灯る。
すっかり明るくなった廊下を、アルマは進む。
長い廊下をひたすら進むと、今度は小部屋に突き当たった。
中に入ると扉が背後で閉まり、一瞬体が浮くような感覚に襲われる。
エレベーターだ。
随分降りているようだ。
地下何階と分かるようなモニターや案内板は無い。
いったい何処に繋がるのか、先にあるプレゼントなる物が何か予想しながらアルマはエレベーターが泊まるのを待った。
ファンタジー世界にそぐわない科学兵器でもあるんだろうか、それとも便利グッズ?
食べ物とかあれば助かるんだけどなあ。
医療キットとかも欲しいなあ、頼む先輩食べ物は置いてて下さい。
いや、あっても腐ってるか?
そんな事を考えているとエレベーターが少しの衝撃も無く止まり、ドアが静かに開いた。
先は真っ暗で見えない。
固唾を飲み込み、アルマは一歩踏み出す。
するとパッと眩い光がアルマを包んだ。
あまりの眩しさに目を瞑るアルマ。
ゆっくりと目を開けたアルマは、研究室の用な部屋の中央で、鎮座された状態で自分と同じ体高程あれ機械で出来た竜を見る。
濃いメタルレッドの体色は一見すれば黒く見えるが、角度を変えると各部品の角が紅く輝いて見える。
四本足、ニ枚の翼、長い尻尾。
文献に見られるドラゴンを縮めたようなそれが、近付くアルマに反応したか、起動。
犬のおすわりの様な格好から四本足で地面を踏みしめるように立ち上がると翼を大きく広げ、車の急ブレーキの様な咆哮を吐き出し、アルマの耳をつんざく。
「あれ? 俺、これ死ぬんじゃない? 大丈夫?」
機械仕掛けの竜の顔、目にあたる部分に紅い双眸が輝く。
その紅い眼は静かにアルマを見つめていた。